2024年4月8日、eスポーツ事業を手がける「VARREL」と「TOPANGA」が経営統合し、「株式会社CELLORB」として始動することが発表されました。

これにより、TOPANGAが出資していたeスポーツチーム「魚群」が解体され、VARRELに統合。VARRELの社長を務めていた鈴木文雄氏がCELLORBの代表取締役社長、TOPANGAのオーナーを務めていた豊田風佑氏がCELLORBの取締役副社長に就任しました。さらに、対戦格闘ゲーム『ストリートファイター6(スト6)』のプロゲーマーとして活躍するときど選手(谷口一氏)が取締役の任に就きます。

eスポーツ事業に長年携わってきた両代表が手を組んだことで何ができるのか、何を目指すのか、気になるところです。そこで、鈴木文雄社長と豊田風佑副社長に、経営統合の経緯と今後の展開について聞いてきました。

  • VARREL×TOPANGAインタビュー

    VARRELとTOPANGAが経営統合。CELLORBとして新たにスタートを切りました

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    CELLORB 代表取締役社長の鈴木文雄氏。2006年から15年間代表を務めた広告代理店SANKOの新事業としてeスポーツ事業をスタート。2011年、日本で初めてeスポーツ専用施設を開業。eスポーツを日本で普及すべく、eスポーツ大会の開催、スポンサー獲得活動に注力します。2014年には『リーグ・オブ・レジェンド』の国内プロリーグ「League of Legends Japan League(LJL)」を立ち上げました。2018年に日本eスポーツ連合理事に就任。現在はeスポーツマネジメント会社CELLORBの代表を務めます

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    「TOPANGA」の創設者で、CELLORB 取締役副社長の豊田風佑氏。2011年にTOPANGAを法人化。eスポーツ黎明期より、選手のマネジメント、大会運営などに尽力し、eスポーツの知名度拡大に貢献します。現在は、格闘ゲームのスター選手、ストリーマーのマネジメントおよび、大会運営などに従事。格闘ゲーム大会「EVO JAPAN」では、「ストリートファイター部門」のプロデューサーを務めました。格闘ゲーム業界で大きな影響力を持つ人物です

――まずは、経営統合に合意した経緯、目的を教えてください。

豊田風佑 副社長(以下、豊田):2年ほど前からeスポーツ業界の状況が大きく変わってきました。TOPANGAとしては、格闘ゲームのトップ選手を抱えていますし、ある程度の人数にイベントを観てもらえていたので、この先も同じようにできたかもしれません。

ただ、eスポーツイベントの規模はどんどん大きくなって、賞金も高額になってきています。少し前までは『ストリートファイター』シリーズの大会もそこまで多くなかったので、「TOPANGA Championship」が最高峰だったんですが、徐々にそうではなくなってきました。“これまでと同じように”やっても、緩やかな終わりを迎えるだけだと予感していたんです。我々には、新しいことにチャレンジするためのパートナーが必要でした。

そのタイミングで鈴木社長から連絡をいただいたんです。いろいろと相談しているうちに「どこかと一緒にやるならうちでやってよ」と言われて。鈴木社長とは面識もあり、一緒にやってみようと決めました。

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    過去に開催された「TOPANGA Championship」のワンシーン

――昨今は、eスポーツチームが資本力のある企業の傘下や子会社になって、運営力を高めることが多くなっていますが、影響された面はありますか。

豊田:ほかのチームのことはあまり考えていなかったですね。そもそも、TOPANGAではeスポーツチーム「魚群」を運営していましたが、これは複数の出資者によって運営されていたものです。なので、「チーム」よりも、TOPANGAのビジネスモデルの中心である「選手マネジメント」と「イベント運営」のことを考えていました。

選手マネジメントは、需要がめちゃくちゃ高まることが分かっていたので、ビジネスとしても上向きになっていくと思っていましたが、イベントに関しては、たとえばサウジアラビアで開催される「eスポーツワールドカップ」などに敵うわけがなく、このままやっていけば、「TOPANGA Championship」の価値が下がってしまう危機感があったんです。

幸いなことに、『スト6』がブームになり、これまで同時接続人数が5,000人程度だった「TOPANGA Championship」が、視聴者数4万人まで増えました。ミラー配信含めるともっとですね。ただ、やはり将来的な望みはあまりないと思っていました。

鈴木文雄 社長(以下、鈴木):私が2023年3月に代表に就任した「VARREL」は、eスポーツチームとしての知名度がなく、どうやって立て直していくかが最初の課題でした。そのため、「TOPANGA」との統合は我々にとってもチャンスだと思ったんです。私自身はeスポーツをずっとやってきて、ネットワークが広いため、豊田さんのネットワークと合わせれば、何かできるんじゃないかなとイメージできました。

また、私はずっと大会を作ってきた立場です。いろいろな選手に出場してもらって、感謝していますが、引退した選手に何もフォローできていなかった後悔もあります。eスポーツ選手が一生涯にわたって生活できるような環境を整えられていないことに対する罪悪感があったんです。なので、今度こそeスポーツのセカンドキャリアを作りたいと考えています。

――経営統合して変わること、変わらないことはなんでしょうか。

豊田:TOPANGAはあまり変わらないですね。頻度などはさておき、「何かができなくなる」ことはありません。チームとしては、魚群からVARRELに変わりましたけど、再編成されたというよりは、精算してバラした形だったんです。先ほども言いましたが魚群はいろいろなところが出資していたので、出資者と話し合って、精算することにしました。魚群からVARRELに移籍した選手はこれまでTOPANGAでマネジメントしていた選手であって、そのままマネジメントを継続する形でVARRELに入ることになりました。

鈴木:VARRELは大きく変わりました。もっとも顕著だったのが社員のモチベーションですね。ときど選手、マゴ選手、ボンちゃん選手など“一線級”の人たちと一緒に仕事できることが、やる気につながっているようです。もちろん、いきなりときど選手のマネジメントを担当することになって、緊張もしているんですけど。

また、TOPANGAに関わっている人はみんなスペシャリストなんですよ。長い期間eスポーツ業界で存在感を出してきた人たちなので、学ぶことが多いんです。そこがVARRELという企業としては大きな変革ですね。あとは、驚くほど企業案件のメールがくるようになりました。

豊田:TOPANGAとしては、企業案件のメールの数はさほど変わっていません。元々、営業して案件を取ってくるようなスタイルはしていなくて、価値を高めていけば必要とされる企業から自然と話がくると思っていました。ただ、CELLORBになったことで、TOPANGAのときでは受けきれなかった案件も受けられるようになり、受け皿が広がったのは大きいですね。

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    TOPANGAは継続的なeスポーツのチャリティイベントで紺綬褒章を受章したこともあります

――スポンサー企業の注目度など、経営統合したことによる対外的な評価は変わりましたか?

豊田:TOPANGAとしては、あまり変わってないかな。

鈴木:VARRELとしては、経営統合する前からお付き合いのある既存クライアントの信頼度は上がったと思います。着実にチームが大きくなっていますし、新たにスポンサーになっていただけとところもありました。

――TOPANGAの配信といえば、以前は「OPENREC.tv」でしたけど、そこからいろいろ移っていますよね。CELLORBの親会社のDONUTSが「OPENREC.tv」を傘下にしているので、今後は「OPENREC.tv」での配信が復活する可能性もあるのでしょうか。

鈴木:親会社からはシナジーを出してほしいと言われていますが、強制されているわけではありません。もちろん、機会があれば「OPENREC.tv」での配信が行われるでしょう。

――VARRELがTOPANGAに求めること、TOPANGAがVARREL(DONUTS)に求めることはなんでしょうか。

鈴木:『スト6』ブームもあって、YouTubeの登録者数などは右肩上がりですが、ビジネスとしてはもうひとつプラスαが必要です。グッズやアパレルの売上、企業案件数などを、2倍3倍と増やしていくために、組織体制を作り直しているところです。

ほかのチームのオーナーさんともよく話をしているんですが、「試合に勝ちました、人気がでました、風が吹きました」となったとき、そのままだと何も起こらなくて、風車を立てる必要があるんです。風車があれば、風が吹いたときに水も汲めますし、電気を起こせる。イタリアのバイクメーカー「ドゥカティ」の社是「日曜日にレースで勝って、月曜日にバイクを売る」みたいな感じですね。eスポーツでも試合で勝った翌日に物を売れるようにしないといけないと思っています。

TOPANGAと合併したことで、VARRELには風が吹き始めています。ときど選手やマゴ選手、ボンちゃん選手など、TOPANGAにマネジメントされている選手はすごく勢いがありますし、そのおかげでVARRELの知名度も上がってきています。だからこそ、なんとかしていきたいですね。

豊田:TOPANGA自体の認知は、ありがたいことに業界的に大きくなってきています。しかし、実態としては個人商店レベル。なので、やれることは多くはありません。いろいろなことをやるにはどうすればよいのか考えたとき、やはり先鋭化しないといけないわけです。先ほどTOPANGAのメンバーはスペシャリストが多いとおっしゃっていましたが、さまざまなものを抱えられないため、無駄をそぎ落としたと言えます。TOPANGAのメンバーは自分たちの人生をeスポーツにベットできる人間なんですよ。

認知度が上がってきたら、次のステップとしては、今までにできなかったことをやっていかないといけないですし、組織体としてもしっかりさせなきゃならなくなったんです。鈴木社長はそういうことをやってきた人。ブームではなく文化として根付かせるために、いろいろな活動を一緒にやっていけるのではないかと思っています。期待した通り、VARRELと合併したことで、これまで拾えてこられなかったこともできそうな感覚があり、とても楽しみです。

――TOPANGAのときはグッズやアパレルなどをあまり展開していませんでしたが、VARRELと合併することでそのあたりも期待できそうですね。

豊田:そうですね、グッズはそもそも作ってこなかったですからね。「TOPANGAチャリティーカップ(トパチャリ)」のTシャツくらいかな。アパレルやグッズは詳しくないんですよ。私自身、ゲームをプレイしますし、eスポーツの事業もやっているんですけど、推し活のような感覚がまったくなくて、分からないまま手を出すのはやめたほうがいいと思っていました。

鈴木:VARRELもそこまでアパレルに力を入れてきたわけではないですけど、物を売ることに対しては、ほかのeスポーツチーム「ZETA DIVISION」や「Crazy Raccoon」などを見て劣等感を抱いていたんです。実際にグッズやアパレルの販売をしてみると意外と売れるものだなと実感できて、売り方も考えるようになりましたね。

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    VARRELのグッズも販売中

――CELLORBは、プロeスポーツ事業、IPコンテンツ事業、教育事業の3つのビジネス領域を展開していくとのことですが、それぞれ具体的にはどんなことを行う予定でしょうか。

鈴木:プロeスポーツ事業は、これまでやってきたことと変わらないですね。選手のマネジメントや大会の運営、選手の獲得です。

IPコンテンツ事業は、先ほどお話ししたファンに向けたグッズ、アパレルの強化です。あとは人気選手をいかにIP化していくか。YouTubeでの配信はもちろん、プラスαのビジネス的な係数の掛け合わせでIP価値を高めていければと考えています。

教育事業は、次世代を担うアカデミーのような組織を作っていくことです。セカンドキャリアのためのコーチング事業などもそうですね。これらは必ず有料でやっていこうと考えています。プロのコーチングを受けるなら、セカンドキャリアのスキルを習得するなら、自己負担をする覚悟でやってほしいと思っていますので。現状では『League of Legends』のユースチームを展開し、アカデミーとして運営しています。

あとは、eスポーツ業界で働きたい人たちのために何かしたいと思っています。先日、インターンを募集したら600名も応募がきました。インターンに応募してくれた方々とDiscordでつないで、情報交換や独自の経済圏をみんなで作って、eスポーツの仕事をシェアできるようになればいいですね。

eスポーツ事業のセミナーを開くなど、eスポーツに夢を持っている人たちのための環境を提供できるようにしていきたいと思っています。もちろん、これも有料で提供し、お金を払うだけの価値のあるもの作る決意でいます。

――選手のIP化では、元々VARRELにいたシューティング系の選手などにもよりスポットを当てていくのでしょうか。

豊田:すでに「VARREL TV」を配信し始めています。タイトルを超えて認知を上げていくことは難しいと思いますが、挑戦していきたいですね。

鈴木:これは豊田さんも判断は難しいと思いますが、やはり、ときど選手には教育系の顔としての立場も持ってほしいと思っていますし、マゴ選手はVARREL全体のまとめ役として、タイトルを超えてVARRELを牽引してくれるとうれしいですね。配信に関しても元TOPANGAの人たちはトークが上手ですし、場慣れしていますよね。

豊田:10年以上生配信をやり続けているので、その点はすごく信頼しています。若い選手に見てもらえるといいなと思います。番組ではゲームのことだけでなく、いろんなことを話していますね。最近は健康の話がめちゃくちゃ多いですけど。みんな年を取ったんだなと思いながらみています。

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    新番組として「VARREL TV」がスタート

――ときど選手が取締役としてCELLORBに参画していますが、どのような経緯で取締役になったのか、また、取締役としてどんな活動を望んでいるのでしょうか。

鈴木:ときど選手の取締役就任は私がお願いしました。CEOとかCOOとか、クリエイティブだったらCCOとか、それぞれの分野において役員がいるじゃないですか。ときど選手はチームプレイオフィサーに将来的になってほしいと思っています。

プレイヤー側から会社を支えてくれる人がほしいと考えており、業界を見渡してみてもそれを行える力量と器を持っている人がときど選手以外に見当たらなかったんです。もちろん、私の知らない選手で該当するプレイヤーはいるかもしれませんが、せっかくTOPANGAと経営統合して、一緒にやるのであれば、是非ともときど選手に役員になってほしかったんです。

豊田:TOPANGAのときから、ときど選手は業界をよりよくするため、ゲームやeスポーツの地位を向上させるために、いろいろ考えて行動していました。それを取締役として発信して、活動の幅を広げるのもいいんじゃないかなと伝えたら、ときど選手には「そういうことであれば」と役員就任を快諾してもらいました。もちろん、プレイヤーとしてやっていくことが活動の中心です。

鈴木:将来的な面も含まれています。新たにeスポーツシーンに入ってくる若い選手は、すでにプロ選手やプロチームが確立した状態で入ってきているんです。なので、ブームではないときからプレイしているときど選手やマゴ選手には、スポンサー活動の重要性、人から注目を集めるためにやるべきことなどを伝えてもらい、eスポーツを拡大、継続していくためのお手本になってほしいと思っています。

――VARRELとしては、TOPANGAが加わることで対戦格闘ゲーム部門が手厚くなったと思いますが、今後、ほかのジャンルを強化するためにほかのチームを引き込むことはあるのでしょうか。

鈴木:参加タイトルを増やすかどうかは、抱えるリソースを考えてからですね。現状すでにマネージャーがそうとう疲弊していると思います。まだ若手のマネージャーがいきなりときど選手の担当となれば、それだけ緊張するわけですよ。なので、そこらへんをクリアしてからです。

最近の新規参入としては、『PARAVOX』ですね。国内のトップチームが参入しているところには入っていきたいと思っています。ただ、先ほども言いましたが、無理はさせられないので、マネジメント体制を整えてから。まずは現状のチームをしっかりさせることが最優先です。

――TOPANGAとしては、ここ1年は例年に比べてイベント主催回数が少なかったように思えます。今回、『スト6』で久々の「TOPANGA Championship」を行いますが、今後は開催ペースが高くなっていくのでしょうか。また、有観客オフライン開催を行うイベントも増えていますが、こちらはいかがでしょうか。

豊田:『スト6』がリリースされたばかりでスケジュールの調整が難しく、あまりできませんでした。根本的に、タイトルリリース直後には開催せず、プロとしてのプレイを見せられる環境が整ってからやればいいと思っています。『ストリートファイターV(ストV)』でもリリースしてから1年間は大会を行っていなかったので、TOPANGA Championshipとしてはいつも通りですね。

今後は定期的に開催していく予定ですが、『スト6』は年間を通じてイベントがぎっちり詰まっているので、やるなら1年に1度くらいのペース。あとは、『鉄拳8』も『鉄拳7』に引き続きやっていきたいと思っています。

有観客オフラインについては、やりたいか、やりたくないかと言えば、それはやりたいと思っています。ほかのイベントの運営の手伝いをして、現在の状況をみれば、TOPANGAが有観客イベントをやっても、1,000席は埋まりそうだと考えています。ただ、そのクラスの会場となると、1カ月前、2カ月前では確保できません。そうなると、いままでのやり方から変えないといけなくなるでしょう。

鈴木:やってほしいし、やりたいですね。ただ、リスクは高いものだと思います。1年くらい前から計画し、予定し、準備しても、さまざまな理由で開催ができなくなってしまうこともあります。あとはカプコンとのスケジュール次第ですね。

豊田:TOPANGA以外のイベントが多く開催されているなか、「TOPANGA Championship」のような形の大会がないのは、うちを配慮してくれている部分があると思います。ガチの対戦をメインとしているのは、公式以外ではTOPANGAくらいなので、ほかと棲み分けをしていきたいと考えています。

――ありがとうございました。

  • VARREL×TOPANGAインタビュー

    「TOPANGA Championship 5」が2024年6月から7月にかけて開催

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eスポーツ事業が拡大し、多くの新規事業者が参入してくるなか、既存のチームや企業も再編を迫られています。そんな状況で、古くからeスポーツに携わってきた鈴木氏と豊田氏がタッグを組み、新たな挑戦をスタートさせています。お互いに得意分野が違うこともあり、それぞれの不得意分野を補いながら相乗効果が得られれば、これまでとは比べものにならない規模での活動が期待できるのではないでしょうか。