キングジムがデジタルメモ「ポメラ」DM30を発表した。ポメラ10周年を記念するモデルであり、6月8日から税別43,000円で発売するという。
DM30は、観音開きのフルキーボードがコンパクトな筐体の中に折りたたまれている。単3形乾電池2本で20時間駆動し、内臓されたATOKでテキスト入力ができる、いわば現代版のスタンドアロンワープロ専用機だ。
ディスプレイは6型で、折りたたんだときのサイズはいわゆるCDケースを3枚重ねたくらいのボリュームをちょっとだけはみだす。気になる重量は電池抜きで450gだが、電池を入れた状態での実測では507gあった。E Inkの電子ペーパーを採用し、視認性は秀逸だ。ただ、反射式でバックライトを持たないため、暗闇では何か別に補助灯が必要になるだろう。ライターとしては、暗いカンファレンス会場などで使うのはつらいと思う。また、前の画面の残像が目立つ点も気になった。適当な頻度でリフレッシュされるし、手動でもリフレッシュできるのだが、その頻度はもう少し高くてもよかったのではないか。
解像度は800×600でアスペクト比は4:3だ。文字サイズ、行間は可変なので、一画面にどのくらいの文字が表示できるかは、設定したサイズに依存する。見やすさを優先して、デフォルトよりもひとまわり大きく32ドット文字を行間1/2にすると、23字×11行、計253字だった。必要十分だ。
ニッチな用途を満たす方法を考える
かなり細かくカスタマイズができるのは従来モデルと同様で、たとえばCtrlキーとCaps Lockキーを入れ替えることもできる。残念ながらCtrlキー+アルファベットキーのコンビネーションについては変更不可だが、標準的なWindowsのショートカットキーにほぼ準拠している。また、ATOKについてもキーアサインはPC版と同様だ。そのため、テキストを入力するだけなら、愛用の秀丸エディタとATOKが専用ハードウェアとして活用できるくらいのイメージがある。実際、入力スピードもしっかりしたキーボードのおかげでほとんど抑制されることはない。
こうして入力したテキストはSDメモリーカードやmicroUSB経由でPCと連携できるほか、東芝の無線LAN搭載SDカード「FlashAir」に対応する。さらに、入力済データをQRコードで表示し、それをスマートフォンのカメラで撮影してデータ転送することができる。残念ながら、専用アプリはiOS用のものしか用意されていないが、AndroidスマートフォンでもQRコードを読むためのアプリを使えば転送は可能だ。ただし、長い文章は複数のQRコードに分割して転送するのだが、それを連続して読み込むような場合に不便を感じる。連続読み取りに対応したアプリもあるようなので、気に入ったものを探してくるしかない。
キングジムは、万人がそこそこ欲しいと思う商品だけではなく、少人数でも熱烈にほしいと思ってもらえる機器を作りたいという。そしてその意義をアピールする。現在のポメラのメインユーザーは、40~50代が7割で、しかも男性が8割だという。10年前のポメラはメモや備忘録のために使われたが、時代は変わって今は、私用や仕事での原稿執筆に使われることが多いとのことだ。
比べてはいけないと思いながらも、いろいろ考えてしまう。たとえば、常に持ち歩いているスマートフォンに、200グラムくらいの外付けキーボードをBluetooth接続するんじゃだめなんだろうかとか、800グラムに満たない重量のレッツノートRZシリーズなどではどうなのかといったことだ。
個人的に毎日の取材などに持ち歩いているレッツノートRZ5は実測で768グラムだ。今となっては処理能力が著しく低い部類に入るPCだが、LTE通信までできるフルWindows機、しかも画面サイズは10.1型のフルカラーでタッチ対応。DM30の507gに対して261gの追加でこうした環境が手に入る。
DM30を取材の現場で使ってみた
自分自身の戦力になるかどうかをチェックするために、実際に、DM30を取材の現場で使ってみた。机の上での試用ではわからないことが見えてくると思ったからだ。
ところが、いざ挑んだ現場は、よりによってテーブルどころかイスもない立ったままでのものだった。仕方がないので手持ちの布トートバックに、一眼レフカメラとポメラだけを入れて現場に臨む。確かにコンパクトに収まって具合がいい。
そしていざメモに臨む。最初は立ったままでの入力もできそうだと考えていたが、これは難しかった。立ったまま片手でなら、スマホのフリック入力のほうが高速かもしれない。
メモはできるだけ高速に入力したいので、できれば両手を使いたい。そこで、その場にしゃがみ込む。そしてひざの上で使おうとするのだが、キーボードの折れ曲がりと不安定さに悩まされる。机の上での試用ではこうしたことはいっさい気にならなかったのだが、実践ではこうなってしまうのだ。
もちろんコンセプトとは異なる使い方をしているのだから、こうした点には目をつぶらなければならないだろう。この製品だけを持ち歩き、PCやスマホなどとの連携は、全体が仕上がってからという使い方なら何の問題もないだろう。日常的にまさにデジタルメモ帳として持ち歩くというならこんな不満を感じることはないはずだ。
キーボードの見える化をかなえたポメラ
理想的にはクラウドにつながって、クラウド上のデータを編集でき、いつでもほかのデバイスからそれを参照して変更を加えられるようなポメラがあったらいいなと思うが、その実現にはさまざまな犠牲を伴うことになるだろう。だから、今回の製品の割り切りは、本当にニッチを狙ったものであり、キングジムのやり方にいっさいのブレは感じられない。こいつはスタンドアロンのワープロなのだ。それ以上でもなければそれ以下でもない。
個人的にはこういう製品こそ学生諸君に使ってほしいと思う。すべてがスマホですむと考えるのではなく、しっかりしたキーボードで頭の中のものを文字として残す習慣を身につけることは大事だ。自宅などで使うPCは大きな画面のほうが使いやすい。だからといって大は小を兼ねるとは限らない。本当は自宅用とモバイル用で複数台のPCを使い分けるのがいいのだが、なかなかそういうわけにもいかないだろう。この手の専用機がすごいのは大学生活の4年間使っても陳腐化しないところで、安心して購入していい。
キーボードの見える化をかなえたポメラ。10年たってもそのままだ。無線LANやBluetoothも排除した。原点に戻ったといってもいい。これはこれでアリだと思う。でも、クラウドポメラもあったらいいなと思う。ニッチを狙うなら、取材用ポメラなんてのも考えてほしいと言うだけは言っておこう。
(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)