2026年1月6日に米国ラスベガスで開幕したエレクトロニクスショー「CES 2026」に、日本からソニー・ホンダモビリティ(以下、SHM)がブースを構えて参加しています。いよいよ2026年後半から、米カリフォルニア州より納車が開始される、同社初のスマートEV「AFEELA 1」(アフィーラ ワン)の最終形・量産車がブースに並びました。

2025年1月のCESで発表して以来、注目を集めてきたAFEELA 1が目指してきたユーザー体験の本質について、SHMの代表取締役社長 兼 COOである川西泉氏に10の質問を聞きました。

  • ソニー・ホンダモビリティの社長兼COO、川西泉氏にAFEELA 1の展望を聞きました

    ソニー・ホンダモビリティの社長兼COO、川西泉氏にAFEELA 1の展望を聞きました

2025年発表後からの変化:「AI」はモビリティ体験も拡張する

2025年のCESで「AFEELA 1」の名前とスペックが発表されてから、SHMは量産に向けて最終段階のブラッシュアップを続けてきました。川西氏はこの1年を振り返り、当初の予想を超えた「ある要素」の変化が大きかったと語ります。

「一番大きな変化、インパクトがあったのはAIの影響です。私たちがスタート当時からAFEELA 1のコンセプトとして決めていた、自動運転やエンタテインメントを軸に体験価値を構築するというコンセプトに間違いはありませんでしたが、この1年はAIの急速な進化による影響を、どのように次世代のモビリティに取り入れていくのかについて、さらに考えを深める時間となりました」

AFEELA Personal Agent:人と車の自然な関係

生成AIの爆発的な普及により、自動車とAIの関係も変わりつつあります。AFEELAに搭載される「AFEELA Personal Agent」は、どのような役割を果たすのでしょうか。川西氏は「人と人が自然に語り合うような、自然なコミュニケーションの形を目指しています」と答えます。そこには、ソニーが長年培ってきたAIエージェントやロボティクスの知見も活かされています。「AIに支配されるのではなく、人間がコントロールし、関係性を作っていく。ハードウェアと人との関係の中に親しみを込めていきたい」という川西氏の言葉からは、車を単なる移動手段ではなく、愛着の持てるパートナーに発展させようとするSHMの意志が感じられます。

  • 車内でAFEELA Personal Agentに話しかけると音声で応答。フロントダッシュボードのパノラミックスクリーン上には、写真の中で緑色の円で囲ったアイコンが浮かび上がり、ユーザーの声を聞いていることを知らせます

    車内でAFEELA Personal Agentに話しかけると音声で応答。フロントダッシュボードのパノラミックスクリーン上には、写真の中で緑色の円で囲ったアイコンが浮かび上がり、ユーザーの声を聞いていることを知らせます

AIがユーザーの意図をくみ取り、ドライバーやパッセンジャーとの対話を通じて車内空間をパーソナライズする…。SHMが描くAFEELA 1の体験デザインは、この1年でさらに「AIとの共生」を深める方向へと発展してきました。筆者も、SHMがブースに展示したAFEELA 1の車両に乗って「AFEELA Personal Agent」を体験しました。

現時点で公開されている機能は、エージエントに対して自然な口調で話しかけてエンターテインメントやマップなどのコンテンツを再生したり、車の設定を変更するような使い方です。AFEELA 1のソフトウェアについては、今後も納車に向けて最終段階の調整が進められています。改めてAIエージェントの最終形を体験できる機会が楽しみです。

自動運転レベル2+の先へ:安全性と「心地よさ」の両立

AFEELA 1が提供するレベル2+の自動運転機能は、どのような“乗り味”をドライバーに提供することを目指しているのでしょうか。

「自動運転の技術が成熟してくれば、運転するドライバーによる“運転の仕方”によりいっそう近づけるパーソナライゼーションができるはずです。少しせっかちな人、ゆったり乗りたい人。その人の“乗り味”をAFEELA 1が学習していくような成長性もまた、大きな魅力になり得ると考えています」

ソニーセミコンダクターソリューションズのセンシング技術と、SHMが磨き上げた制御技術が融合することで、安全でありながら、よりドライバーの好みに近付く走行スタイルが実現されようとしています。

  • 上位ラインナップの「AFEELA 1 Signature」には3色のバリエーションがあります。冒頭の写真で川西氏が隣に立っていたAFEELA 1が“コアブラック”。この写真のモデルは“タイダルグレー”

    上位ラインナップの「AFEELA 1 Signature」には3色のバリエーションがあります。冒頭の写真で川西氏が隣に立っていたAFEELA 1が“コアブラック”。この写真のモデルは“タイダルグレー”

  • こちらは明るい色合いの“カームホワイト”

    こちらは明るい色合いの“カームホワイト”

共創が広がる:サウンドデザインとアプリ

今回の発表で話題を呼んだのが、海外でも活躍する音楽プロデューサーのTOMOKO IDA氏がデザインした「e-モーターサウンド」が、AFEELA 1への搭載も踏まえて公開されたことです。既存のエンジン音の模倣ではない、新しいスマートEVならではのサウンドデザインとはどのようなものでしょうか。

  • プレスカンファレンスのステージには、音楽プロデューサーのTOMOKO IDA氏が登壇。手がけたe-モーターサウンドを披露しました

    プレスカンファレンスのステージには、音楽プロデューサーのTOMOKO IDA氏が登壇。手がけたe-モーターサウンドを披露しました

「アクセルを踏んだ時に聞こえる音がエンジン音である必要はありません。車両情報をもとに生成AIがリアルタイムに作り出すサウンドは、その時、その瞬間にしか体験できないものです」と川西氏は語ります。AFEELA 1が搭載するAIやセンシングの技術を活かし切ることで、車内のサウンド体験を大きく変えられる可能性はまだ数多くあります。例えばドライブする街並み、自然環境、天候などの環境をセンシングしながら、AFEELAが最適なBGMのプレイリストを自動生成することもできるかもしれません。リビングルームとは違う、よりインタラクティブなサウンドデザインを追求できる面白さがあります。

SHMはスマホやタブレットのように、Androidベースのオープンなプラットフォームの上にさまざまなオートモーティブ向けのアプリをインストールし、エンターテインメントやユーティリティを拡張できるスマートEVです。「AFEELA共創プログラム」を立ち上げ、外部のクリエイターやAppデベロッパが体験の創出に参加できる仕組みも整えました。「モバイルデバイスの延長ではなく、オートモーティブならではのセンサーや走行データを活用した、これまでにないアプリが生まれることも期待しています」と川西氏が語るように、今後はさまざまなクリエイターが車内空間を「プレイグラウンド」として活用する未来が既に訪れています。

クリエイターの参加を促す:「X-to-Earn」の真意

SHMは「X-to-Earn」というブロックチェーン技術を活用しながら、AFEELA共創プログラムにクリエイターが参加して、マネタイゼーションを実現できる仕組みを発表しました。詳細についてはまだ明らかにされていませんが、川西氏にそのコンセプトを聞きました。

「AFEELAは、最初から数百万台のオーナーを獲得できるような商品ではありません。その点は、スマートフォンやPlayStationのようなゲームコンソールと大きく違います。ユーザー数が少ない中でエコシステムを拡張するために、外部のクリエイターが自由に参加できるオープンな環境と、その貢献に報いる仕組みが必要であると考えました」

将来的には、ユーザー自身が自分の車をカスタマイズするアプリを作るなど、愛車を一緒に育てる楽しさがここから生まれることも考えられそうです。

  • 車内でPlayStation 5のゲームがリモートプレイで楽しめます。ソニー関連会社からサードパーティのアプリまで、今後さらに充実しそうです

    車内でPlayStation 5のゲームがリモートプレイで楽しめます。ソニー関連会社からサードパーティのアプリまで、今後さらに充実しそうです

北米での反響:“初めてのEV”を買う層がAFEELA 1に注目

2025年の予約販売開始以来、SHMが北米で展開してきたプロモーションでは10万人以上の来場者を獲得し、2万4000回以上のデモンストレーションを実施してきたそうです。その成果として、見えてきたAFEELA 1に注目するユーザー像は意外なものでした。

「テクノロジーに関心の高い西海岸の方々が中心ですが、中には『これまで日本車を愛用してきたけれど、EVへの乗り換えを迷っていた』という方々も多くいらっしゃいました。ソニーとホンダ、2つの信頼できるブランドが融合したことで“初めてのEV”としてAFEELAを選びたい、と考えてくださる方々が存在しています」

川西氏のコメントから、「ソニーとホンダが作る新しいモビリティ」への期待が、これまでスマートEVの購入に慎重だったポテンシャル顧客層の背中を押していることが垣間見えてきます。

納車に向けたオペレーション:SDVの試乗体験を拡大する

2026年後半からカリフォルニア州で始まるAFEELA 1の納車に向けて、体制構築は急ピッチで進んでいます。

ホンダが構えるオハイオ工場(East Liberty Auto Plant)のラインを使い、AFEELA 1の先行量産車が完成しています。今回のCES会場に並べられたAFEELA 1の実車も、すべて最終段階の量産車です。現在はデモドライブの拠点を準備し、エンタテインメント機能から走行性能まで、段階的に体験の幅を広げている段階であるといいます。

車両そのものの完成度を高める段階を経て、今後はサービス拠点やデジタルを通じた「SDV体験体験」など、一連のオペレーションをSHM流に構築することが現在の最優先課題となっています。

  • AFEELA 1を体験できるスペースがカリフォルニア州を中心に拡大しています

    AFEELA 1を体験できるスペースがカリフォルニア州を中心に拡大しています

日本市場での展開:新しい体験価値を求める層に期待

SHMは、AFEELA 1の日本での納車について、2027年前半を予定していることを伝えています。日本ではどのような層がターゲットとして想定されているのでしょうか。川西氏に聞きました。

「日本のEV市場はまだ発展途上ですが、それゆえに『これまでにない新しい体験価値』を求める層に向けた提案になると考えています。アメリカと同様、テクノロジーに敏感な層、そして新しいライフスタイルを求める層にAFEELA 1が響くはずです」

米国アリゾナ州への拡大も2027年以降から予定されており、日米を軸にしたグローバル展開が本格化します。

  • 日本には2027年前半から納車が始まる予定です

    日本には2027年前半から納車が始まる予定です

日米モデルの仕様:米国と共通の体験を届ける

気になるのは日米での車両仕様の違いですが、これについては「基本的にはほぼ同じ」とのことでした。

「右ハンドル・左ハンドルの違いや法規対応はありますが、AFEELAの核となるインテリジェント機能、エンタテインメント体験などに違いはありません。どこにいても、AFEELAとしての統一された体験を提供します」と川西氏は答えます。

次世代への布石:AFEELA Prototype 2026の誕生

今回のCES 2026でサプライズ公開されたのが、次世代の「AFEELA Prototype 2026」です。AFEELA 1よりもひとまわり大型な車両をデザインした背景には「空間の自由度をさらに広げるためのアプローチ」があると、川西氏は説いています。AFEELAの本質を保ちながら、セダンタイプのAFEELA 1とは異なるニーズを持つカスタマーに向け、多様なライフスタイルを提案するプロトタイプです。この車両もまた2028年以降の投入を目指し、すでに開発が進んでいます。

  • CES 2026では、新しいSUVタイプのプロトタイプ車両が発表されました

    CES 2026では、新しいSUVタイプのプロトタイプ車両が発表されました

いよいよ米国で「AFEELA 1」が公道を走り始めます。川西氏も「ここからが本当のスタートです」と語り、自らを鼓舞するかのような表情を浮かべました。川西氏の言葉には、既存の自動車メーカーとも、IT・テック企業とも異なる新しい「モビリティの創造主」としての確固たる自信があふれていました。AFEELA 1が米国の公道を走り出してから、またその先に次世代のモビリティによる私たちの移動体験がどのように変わるのでしょうか。その全貌が明らかになる日は、もうすぐそこまで来ています。