アドビは5月22日、オンラインデザインツールの「Adobe Express」で、ビジネスユーザー向けの新しい機能の提供を開始しました。企業のクリエイティブ部門のみならず、あらゆる部署のスタッフが、自社のブランドに即した様々なコンテンツを、豊富なテンプレートや生成AIの助けを借りて、より簡単に作成できるようになります。同社が先日開催したイベント「Make it. 2024 (Tokyo)」にあわせて来日した、Adobe Express製品担当シニアバイスプレジデントのゴビンド・バラクリシュナン氏に、その活用法について聞きました。

  • ゴビンド・バラクリシュナン氏

    米アドビ Express製品グループおよびデジタルメディアサービス担当シニアバイスプレジデント ゴビンド・バラクリシュナン氏

Adobe Expressはブラウザのみで完結するデザインツールです。アドビのストックフォトサービスである「Adobe Stock」や、フォントサービスの「Adobe Fonts」、さらに豊富に用意されたテンプレート、生成AI「Adobe Firefly」を使用して、様々なコンテンツを作成し、WEBサイトのバナーやSNS投稿などに活用することができます。最新のアップデートによってさらに、チラシやパンフレットなど印刷物の作成、プレゼンテーションやレポートといったドキュメントの作成もできるようになりました。

バラクリシュナン氏によれば、Adobe Expressはアドビの持つ豊富な画像/動画/デザインのテクノロジーを取り込んだ、コンテンツ作成ツールとして提供が開始されました。当初から使いやすさにこだわり、「誰もが簡単に利用できることを目指してデザインされている」とのこと。たとえば、「中小企業の経営者が自ら、会社や新製品、ブランドのPRのためにコンテンツを作成することもできる」と言います。

  • Adobe Express

    Adobe Express。PC/MacではWebブラウザーから利用できます。モバイル版はアプリの形で提供されています

コンテンツの作成を手助けしてくれるのが、生成AIのAdobe Fireflyです。この生成AIはAdobe Stock内の素材など、著作権の心配がないデータから学習していることから、「安全に商業利用できるように設計されている」のが特徴。今回のアップデートにあわせて、Adobe Expressにも最新の「Adobe Firefly Image 3 Foundationモデル」が適用され、画像だけでなく、テンプレートやフォントなど、様々な生成の精度、スピードが向上しています。

Adobe Fireflyを含むAdobe Expressの様々な機能は、現在ではブラウザだけでなく、デスクトップ版やモバイル版の各アプリからも利用できるようになっています。これにより、「世界中の何百万人ものユーザーが、傑出したコンテンツを作り出せるようになった」とバラクリシュナン氏。「Adobe Photoshop」や「Adobe Illustrator」といったアプリケーションとも連携でき、マルチデバイスかつ様々な部署の人たちがコンテンツ共有し、共同で作業することもできるようになっています。

  • 「Make it. 2024 (Tokyo)」のキーノートに登壇したバラクリシュナン氏

    「Make it. 2024 (Tokyo)」のキーノートに登壇したバラクリシュナン氏

Adobe Expressは基本的には無料で利用できますが、デスクトップ版/モバイル版の各アプリの利用や、より多くの機能&コンテンツの活用が可能な月額1,180円のプレミアム版も提供されています。これらに加えてビジネスユーザー向けに、1ライセンスあたり月額880円の法人向けグループ、法人向けエンタープライズの各プランも提供されています。

ビジネスユーザー向けにアップデートされた新機能の特筆すべきポイントは、前述のように著作権の心配のない、安全に活用できる生成AIのカスタムモデルを活用して、「ブランドの一貫性を保ったコンテンツを作成できること」だと、バラクリシュナン氏は言います。「企業はカスタムモデルを活用して、自分たちのブランド言語を反映したアセットを生み出すことができる」と説明します。具体的には、ロゴや画像など、ブランドに関わるデータをアップロードでき、さらにそれらをベースにした生成が可能になるというわけです。

  • バラクリシュナン氏

「組織のどの部門の人でも、ブランド言語を反映したコンテンツを簡単に作成できる」だけでなく、「バッチ処理により、コンテンツのバリエーションをたくさん作ることもできる」とバラクリシュナン氏。作成したコンテンツを将来のキャンペーンに再利用したり、市場にあわせてローカライズするといったことも簡単にできるので、「市場やカスタマーにあわせたマーケティングを展開しやすくなる」と言います。

活用の場面はマーケティングだけではありません。「プロクリエイターがコンテンツをさらに発展させるために使用したり、営業チームは販売資料やプレゼンテーションの作成に、社内コミュニケーションチームは社内向けのチラシや求人サイトへの投稿などにも活用できる」と説明します。

バラクリシュナン氏は、「ユーザーはよりパーソナライズされたコンテンツを求めている」と、多様化によって多くのコンテンツが求められていると言います。「この高い需要に答えていくために、企業はコンテンツクリエイティブのプロセスの中に、どう生成AIを活用していくかを考えなければならない」と話し、「Make it. 2024 (Tokyo)」の講演では具体的な事例も開示。Adobe Fireflyを活用してソーシャルキャンペーンを展開したIBMが、エンゲージメントを26倍向上させた例や、電通がコンテンツの市場投入までの時間を70%短縮した例などを紹介していました。

  • 「Make it. 2024 (Tokyo)」で紹介されたIBMの事例

    「Make it. 2024 (Tokyo)」で紹介されたIBMの事例

画像生成AIでどんなビジュアルが作成できるかといった遊びの時間は終わり、「本格的なビジネス活用が広がっている」というバラクリシュナン氏。クリエイターのみならず、誰もが仕事に活用できる土壌が整ってきたようです。

  • バラクリシュナン氏