2018年5月、仮想通貨「モナコイン」のブロックチェーンに対して、「Block Withholding Attack」と呼ばれる大規模な攻撃が行われた。被害額は約1000万円にのぼるという。「Block Withholding Attack」とは、どのような手口なのだろうか。ブロックの生成方法とともに、その仕組みを解説する。

モナコインのブロックチェーン生成の仕組み

モナコインで採用されているブロックチェーンの生成方法は、「プルーフ・オブ・ワーク(PoW)型」と呼ばれるものだ。PoWの概念は、ルーズリーフに喩えるとわかりやすい。

ルーズリーフは、綴じ目としていくつも穴が開いている。紐で1枚1枚綴ってブックレットを作っていると仮定した場合、新しいページを追加するたびに、前のページの綴じ方に配慮しながら、バラバラにならないような正しい紐の結び目を見つけなければならない。

ブロックチェーンの世界では、前ページに配慮した正しい紐の結び方を見つけた際に、ほかの参加者へ公開し、「正しい」という確認を取ってから次のページを綴る作業に移行する。これを繰り返すことでブロックチェーンが生成されていくイメージだ。当然、少人数で正しい結び方を探そうとすると膨大な時間が必要だが、大人数で試行錯誤すると、比較的短い時間で正しい紐の結び方を探し出せる。

上記の作業が繰り返されると、1つのページを綴るにも非常に大きな作業量と時間が必要になってくる。ましてや、途中のページを自分に都合の良い内容に書き換えて差し替えようとしても、既に複雑な綴り方で多くのページが綴られているため、綴り直すのに非常に大きな労力が必要で、現実的ではない。最新ページの書き換えについても、参加者全員の労力にはかなわないため現実的でないといえる。このように、書き換えが難しいことがブロックチェーンの安全性を保っているわけだ。

「Block Withholding Attack」では何が起きたのか

「Block Withholding Attack」とは、ハッシュ能力(計算能力)の高いマイナーが、生成した一連のブロックを隠し持ち、一定時間経過してから生成したブロックを一度に公開すること。この攻撃によって、一定期間、ほかのマイナーが行うマイニング(採掘)の邪魔をするというものだ。

ブックレット利用者が数人しかいない場合、紐を結ぶのは手作業でも問題ないが、利用者が増えていくと、専用のマシンによる効率的な製本作業が取り入れられるかもしれない。

しかし、仮に手作業でルーズリーフを綴じている小規模なブックレットのコミュニティに対して、1人だけ専用の機会を導入したらどうなるだろうか。手作業よりも機械のほうが効率的なので、自分の思い通りにページを追加することができるはずだ。つまり、ページを都合のいい内容に書き換えて、ブックレットに挿入することも可能になってしまうのである。

ハッシュ能力のアンバランス問題解決に向けた試行錯誤

昨今では、ビットコインをはじめとした仮想通貨が注目を集めている。世界の0.5%もの電力を消費しているという報道もあるほどだ。ASICと呼ばれるマイニング専門の機器が登場し、マイニングで人気の仮想通貨を得ることが苛烈になっていくだろう。

もし、そのマイニングパワーの矛先が、利用者の少ない仮想通貨に向けられたらどうなるだろうか。膨大なマイニングパワーを持つマイナーが悪意を持っていれば、情報を書き換えることができてしまうはずだ。

今回問題が起きた「モナコイン」は、海外取引所でも扱われる規模の仮想通貨だが、より規模の小さな通貨の場合、同様の攻撃を受ける可能性は高まるだろう。

実はこの問題、以前から議論されていたテーマであり、ASICや量子コンピューターなど、マシンスペックの著しい向上によるハッシュパワー偏在の影響を避けるための試行錯誤がすでに始まっている。

例えば、「プルーフ・オブ・ワーク(PoW)型」を維持しつつ、急激なハッシュパワーの変化に対応した方法をとる仮想通貨がある。一方、別の仮想通貨では、全体の発行済み仮想通貨の持ち分比率(Stake)により重要度を決定し、ブロックの生成を行う「プルーフ・オブ・ステイク(PoS)型」を採用しようとする動きもあるのだ。

仮想通貨の問題、どの様にとらえるべき?

世界中で仮想通貨の存在が意識され、何らかの形で関わるようになった関係者は確実に増えたといえる。しかし、関係者の増加に比例して、さまざまな問題も顕在化してくるだろう。ただし、これは100%悪いことではない。問題発見と試行錯誤を繰り返すことによって、さまざまな利用シーンにおいて実用に耐えうる仕組みが生まれてくるはずだ。

同時に、仮想通貨に関心を持つ関係者の目線から、それぞれの通貨の設計思想や仕組みに注目することで、よりよい仕組みが見つかるかもしれない。また、開発コミュニティーに仮想通貨の技術仕様の改善提案を行うことで、気に入った仮想通貨をより価値の高いものにできる可能性もある。インターネットがより深化していく過程で、それぞれの仮想通貨の技術や仕様に関心を持つきっかけになればいいと思う。

まだまだ黎明期の技術だからこそ、ある人の「こうすればいいのに」というアイデアが、今日のブロックチェーンの様に、思いもよらない形で世界の注目を集めることがあるかもしれない。

著者プロフィール

齋藤 亮

齋藤 亮

SBIバーチャル・カレンシーズ 代表取締役副社長

2010年SBIホールディングス入社。SBIグループにて、主に経営企画・事業開発に従事。
2016年SBIバーチャル・カレンシーズ株式会社 代表取締役に就任、日本初の仮想通貨交換業者として登録を果たす。
2017年より仮想通貨事業者協会(JCBA)理事。