ここ1年ほどで、実家に住む父から「自宅のデスクトップPCの調子が悪い」と相談を受けることが増えました。

はじめの方は「余計なアプリを閉じよう」とアドバイスをしていましたが、どうにも調子が戻らないということでPC本体を確認してみると、2012年に発売されたIntelの第3世代Core CPU「Ivy Bridge」を搭載したなかなか古いPCだったことが判明しました。

Ivy Bridgeは、当時としては高性能・省電力、かつ当時のドル円レートの影響で安価に購入できたという過去を持つCPU。このため、一般的なパソコンの買い替えサイクルである5年を超えても使い続けるユーザーが多い……とされています。前年に発売された「Sandy Bridge」と並んでかなり物持ちがよく、「別に困ってないし」と今でも使い続ける愛好家も多いとか。

  • 実家で使われていたIvy Bridge世代のデスクトップPC。当時としてはハイエンド寄りの構成

しかしながら、10年以上前に発売されたCPUを今後も使い続けるのは、OSのサポートや脆弱性への対応といった観点からも問題が多く、そろそろ新しいプロセッサを搭載するPCに買い替えてもいいかなと感じます。

筆者なりに父の使用シーンを考えた結果、省電力性が話題となっているCPU『Intel Processor N100(以下Intel N100』を使用したデスクトップPCへ買い替えてもらうことにしました。そこで今回は導入したIntel N100搭載のPC『UN100L』を紹介しつつ、

  • 旧世代CPUをアップグレードすべき理由
  • Intel N100の概要と性能
  • 新旧PCのパフォーマンス比較

などをまとめ、Windows 11へアップデートできない旧世代CPUからの乗り換え先として、Intel N100 CPUの魅力について迫っていこうと思います。

Windows 10のサポートがもうすぐ終わってしまう。最新OS対応がマスト

まずは旧世代CPUを搭載したPCをなぜ新世代にアップデートすべきなのかを、現在主流となっているWindows 11のシステム要件から確認していきましょう。Microsoftの公式ホームページ(外部サイト)では、Windows 11をインストールするマシンの最小システム要件が公開されています。

この資料を参考に、「Windows 11」が公式にサポートされているIntel製のCPUを確認してみると、デスクトップPC向けの場合は「第8世代Core」(Coffee Lake)、ノートPC向けCPUであれば「第8世代Core」(Kaby Lake Refresh)以降がサポートされていることが分かります。

今回のIvy Bridgeの場合についてみてみると、Windows 11のシステム要件として定義されている、セキュリティ機能である「TPM 2.0 (Trusted Platform Module)」に非対応であることから、サポート外であることがわかります。

  • Microsoftから提供されている「PC 正常性チェックアプリ」を使うと、Windows 11へのアップデート可否が確認できる

つまるところ「Ivy Bridgeを含め、第7世代CPU搭載のPCを使っている人はWindows 10を使い続けるしかない」のですが、ここで注意したいのがWindows 10のサポート期限です。

現在、Microsoftから発表されているWindows 10のサポート期限は2025年の10月14日。この日以降、一般ユーザーはWindows Updateを介したソフトウェア更新プログラムや、有償テクニカルサポートはMicrosoftから提供されなくなります。

もちろんセキュリティ修正プログラムもこの例外ではないため、2025年10月以降に新しい脆弱性が見つかったとしても、その脆弱性が残り続けてしまいます。つまり、インターネットに接続しない状態で使用する場合をのぞいては、PCを使うリスクが大幅に増加してしまうわけです。

省電力性能の高さが注目されている『Intel N100』とは?

買い替え先に悩んでいる方も多いと思いますが、今回筆者が選んだのは『Intel N100』CPUを搭載したPCです。

Intel N100は「Alder Lake-N」というコードネームの付けられているIntelのエントリー向けCPU。第12世代Core「Alder Lake-S」のうち「Eコア」のみを搭載しています。Alder Lake-S自体が高性能な「Pコア」と高効率な「Eコア」を組み合わせたアーキテクチャとなっていて、「Eコア」のみを採用したIntel N100は「省電力で使える」CPUというわけです。

具体的にどれくらい省電力なのかというと、このCPUは発熱量やおおまかな消費電力の指標になるTDP (Thermal Design Power) がわずか6W。同じAlder Lake-Sシリーズでの下位モデルにあたる「Core i3-12100」のPBPが60Wであることを考えると、およそ10分の1の消費電力で使用できるCPUというわけです。

(筆者注:Intel Coreは、第12世代からTDPに代わって「PBP (Processor Based Power)」と呼ばれています。)

省電力に特化した分性能が低いのか?と言われると、そんなこともありません。搭載されているのは第12世代Coreですから、省電力コアとは謳いながらもパワーはそれなり。一説には第6世代Core CPUの『Skylake』に匹敵するともいわれています。

  • 数世代前のIntel Core CPUに匹敵するパフォーマンスが特徴です(画像はIvy Bridge世代のIntel insideステッカー)

つまり、今回筆者が経験したケースのようにIntelの旧世代Core CPUを搭載したPCからIntel N100搭載PCへ買い替える場合、パフォーマンスを維持しつつ大幅に消費電力を低減させることができるのです。

コンパクトな筐体が特徴的なミニPC『UN100L』をチェック

前置きがすっかり長くなってしまいましたが、今回実家のデスクトップPCとして新たに選んだものは、ミニPCを精力的に展開しているMinisforumから発売されている『UN100L』。

ここまで触れてきたIntel N100を搭載したモデルで、公式サイトではメモリ8GB・SSD 256GBの下位モデルが25,580円、メモリ16GB・SSD 512GBの上位モデルが32,980円で販売されています。今回購入したのはメモリ16GB・SSD 512GBの上位モデルです。

  • 上位モデルでも約3万円という安さが目立つUN100L

外観はプラスチックが使われていますが、シルバー塗装が使われていて値段のわりにチープな感じはありません。USBポートが前面・背面にバランスよく配置されているので、使い勝手も良好です。

  • 前面には電源ボタン、USB 3.0 Type-A×2、イヤホンマイク端子、LEDインジケーターが並んでいます

注目すべきなのは、側面にストレージ増設などに使えるmicroSDカードスロットを備えているところと、映像出力端子が計3ポート搭載されていること。ミニPCという性質上3画面を同時に出力することは多くないでしょうが、映像を出力する端子が自由に選べるというのはユーザー目線でも助かります。

特に、近年増えている「USB Type-Cケーブル1本で電源供給と映像出力を行う」タイプのモニターと組み合わせると、背面のUSB 3.2 Type-C端子とモニターを接続するだけでPCとして動かすことができるのは大きな魅力といえるでしょう。

  • 背面はHDMI、USB 3.2 Type-C(USB PD給電・映像出力対応)、LANポート、DisplayPort、USB 2.0 Type-A、DC端子がギッシリ

  • 側面はmicroSDカードスロットがある

『UN100L』に限らず、Intel N100を搭載したミニPCの多くが持つ特徴が、そのコンパクトな筐体です。UN100Lの場合サイズは約112 × 115 × 46mmで、手のひらに載せられてしまうレベル。デスク上に設置しても違和感のないサイズ感に仕上がっています。

  • iPhone 15 Pro Maxと比較してもこのサイズ感。初見でのインパクトは大きいです

付属品も充実していて、電源アダプター、HDMIケーブル、説明書といった基本的なアイテムに加えて、モニター裏にUN100Lを設置するためのVESAマウントアダプター、2.5インチSSD/HDDを内蔵する際に必要なネジが付属しています。

  • 付属品一覧

本体裏のゴムキャップを取り外してからネジを外すと、フタを外して内部にアクセスできます。

メモリはオンボード(基盤に備え付け)なので換装はできませんが、ストレージはM.2 2280なので換装は簡単。SATAケーブルの配線も済んでいるため、必要に応じて2.5インチSSD/HDDを1つ増設可能です。2.5インチストレージはフタにネジ止めできるので、安全性も高い印象でした。

  • 本体内部はM.2 SSDと3.5インチストレージの追加・換装がしやすい作り

旧デスクトップPCと入れ替え!注目のベンチマークスコアは?

初期セットアップを済ませたところで、さっそく実家のPCデスクにUN100Lを設置してみました。これまで使っていたデスクトップPCとは比べるまでもなくコンパクトで、デスクの上に置いても全く邪魔になりません。このとき初めてこのPCを見た父は「本当にPCなのか?」とびっくりした様子でした。

  • 10年以上使用した「XPS 8500」。家具の間で熱に耐えながら動いていました

  • UN100Lはデスク上でもスペースを取らないコンパクトさが魅力的。実父はこれがPCなのかと疑いの目を向けていました

PCを置き換えたところで、多くの方が気になるであろう「実際にどれくらいパフォーマンスが変わるのか」という疑問を、ベンチマークソフトを使用したスコア測定を通して解消してきましょう。

比較するのは新旧のデスクトップPCで、スコア計測には総合的なパフォーマンスを計測するPCMark10 Extendを使用しています。スコア測定に影響しうる部分の両PCのスペックを下記にまとめました。

仕様 XPS 8500 UN100L
CPU Intel Core i7-3770 Intel N100
最大クロック 3.9GHz 3.4GHz
コア数 4 Eコア4
スレッド数 8 4
TDP 77W 6W
メモリ 12GB DDR3 SDRAM 1600MHz 16GB LPDDR5 オンボード 4800MHz
ストレージ SATA 2TB HDD M.2 2280 PCIe3.0x2 512GB SSD
グラフィックス NVIDIA GeForce GT 640 Intel UHD Graphics

注目のスコアはというと、総合スコアはIvy Bridge世代のCPUを搭載したXPS 8500が2,827、Intel N100を搭載したUN100Lが3,153と、意外にも大きな差があるわけではありませんでした。

HDDとSSDというストレージ性能の違いが影響している可能性のある「App Start-up Score」を除けば両PCともにスコアは肉薄していて、ジャンルによってはIvy Bridge世代のほうが高いスコアを示しているものもあります。

  • 総合スコアを比較。スコアは肉薄しているといって良い

  • 各分野のスコアを比較。Ivy Bridgeのほうが高いものもある

ただし、このスコアだけを見て「パフォーマンスはほとんど変わらない」と考えるのはまだ早く、Intel N100についてのパートで触れた「TDP」も見ながらスコアを比較する必要があります。

今回買い替え元のPCとして比較対象にしている「Intel Core i7-3770」のTDPは77W、対して「Intel N100」のTDPは6Wと、公称値上だけでも70W近い差があることが分かります。

もちろんこれらは公称値のため、実際の使用環境によって消費電力は多少変化しますが、XPS 8500が大型の電源を搭載していることなどを加味すると、やはり両者の消費電力の差は大きいといえます。

つまり、単純に「両者でパフォーマンスはほとんど変わらない」のではなく「Intel N100は消費電力を10分の1以下に低減しつつも、ほとんど同等以上のパフォーマンスを実現している」というのが、今回のベンチマーク結果から読み取れる結果というわけです。

コンパクト・省電力でパフォーマンスも十分なIntel N100搭載PCは旧世代CPUからのアップグレードに最適!

  • デスクトップPCであることを感じさせないコンパクトさは魅力が大きい

ここまで旧世代Intel Core CPUとの比較や具体的な実機レビューを通しながらIntel N100 CPUの魅力を紹介してきました。その魅力を端的にまとめるならば「コンパクト・省電力・低価格なのに数年前のハイエンドPCに迫る性能」というのがピッタリでしょう。

Adobe製ソフトウェアなどを使用するようなクリエイティブな作業こそ得意ではありませんが、表計算やブラウジングなど日常使用で不便さ・遅さを感じることはありません。4Kモニターに接続してYouTube動画を視聴するといったケースでも問題なく使えます。

それでいて消費電力は約90%ダウンと大幅に抑えられていて、価格はミニPC市場の相場で2~3万円前後。比較対象として取り上げた『Intel Core i7-3770』の発売当時価格が278米ドル(日本円で28,000円ほど)であることを踏まえると、この10年で技術は大きく進歩しているといえます。

Windows 10のサポート終了までおよそ1年。サポートが終了してしまう前にPCを買い替えたい!という方に、Intel N100搭載PCは大きな選択肢となるかもしれません。