老若男女問わずハマってしまうスマホ動画。昨今は特に、TikTok(ティックトック)をはじめとしたショート動画サービスの人気が高まっています。よく「TikTokは気持ち悪いぐらいこちらの見たいものを出してくる」「興味のある動画ばかり流れるので中毒になる」と言われますが、その背後には思わず怖くなってしまうほどの巧みな工夫が込められていました。

本稿は『深掘り! IT時事ニュース 読み方・基本が面白いほどよくわかる本』(技術評論社刊)より、内容の一部を抜粋・編集したものです。

ショート動画ブームで各社参入

ネット動画は、長らくYouTubeの一強が続いていましたが、2010年代後半からショート動画SNSのTikTokが大きく伸びてきました。2016年にサービスを開始したTikTokは、わずか5年で世界の月間利用者が10億人を突破。世界最大のSNSであるFacebook(フェイスブック)ですら、10億人突破には約9年かかっていますから、異例なほどのハイペースでTikTokが普及しているのです。

日本でも、月間利用者数は1700万人(2021年8月)を突破し、10代・20代を中心とした若年層が多く利用しています。若年層ではYouTubeより利用時間が長い、という統計もあります。それを受け、後述するようにTikTokでの事件・トラブルも増えてきました。

では、なぜTikTokがここまで人気を集めるのでしょうか。まずは、最大の特徴である「ショート動画」であること。短い動画をパッパッと切り替えて楽しめるため、暇つぶしとして最適です。ユーザーが興味のあるジャンルの動画が次々と表示される仕組みも優れています。

投稿できる動画は、当初15秒もしくは30秒の動画に限られていましたが、現在では10分までの動画を投稿できるようになりました。テレビ局や新聞社が参入するなど、メディアとしても進化してきました。

TikTokの成功を真似しようと、各社がショート動画サービスを始めています。以下の表に、代表的なショート動画アプリをまとめました。Instagram(インスタグラム)は「リール」としてショート動画を2020年8月にスタート。通常の投稿とは別のタブで、ショート動画だけを楽しめるようになっています。デザインや操作性はTikTokを意識して作られており、ライバル視していることがよく分かります。

YouTubeも「YouTubeショート」を2021年7月にスタートしています。TikTokと同じように縦動画を縦スクロールで見ていくUIです。収益化(投稿者にお金が入る仕組み)もされており、人気ユーチューバーもショート動画を投稿しています。

このように、InstagramやYouTubeという大手が追いかけているものの、先行しているTikTokが圧倒的にリードしています。その理由は、TikTokが「ユーザー目線で使いやすいように徹底的に考えられている」ことにあります。

TikTokがショート動画でリードする4つの理由

TikTokが成功したのはショート動画であるため、とよく言われますが、実はそれだけではありません。ショート動画アプリは、以前からVine(ヴァイン)などがあったものの、成功したとは言えませんでした。TikTokでは、ショート動画であることに加えて、スマホユーザーに特化した「表示・閲覧の優れた仕組み」を用意したことにあります。

  • (イラスト:タラジロウ)

TikTokは、アプリを起動した瞬間に動画再生がスタートします。YouTubeのように再生ボタンを押すことなく、いきなりあなたに適した(とTikTokが判断した)動画が流れます。次への移動は、動画を上に「飛ばす」だけ。縦スクロールで飛ばすように操作するだけで、次々と動画を楽しめます。スマホで動画を見ることに徹した作り込みです。

このUI革命とも言える作り込みは、複数の動画をまとめて読み込むブロック先読み込みで成立しています。複数の動画をセットのようにして先に読み込むため、「飛ばす」動作で素早く次々と動画を見ることができます。このUIの素晴らしさが、TikTok成功の大きな要因です。

成功理由の要因の1つは「優秀なレコメンド」です。レコメンドとはお勧め動画のことで、ユーザーの趣味嗜好に合う動画をTikTok側が自動選択して表示しています。このレコメンドはあらゆるネットサービスで行われていますが、TikTokでは他社ではあまり重要視されていない「閲覧時間でのレコメンド」を行っています。

一般的にレコメンドは、いいね・シェア・保存・ハッシュタグ・コメント・フォローフォロワー(F/F)などの関係性から判断しています。TikTokでは、これに加えて「その動画を何%まで見たか」という点でレコメンドしているのです。

たとえば、アイドルに興味がある人がTikTokを使っていたとします。この人は、一般的なニュース動画が表示されても興味はありませんから、すぐに飛ばします(閲覧時間は短くなる)。それに対して、乃木坂46の素敵な動画が流れてくれば、じっと見ることになり閲覧時間は長くなります。つまり、TikTokは「その動画を何%まで見ていたか」をチェックして、その人に最適な動画をレコメンドするわけです。

これは、実際にTikTokで試すと分かります。たとえば、筆者はウクライナ侵略での大きなニュースが流れると、TikTokでウクライナからの動画を長く見ます。その結果、TikTokには次々とウクライナからの投稿が流れるようになりました。

これはショート動画ならではのレコメンドです。興味のありなしを動画再生時間の割合でチェックできるのは、大量の動画を一気に表示するショート動画アプリならではの手法。よく「TikTokは気持ち悪いぐらいこちらの見たいものを出してくる」「興味のある動画ばかり流れるので中毒になる」と言われますが、それは動画再生時間を含めた優れたレコメンド機能があるからにほかなりません。

投稿ハードルの低さがキーポイント

TikTok成功の理由の後半は、投稿ハードルの低さにあります。SNSである限り、ユーザーからの投稿量が多くなければ見る人も増えません。TikTokはそれを熟知しており、いかにユーザーを気軽に投稿させるかに注力しています。

まずは「初心者でもバズる可能性」があること。一般的なSNSは、フォロワーの多い有名人やインフルエンサーが圧倒的に強く、バズる投稿の多くがこれらの著名人からの投稿です。フォロワーの少ない人の投稿がバズる可能性はとても低いのです。

それに対してTikTokでは、あえて「フォロワーが少ない人の投稿をランダムに一定数表示する」仕組みを用意しています。具体的には、アカウントを作ったばかりでフォロワーゼロの人の告発動画が、バズって数十万回閲覧されるということが起きているのです。

TikTokはショート動画ゆえに、大量の本数を表示することが可能です。そこでTikTokでは先ほどのレコメンドに忍ばせるようにして、まったく関係のない動画、フォロワーが少ない人の動画をいろいろな人にランダムに出しているのです。いわば“初心者優遇”です。

その結果、フォロワーゼロの人でも数十回から数百回程度は再生されます。そこで、もし閲覧時間が長くなれば、TikTok側が「これは注目されている」と自動的に判断し、他の人へ表示を増やすことでバズる可能性が高くなっていきます。このように、初心者でもバズる可能性があるため、ユーザーとしても「TikTokなら注目されるかも」「他で再生されなくてもTikTokならバズるかも」と思って、積極的にTikTokに投稿することになるわけです。

もうひとつは「音楽を簡単に使えること」にあります。TikTokには、著作権をクリアした音楽が大量に用意されており、誰でも無料で使うことができます。

その結果として、TikTokは「女子高生が踊る動画SNS」として揶揄されつつも、認知されるようになりました。女子高生が踊る動画、というのはつまり「音楽さえ自由に使えるなら誰でも気軽にコンテンツとなりうる動画」を投稿できる、という意味です。おじさんでも会社員でも、BGMに合わせて踊ればそれなりの動画を投稿できる気軽さがあります。

ネット動画での音楽著作権は難題です。自分が演奏するのであれば、JASRACなどの著作権団体の包括契約がある動画サービスなら簡単に投稿できます。そうではなく、既存の音源を流すのであれば、演奏者・レコード会社の許諾を個別に取る必要がありました。TikTokでは、これをプラットフォームで一括して許諾を取ることによりクリアしました。

このように、TikTokは初心者でもバズる可能性がある、BGMさえ流せばコンテンツになる、という理由で、投稿ハードルがとても低いのが特徴です。投稿ハードルが低いということは、誰でも気軽に投稿できる=コンテンツが大量に生まれるということ。それにより閲覧者も増え、また同時に投稿したくなる、という好循環が生まれます。

事件・トラブルも発生している

TikTokが人気の理由を見てきましたが、利用者が増えればトラブルも多く発生します。2019年ごろには「バイトテロ」などの不適切動画がTikTokで問題となりました。閲覧数が多いゆえに告発動画も投稿されており、結果として誹謗中傷まがいの投稿、フェイクニュースの広がりもあります。

社会的事件になった例もあります。たとえば、2022年に発生した沖縄の警察署前での騒ぎでは、TikTokに動画が流れたことから多くの人が集まったと報道されました。

これとは別に、TikTok自体の問題もあります。まずは中国問題です。TikTokを運営するバイトダンス社は、本社がケイマン諸島にあるものの、実質的には中国企業です。中国国内では「ドウイン」(Douyin)としてショート動画アプリを運営していますが、これを海外版として切り離して運用しているのがTikTokです。

中国企業であるだけに、中国の国家情報法が影響します。国家情報法では、第7条の「いかなる組織及び個人も、法律に従って国家の情報活動に協力し、国の情報活動の秘密を守らなければならない」という法律が問題になります。中国政府が指示すれば、TikTok側が持っている情報を中国政府に渡さなければならない、という法律です。バイトダンス社側はこれを否定していますが、実質的な中国企業であるために、私たちのTikTokでの情報が中国政府に渡る可能性があります。アメリカでTikTok禁止法案が成立したのは、これが一因です。

あわせて、中毒性の問題もあります。TikTokは優れたレコメンドゆえに、ずっと見続けしまうというリスクがあります。筆者も空き時間にTikTokを見てしまい、気がついたら1時間以上過ぎていた、なんてことがよくあります。中学生や高校生などの若い世代がTikTok中毒になっている実態があり、社会的な問題に発展する恐れもあります。

このように、TikTokは個人情報・中毒性・誹謗中傷やフェイクニュースなどの問題が山積しています。TikTokは今後もさらに成長する可能性があり、これらの問題が大きなトラブルとして社会問題になる可能性もあります。

深掘り! IT時事ニュース──読み方・基本が面白いほどよくわかる本

今回の記事は、テレビ・ラジオなどさまざまなメディアでニュースを解説してきたITジャーナリストの三上洋氏の著書「深掘り! IT時事ニュース──読み方・基本が面白いほどよくわかる本」(技術評論社刊、1,870円、発売中)から取り上げました。ワイドショーなどでもすっかりおなじみとなったIT時事ニュース。しかし、日々のニュースに関連するIT技術は進展が目まぐるしく、なんだかよくわからない、ついていけないと感じている人も多いのではないでしょうか。「SNSで炎上が頻繁に起こるのはなぜ?」「ネット犯罪はどんな仕組みで起こるの?」「生成AIってなにが問題なの?」といった気になるIT時事トピックについて深掘りしています。