アドビは日本時間3月21日、Adobe Creatice Cloud向けのジェネレーティブAI「Adobe Firefly」のベータ版を発表した。すでにベータ版の登録受付も開始している。

  • 3月21日に発表された「Adobe Firefly」(ベータ版)

近ごろ話題の「ジェネレーティブAI」とは?

「ジェネレーティブAI(生成系AI)」とは、ユーザーの指示によって、テキストデータやコード、画像、3Dオブジェクトなどを自動生成するAI活用ツール(あるいはそのAIモデルそのもの)を指す総称だ。膨大なデータの学習を経て、独創的なコンテンツを生成できる。例えば、画像生成系のジェネレーティブAIならば、ユーザーが「人の横顔」のような指示をテキストベースで行うことで、出力結果として横向きの人物の画像を得られるわけだ。

すでに、こうしたジェネレーティブAIを活用したツールは市場に多く登場しており、技術的なトレンドとして注目されている。ここに、クリエイティブツール群を提供している大手のアドビが本格参入した。

アドビはもともと「Adobe Sensei」に代表されるようなAIモデルの活用に長く取り組んできており、「AIが人の仕事を奪うのではなく、AIで作業負担を減らしてクリエイターの制作活動を補助する」といった建設的な方向性を、ユーザーに対して地道に示してきた企業でもある。

一般的なジェネレーティブAIツールでは、学習の素材として使うコンテンツの権利などが問題にされることも多いが、ここをどうクリアにするのか、という部分がアドビに期待されることの一つだろう。詳細は後述する。

「Adobe Firefly」はベータ版公開、将来の展望も

Adobe Firefly(アドビ ファイアフライ)は、アドビが提供するクリエイター向けのジェネレーティブAIモデルだ。現段階ではベータ版としてテストユーザー向けに提供されており、フィードバックを得ることを目的としている。当初は、画像とテキストエフェクトの生成に特化した状態であり、AIに対してのコマンド入力の対応言語は英語のみで、日本語にはまだ対応していない。

  • Adobe Fireflyでの画像生成イメージ

  • Adobe Fireflyでのテキスト生成イメージ

Adobe Fireflyは、具体的にはさまざまなAdobe Creative Cloud製品内における機能の一部として、順次提供されていく予定だ。将来的には、より幅広いユースケースをサポートする予定であり、具体的には「Adobe Photoshop」「Adobe Illustrator」「Adobe Premiere Pro」「Adobe Substance 3D」「Adobe Express」などの製品内での提供が想定されている。

例えば、Photoshopではイラスト内の描画していない部分を画像生成で補ったり、Illustratorではベクター画像を生成できたり、Premiere Proでは動画内の景色を変えたりできるようなツールへ発展していく流れが、コンセプトとして描かれている。

  • Photoshopで展開したイラストの描画していない部分を補う

  • Premiere Proで、晴れた日の動画を雪景色に変更

また、個人が特定のアセットを学習に活用し、指定した対象を意識したコンテンツ生成を可能にする「カスタムトレーニング」の機能の搭載なども予定する。

市場にさまざまな画像生成系のAIツールがあるなかで、Adobe Fireflyの強みは、商業利用に特化した設計になっていることだ。アドビは、自社のサービス開発に許可を得た状態で、ストックサービスである「Adobe Stock」に素材を蓄積しており、これがAIのトレーニングに活用されている(※オープンライセンスコンテンツと、著作権が切れたパブリックドメインコンテンツも使われる)。

Adobe Stockに登録される素材は、前提として権利関係のチェックを通過するので、基本的にはインターネット上に混在する権利が不明な素材を学習に使用していないことになる。そのため、クリエイターはFireflyを通じて作成した素材を安心して商用利用できるわけだ。

なお、Adobe Stockなどに作品を投稿するクリエイターは、今後自身の素材を勝手にAIの学習に使われたくない場合、「Do Not Train」というタグを付けることによって回避できるようになる。一方、AI学習用に素材提供をしてくれるクリエイターに対しては、収益化を施せるような設計を検討している段階だという。

ちなみに、Fireflyを通じて作成される制作物は、アドビが推進している「コンテンツ認証イニシアチブ(CAI)」のアプローチに沿い、AIで生成されたことがデータからわかるようメタ情報が付加される。生成後に画像編集ソフトで加工された場合も履歴が残り、これによって制作物の透明性も担保されるという。

FireflyのUIはアドビツールに類似

Adobe Fireflyで画像を生成する場合、テキストのコマンドでツールに指示を出すと、ベータ版では4つの制作物が表示され、そのなかから採用するものを選ぶ流れになる。また、Content Typeの欄で「Art」や「Photo」などの種類を選び、さらに「Style」の欄で画風などを選ぶことで、生成される画像の雰囲気を微調整できる。Adobeツールに馴染みのあるユーザーならば、直感的に使えるUIだろう。

  • 「Highly detailed lama」(高精細なラマ)という指示で、画像生成で4つの結果が表示された画面。右側のメニューでパラメータを変更できる

  • パラメータの変更などで微調整した例

テキストエフェクトの生成では、オブジェクトとなるテキストに対して、どのようなエフェクト(要するにデザインのこと)を適用するのかをテキストで指定できる。こちらも画像生成と流れは似ており、生成後に候補の選択や、パラメーターの変更が可能だ。

  • 「ホタル」という文字に対して、「many fireflies in the night, bokeh light」(夜の無数のホタル、ボケた光で)という指示でテキストエフェクトが生成されている

なお、これらの仕様はベータ版段階でのものであり、将来的な正式版で変化する可能性もある。

マーケティングツールにもジェネレーティブAIが追加

関連したところでは、アドビがマーケティング向けのソリューションパッケージとして提供している「Adobe Experience Cloud」についても、ジェネレーティブAIを活用したサービスが提供される。こちらは「Adobe Sensei GenAl Services」という名称だ。

Adobe Sensei GenAl Servicesについては、まず「Adobe Experience Manager」「Adobe Journey Optimizer」「Adobe Real-Time Customer Data Platform」「Adobe Customer Journey Analytics」「Adobe Marketo Engage」のなかで提供される。具体的には、マーケティングコピーの作成や、AIチャットの活用などが行えるようになるという。