2018年に創業し、アスリートの知見と最新の技術を活かしたリカバリーウェアで瞬く間にヘルスケア市場を席巻した「TENTIAL(テンシャル)」。睡眠に着目した「BAKUNE」は高い人気を誇る。代表取締役 CEOの中西裕太郎氏にTENTIALの歩みを伺ってみたい。
プロサッカー選手への道を断念し、プログラミングを学ぶ
23歳でTENTIALを創業した代表取締役 CEOの中西裕太郎氏は、30歳という若さで東証グロース市場への上場を果たした注目の経営者だ。中西氏はどのような経緯でリカバリーウェアに注目し、TENTIALを立ち上げたのか。まずはその軌跡を追ってみよう。
「『TENTIAL』という社名は、“ポテンシャル(可能性)”という言葉がもとになっています。もともと自分がスポーツをやっていく中で、たまたま病気になってしまったことがきっかけでした。スポーツ以外のところで自分の可能性を模索したい、可能性に挑戦するためには健康でないと挑戦し続けられないという思いがありました」(中西氏)
中西氏はこのようにTENTIALの由来について語り始める。幼児期に味の素スタジアムで東京ヴェルディとレアル・マドリードの試合を観たことをきっかけに、小学校1年生でサッカーを始め、プロサッカー選手を目指していた同氏。高校では地元のサッカー強豪校に進学し、インターハイにも出場するという、まさにアスリートの人生を歩んでいた。
「なぜサッカーをやっていたのかと問われると、プロサッカー選手になりたいという思いはもちろんですが、当時は『いかに自分が認知されるか』という動機もあったかなと。なにかに熱中する中で、サッカー選手がすごくキラキラして見えたし、そういう世界の中心にいたいという思いもありました」(中西氏)
努力を重ね、「もしかしたら自分もプロになれるかも」と思っていたアスリート少年を襲ったのが、突然の心臓疾患だ。幸い大事には至らなかったものの、中西氏はプロサッカー選手への道を断念することになる。
「実力で夢が断たれたなら諦めがつくのですが、実力以外のところでの断念だったので、不完全燃焼感はずっとありました。ただ、いま振り返るとサッカーをやって良かったなとも思っています。限られた時間でどうパフォーマンスを出すかという観点で見ると、ビジネスでも通じるものがあると思います」(中西氏)
そんな中西氏の情熱の炎が再び燃え盛ることになったのは、たまたま動画サイトで開いていた、当時のアメリカの大統領、バラク・オバマ氏のスピーチだ。オバマ氏は動画でプログラミングの可能性について語り、若者たちに「ゲームを買うのではなくプログラミングを学ぶべきだ」と説いていたという。こうして中西氏はプログラミングの勉強にのめりこんでいく。
「当時はネットの教育サービスがほとんどなく、『ドットインストール』というサービスがあった程度で、本が主な情報源でした。いまは自分の実力を測るツールやアプリがありますが、昔は測るものがなかったですね。本当に一つひとつ聞いたりしながら、手探りでプログラミングの勉強をしていました」(中西氏)
リクルートキャリアへ転職し、ビジネスを学ぶ
このプログラミングの勉強が、中西氏に新たな人生をもたらした。スタートアップに興味を持ち、SNSを通じた出会いがきっかけとなり、中西氏は高校卒業後に19歳でスタートアップ企業「インフラトップ」の創業メンバーとして参画。プログラミング教育に携わり、寝る以外の時間をすべて仕事に費やすような毎日を送っていく。
「当時の会社は『挑戦をスタンダードに』をテーマとして掲げていて、私の原体験になっています。創業時はマンションの一室からスタートし、みんなで未来を見ながら日々仕事をしていたという感じです。ですが社会人経験のあるメンバーも少なかったため、最初は気合いや根性で何とかなっても、次第に事業成長に組織がついてこなくなることも多く、力不足を痛感しました」(中西氏)
インフラトップで働き始めてから3年、中西氏は次第に起業を志すようになっていく。そのテーマは、原点である「スポーツ」と「健康」だ。とくにアスリートのセカンドキャリアは難しい。スポーツという道から離れたアスリートが再び人生を楽しめるような事業を中西氏は模索し始めた。
だが、そのアイデアを披露しても投資家や起業家から芳しい反応は得られない。再び実力不足を感じた中西氏は、偶然声をかけられたリクルートキャリア(現:リクルート)に22歳で転職。改めてビジネスの修行を始めた。
「ビジネスプランを考えていく中で、自分が見えていない部分がまだまだたくさんあると感じたんです。スキルの話もそうですし、組織を動かすことや、数千億から1兆円規模になるような会社がどう動いているのかというところは、外から見るのと中から見るのではまったく違います」(中西氏)
中西氏はリクルートキャリアで企画職に就任。新規事業に関わったり、横断的に事業を作ったり、予算を調整したりと、さまざまな経験を重ねる。
「正直、なにを成し遂げたかというとあまり大きな成果はなかったのですが、個人としては非常に学びの多い期間でした。“ロマンとそろばん”という言葉は、いまも大事にしています。ロマンとは“世の中をどう良くするか”、そろばんは“数字(利益)”です。この二つはいまも意識しているテーマで、両輪がちゃんと回るビジネスを心がけています」(中西氏)
コンディショニングブランドとして立ち上げられたTENTIAL
そして2018年2月、中西氏は満を持して事業をスタートさせた。会社名はAspole(アスポール)。当初の事業はWebメディアで、その成果が⽉間100万PVを達成したスポーツプラットフォームメディア「SPOSHIRU(スポシル)」(※現在はサービスを終了)だ。
この事業の成功を皮切りに中西氏は“コンディショニングブランド”として「TENTIAL」を立ち上げ、その後社名も「TENTIAL」へ変更する。
「創業のきっかけは、自分がやってきたスポーツという経験を社会に還元したいという思いでした。それをビジネスにつなげたいと思った時に、ビジネスパーソンの健康に対する知識が少ないと感じていました。アスリートが実践している体づくりや食事、睡眠の知識が身につけば、もっとビジネスパーソンのパフォーマンスは上がると思ったんです」(中西氏)
TENTIALが最初に発売したアイテムは靴のインソール「TENTIAL ZERO」。これは日常生活の多くを占める“歩く”時間を支える・整えることを目指したものだったという。そして“歩く”以上に多くの時間を占めている“寝る”に注目して開発されたのが、リカバリーウェアの「BAKUNE(バクネ)」だ。
同製品は約2万6,000円と高価格帯ながらも、2024年末までに100万セット※を超える売り上げを達成。TENTIALは急成長を遂げ、2025年2月28日に東証グロース市場に新規上場を果たした。中西氏は、「BAKUNE」が成功した理由を次のように分析する。
※100万セット:トップス・ボトムス2点で1セット換算
「外的要因として、世の中全体の健康投資が伸びていると感じていました。コロナ禍もきっかけの一つでしょう。投資できる商品として“整骨院や病院、旅行に行く”、“枕やマットレスを変える”などがありましたが、そこに“パジャマを変えるだけで疲労回復につながる”という新しい選択肢を加えたことが大きかったのではないかと思います」(中西氏)
創業当初はいろいろな人から「スポーツ・健康は難しい」と言われ続けてきたという。だが中西氏は“これが価値になる”という信念と確信のもと、ブレることなく事業を続けてきた。
広がり続ける「BAKUNE」シリーズ
「BAKUNE」がヒットした背景には、TENTIALが医療機器製造業の許可を取得し、大学などの研究機関とともに積み上げたエビデンスをもとに高品質・高機能な製品を作り、顧客の信頼を確実に築いていったこともあるだろう。「BAKUNE」がどうして質の良い睡眠環境につながるのか。その機序を中西氏は次のように説明する。
「BAKUNEリカバリーウェアは、快適な睡眠環境をサポートする一般医療機器の睡眠用ウェアです。BAKUNEに使用している特殊機能繊維『SELFLAME(セルフレーム)』は、体から発せられる遠赤外線を輻射することで血行を促進し、疲労回復や筋肉のコリ等の改善に繋がります。さらに、快適な眠りに特化した独自の設計を採用することで、快適な睡眠環境をサポートします」(中西氏)
現在、「BAKUNE」シリーズはさまざまなカラーバリエ-ション、春夏・秋冬の素材、半袖から半ズボン、パジャマタイプからセットタイプまで、100種類以上をラインアップしている。
なかでも、酷暑が続く中で注目の製品が機能性掛け布団の「BAKUNE Comforter」シリーズだ。TENTIALの独自技術「Sleep Conditioning Technology」に基づいて開発された掛布団で、夏用掛布団「BAKUNE Comforter Cool」の中わたには、温度調節素材「THERMO FLEX」と除湿素材「B型シリカゲル」を採用し、ひんやり触感を実現。さらに優れた調温調湿機能により、エアコンを付けた環境時でも睡眠に理想的な布団内環境=「快眠温湿度(温度33°C±1°C、湿度50±5%)」に近づける効果があり、快適な睡眠環境を実現している。
健康問題を解決していくことで生産性を上げていく
昨今、TENTIALは三井不動産レジデンシャルやANA、Jリーグ、大橋運輸、そして地方自治体など、企業・団体連携の取り組みも加速させている。中西氏はその理由として、不調のまま働くことで本来のパフォーマンスが発揮できない「プレゼンティーズム」に言及する。
「私たちのミッションに紐づきますが、やはりポテンシャル(可能性)を引き上げていくというところがテーマです。なかでも、健康問題を解決していくことによって生産性の向上に寄与することに注力しています。また、労働年齢が延びていることも重要な点です。私たちの商品をきっかけに、より健康意識が高まっていくことを目指しています」(中西氏)
中西氏の成功は世界的にも注目されており、2024年にはForbes誌の「Forbes 30 Under 30 Asia 2024」にも選出された。TENTIALの今後の展望について伺ってみよう。
「シンプルに良いものをたくさん作り、届けていくという方針は変わりません。私たちはオンラインからスタートしましたが、店舗を拡大しながら、より多くの方が実際に手に取っていただける環境を構築したいと思っています。現在は国内市場が中心ですが、海外も視野に入れており、健康意識と購買力が高い先進国に向けた展開を検討中です」(中西氏)
最後に、ビジネスパーソンに向けて中西氏からメッセージをいただいたのでご紹介しておきたい。
「『ポテンシャル』が僕自身、そしてTENTIALのテーマでもあるので、何歳になっても新しいことにチャレンジすることが当たり前の世の中になったらいいなと思います。そのためには体を整えていくことが必要です。自分のマネジメントをできない人が、組織やメンバーをマネジメントするのは難しいでしょう。自分自身をしっかりマネジメントし、自分のコンディショニングをすることこそ、自分の可能性を引き出すことにつながると思います」(中西氏)







