前回は「もっとTV」を紹介し、月額料金の設定が鍵になるという話をした。タイムシフト視聴(見逃し視聴)は、「もっとTV」のようなVOD(ビデオオンデマンド)サービスで観ることもできるし、自分でHDDレコーダーを購入して録画をすることもできるからだ。視聴者は、当然コストの安い方を選ぶだろう。
日本人は世界一テレビの視聴時間が長い?
しかし、アーカイブ視聴となると複雑だ。アーカイブ視聴とは、映画や過去のテレビドラマなどを観ること。ネット系のサービスも複数存在し、なおかつディスクレンタルも健在だ。また、「スカパー!」や「WOWOW」、BSデジタルでは、アーカイブ的な映画や過去のドラマが放送されており、これらを自分でHDDレコーダーに録画する方法もある。それぞれ、月額料金は1,000円から4,000円程度に抑えられているものの、あれもこれもと複数のサービスに入会し、さらにBDレコーダーとHDDレコーダーまで買い揃えるとなると、かなりの出費になってしまう。
料金も問題だが、いちばんの問題は「そんなにテレビばかり観ている時間はない」ということだ。フランスで開催されたテレビの国際見本市「MIPTV」で発表された統計によると、日本人の平均テレビ視聴時間は約5時間で、世界一テレビを観る民族であるという。しかし、この5時間は「テレビの電源を入れている時間」であり、朝の出勤前にテレビをつけたとか、夕食を食べながら何となくテレビをつけておいたとか、掃除機をかけている間だとか、本当に観ているわけでもない時間も含まれているだろう。
仮に1日5時間も観るとして、月に換算すると150時間。そのうち、半分はリアルタイムのテレビ視聴、およびHDDレコーダーに録画したテレビ番組を観ていると仮定すると、アーカイブ視聴は75時間となる。この75時間を、すべて1枚200円、1.5時間のディスクをレンタルしたとしたら、ちょうど1万円となる。つまり、VODサービスなどを利用する場合、総額で1万円以下になるようにしなければ馬鹿馬鹿しい。1万円以上を払ってVODサービスを利用するのは、近所のレンタル店でDVDやBDなどを借りた方が賢いという結果になる。しかも、私個人の感覚では、今の日本人が1日5時間もテレビを観ているとは思えないので、この料金設定はもっと下がってしかるべきだろう。個人的には、2つぐらいのサービスを利用して、月額5,000円程度に収めたいという人が多いのではないかと思う。
アーカイブ視聴の映像ソースは主に3種類
このようなアーカイブ視聴を楽しむには、以下の3種類のソース(入手先)がある。ひとつは、テレビ放送を自分でHDDレコーダーに録画する方法だ。地上波放送でも映画はほぼ毎日どこかの局で放送されており、無料のBS放送でも映画や海外ドラマが数多く放送されている。これだけでもけっこう楽しめるが、さらにWOWOWやスカパー!などの有料チャンネルに加入すれば、おそらく"毎日5時間テレビを観る人"でも、時間が足りないくらいのコンテンツが手に入るだろう。欠点は、"わがまま視聴"ができないということだ。
放送を映像ソースとして利用する場合、観たいものがあっても放送されなければ録画できないのは当然で、「今日はどうしても泣ける映画が観たい」「明日は休みなので、海外ドラマを一気に全部観たい」という要求はかなえられず、どうしても「録画されている番組の中から選んで観るしかない」という不自由さを感じてしまう。
わがまま視聴を可能にするには、VODサービスを利用することになる。VODサービスは、現在のところ「hulu」「AppleTV」「ユーネクスト」などがあり、ネットを通じて映画やテレビドラマをレンタルする感覚で利用できるのだ。
しかし、それぞれに特徴がある(【表1】参照)。まずは料金設定の点。huluは月額1,480円ぽっきりで、それ以外の費用は必要なく、いわゆる"見放題"のサービスだ。AppleTVは、8,800円の本体を購入する必要はあるが、月額固定の会費のようなものはなく、1本をレンタルするごとに500円程度を支払うことになる。ユーネクストは料金体系の点ではハイブリッド型だ。スタンダードパックで月額2,980円で、無料で観られる映像もたくさんあるが、一般的に多くの人が観たい新作映画、ドラマなどは1本あたり400円程度の料金が必要になる。ただし、毎月630円分の無料ポイントが付与される。
また、視聴できる機器にも大きな違いがある。huluを観られるテレビは対応機種がまだ少なく、それ以外ではネット接続対応ゲーム機、具体的には「PS3」または「Xbox 360」が必要になる。また、スマートフォンや「iPad」などで視聴することも可能だ。AppleTVはテレビさえあれば観ることができるが、パソコンやiPhone、iPadからも利用できる。ユーネクストは現在のところ、テレビのみの対応だ。
ソース | 具体例 | 必要な機器 | 費用 | |
---|---|---|---|---|
放送を録画 | 無料放送 | 地上波、BSデジタル | HDDレコーダー | 無料 |
有料放送 | WOWOW、スカパー!、Fox | HDDレコーダー | 月額3,000円弱 | |
VODサービス | 見放題系 | hulu | 対応機種 | 月額1,480円 |
レンタル系 | AppleTV、ユーネクスト | 専用機種 | 1本500円前後 | |
郵送レンタル | レンタルディスク | DMM.com、TSUTAYA Discus | DVD/BDプレーヤー | 月額2,000円前後(8枚) |
【表1】アーカイブ視聴を楽しむ方法は、放送、VOD、ディスクレンタルの3つがある。この中でVODはもっとも便利だが、対応テレビやコンテンツの品揃えの点でまだ充実しているとはいえない。多くの人がVODサービスを使うようになるにはまだ時間がかかる。現在、いちばん満足できるのは、意外にも「郵送レンタル」だ |
このようなVODサービスは将来性があるが、問題は視聴できるコンテンツが決して多くはないということだ。各サービスともコンテンツの充実については努力をしているが、一般のディスクレンタル店に比べればやはり見劣りしてしまうのは否めない。
テレビ放送以外の映像も楽しめるのがVODの魅力
一方で、VODサービスはテレビ以外でも利用できる点が大きな魅力だ(【表2】参照)。たとえば、huluの場合、パソコンやスマートフォン、iPadなどでも見ることができる。インターネットさえつながっていれば、出張先や旅行先で借りた共用パソコンであってもログインをして楽しめる。また、スマートフォンならどこでも手軽に映像が楽しめるのだ(ただし、Wi-Fi接続であれば問題ないが、現在の3G回線では映像が途切れることがどうしてもある)。AppleTVは原則的にテレビにしか出力できないが、これは「iTunes」の映像サービスをテレビ出力しているだけなので、パソコンやiPhone、iPadなどでも同じサービスが利用できる。この2つのサービスであれば、帰宅途中の電車の中でスマートフォンを使って映像を観賞し、観終わらなかった場合は続きを自宅の大画面テレビで楽しむということも可能なのだ。
そこで、このようなVODサービスを選ぶには、すでに持っているテレビ以外の機器が対応しているものを選ぶといいだろう。PS3やXbox 360をネット接続しているのであれば、迷うことなくhuluに入った方がいい(ただし、huluは米国ドラマ中心の品揃えなので、海外ドラマにあまり興味がなく、日本のドラマを観たい人にはあまりオススメできない)。また、スマートフォンで映像をよく観ることがあり、しかも出先でWi-Fi接続がある程度できる環境があるのであれば、huluかAppleTVがお薦めだ。
また、パソコン、iPhone、iPadとデジタル機器を多く揃えている人にもAppleTVはオススメできる。単に映画をレンタルできるだけでなく、その他の連携(ミラーリング)もできるからだ。特にAppleTVは月額費用が不要で、レンタルや購入ごとに支払う方式になっている。レンタルをしなければ一切の費用がかからない。パソコンやiPhone、iPadとテレビを連携させる機器と考えて購入し、レンタルはついでぐらいに考えても本体価格8,800円は決して高くない。
基本料金(月額) | 1本あたりのレンタル料金 | テレビ対応 | 他機器 | コンテンツの特徴 | |
---|---|---|---|---|---|
hulu | 1,480円 | 0円 | 一部対応 | PS3、Xbox 360、PC、スマートフォンなど | 米国ドラマと米国映画が中心、日本映画もあり |
AppleTV | 0円 | 500円前後 | HDMI接続により対応 | なし(PC、iPhone、iPadで視聴可) | 標準的だが、ドラマはない |
ユーネクスト | 2,980円 | 400円前後 | HDMI接続により対応 | なし | 標準的 |
【表2】主なVODサービスの比較表。もし、米国ドラマが好きなら「hulu」がオトクだ。対応テレビはまだ多くないものの、PCやスマートフォンなどでも観られるのは大きな魅力だ |
ただし、このようなVODサービスは、対応機器やコンテンツの品揃えの点で、万人が満足するような水準に達しているとはまだまだ言えない。このようなVODサービスに加入をしても、結局はディスクレンタル店にも足を運ぶことになってしまうだろう。
そこで、ぜひ考えていただきたいのが、郵送によるディスクレンタルサービスだ。サービスを提供する企業が増えてきて過当競争になっていることもあり、各社とも料金、サービス、品揃えが充実してきている。特にコンテンツの豊富さの点では、VODサービスを凌駕している。スマートテレビといっているのに、郵送でディスクを借りるというアナログチックな結論はどうかとも思うが、これが現在のところ、もっとも観たいものを観られる解決法でもあるのだ。しかも、いくつかの郵送レンタルサービスはネット配信も始めていて、VOD的なサービスも始めている。
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