2022年11月30日、eスポーツイベントや大会などを手がける企業「ウェルプレイド・ライゼスト」は、eスポーツ業界で初めて東証グロース市場に上場しました。この上場は、eスポーツがビジネスとして確立したことを示すだけでなく、投資先として認められた証であるとも言えるでしょう。

そこで、ウェルプレイド・ライゼスト代表取締役である谷田優也氏に、上場までの道のりや今後の活動への影響などを聞いてきました。

  • 2022年11月30日、「ウェルプレイド・ライゼスト」が東証グロース市場に上場しました。公募価格1,170円で売り出した株式が、初値6,200円で取引されました

  • ウェルプレイド・ライゼスト代表取締役の谷田優也氏

――まずは上場をしようと思ったきっかけを教えてください。

谷田優也代表取締役(以下、谷田):ウェルプレイド・ライゼストは、ゲームをやり続けている人たち、ゲームに魅了されている人たちの価値を高くしていきたいと思って活動してきました。

その目的を最短で達成する組織にするためには、eスポーツのビジネスを日本市場でしっかり成立させる必要があると考えたんです。そのための手段の1つが上場でした。上場することで、多くの人の見る目が変わるのではないかと。その位置まで、日本でどこよりも早く到達したいと思っていました。

――いつごろから上場を考え始めたのでしょうか。

谷田:上場を視野に入れ始めたのは、カヤックから出資を受けたタイミングの2017年ですね。上場するために、会社としての基本的な部分をしっかりさせるべく、コンプライアンスの整備などを進めました。それが3年前。そのあと、同業種である「RIZeST」との合併で会社の規模が拡大し、上場に近づきました。

※「ウェルプレイド・ライゼスト」は、2021年2月1日に「ウェルプレイド」と「RIZeST」が合併してできた会社です。

――上場に関して、周囲の評価や評判はいかがでしたか。

谷田:周りの評判は上々ですね。本当にやって良かったですし、それだけ難易度が高いことだったんだなと、感慨深く思っています。なかには「eスポーツの価値を引き上げてくれてありがとう」といった声もありました。

――投資家からはどのような意見がありましたか。

谷田:2022年6月にバーチャルYouTuberの「にじさんじ」の運営「ANYCOLOR」が上場したときは、「新しいビジネスがやってきた」と思われていたようで、今回の件もそれに近い感想を持っていると聞いています。

なかには、新しい業界すぎて、ビジネスとして評価しにくい部分があると考える人もいます。ただ、わからないなりにも時代にマッチした業態だということは肌で感じているみたいですね。

特に、注目してもらっているのは、Z世代や若年層の多くがeスポーツ観戦やゲーム実況配信に可処分時間を割いている点でしょう。

最近よく使われる「タイパ(タイムパフォーマンスの略。かけた時間に対する満足度として使われる)」という言葉に象徴されるように、時間の使い方に厳しくなっているなかですが、eスポーツ観戦やゲーム配信に価値を感じている人は少なくありません。彼らにとって、それらは「タイパの良いもの」として浸透しつつあるのではないでしょうか。

中高年世代がテレビやラジオを流し観、流し聴きしていたように、今の若者は配信を流し観しています。さらに、時間がないときは切り抜き動画で楽しんでいます。公式が切り抜き動画を認めており、共存できているのもほかのメディアにないところですね。

――eスポーツという新しい業態の上場なので、さまざまな困難があったと思いますが、特に苦労したことがあれば、教えてください。

谷田:上場するにあたり、一番難しかったのは、類似企業がないこと。事業の安定性などを証明するために、通常は同業種と比較するのですが、eスポーツ企業はどの業種とも違うんですよね。イベント運営からマネジメントなど、個々の事業を見れば類似企業があるのですが、eスポーツを広く捉えた場合、比較できる業態がありませんでした。

――上場には事業の収益性も大事だと思います。2018から2020年は赤字決済でしたが、新型コロナウイルスの影響だったのでしょうか

谷田:赤字決済だったのは、投資のフェーズだったからですね。事業や人員への投資を増やしていたタイミングでした。

新型コロナウイルスの影響は、むしろあまりなかったんです。数あるエンターテインメント事業がコロナ禍で苦しむなかでも、eスポーツ関係は戦えていました。

オフラインイベントはなくなりましたが、オンラインへの切り替えが早かったうえ、社内もフルリモート体制に移行し、デスクの半分を処分するなど、働き方も変えました。その結果、案件自体はコロナ禍以前よりも増えたくらいです。

また、コロナ禍以前、ゲーム実況配信を行うのはストリーマーがほとんどで、プロeスポーツ選手は大会に向けて練習していた人が多かった印象です。しかし、コロナ禍をきっかけにオフラインイベントが減り、海外への遠征が少なくなったことで、プロ選手も動画配信を始めるようになりました。我々は選手のマネジメントのサポートもしていたので、配信の相談に乗ったり、コンテンツ作りのお手伝いをしたりしていました。

――確かに、コロナ禍でもeスポーツは戦えていたと思いますが、それでもコロナ禍前に予測していた成長には遠く、横ばいだった印象を受けます。その点はどうお考えでしょうか。

谷田:確かに、大きく伸びたとは言えません。ただ、「ほかのエンタメ事業が減衰する状況でもコンテンツを作り続けることができる」と分かったのは大きな財産です。

もちろん、コロナ禍がなければ、もっと発展していた世界線があるかもしれませんが、コロナ禍を経験したからこそ、オンラインイベントの普及やノウハウの獲得があったのだと思います。

また、コロナ禍で、新たにメタバースやWeb3などが注目を浴びるようになりましたが、それらはゲーマーにとってみれば、すでに体感しているものばかり。ゲームやeスポーツと相性が良いものなので、これらと一緒により発展していく可能性があると思います。

――上場したことで、多くの資金や人的リソースが集まるようになったと思います。今後はどういった活動をするのでしょうか。

谷田:これまでウェルプレイド・ライゼストの事業は、大会主催者から委託された配信や大会運営業務を行うクライアントワークが中心でした。

今後は、それらに加えて、オリジナルのイベントブランドを確立していきたいと思っています。eスポーツ業界もエンタメ業界の1つなので、イベントでは影響力のある人が重要。そういった人やチームと手を組み、インパクトのあるイベントを実施していきたいですね。

それ以外にも、まだ具体的なところまでには至っていませんが、上場して多くの人とお話しする機会が増えたことで、あれもできそう、これもできそうと、アイデアが次々に生まれています。

――そのイベントブランドの1つが、すでに何度か実施されている「LIMITZ」なのですね。

谷田:はい、プロゲーミングチーム「ZETA DIVISION」が主催、ウェルプレイド・ライゼストが運営として開催するイベントです。現在6回ほど実施していますが、お陰様で、いろいろな方に同時配信していただき、累計同時視聴者数が22万を超えるイベントになりました。直近では、12月15日から17日にオンラインイベントを開催しました。

2023年以降は、オフラインでのイベントをもっとやっていきたいですね。ファンの人が来場し、楽しめるものを目指します。来場者や同時視聴者数を増やすことで、スポンサーへのアピールにつながり、ファンに向けたグッズ販売、マーチャンダイジングでもマネタイズができると見込んでいます。

  • ウェルプレイド・ライゼストが運営、プロゲーミングチーム「ZETA DIVISION」が主催するオリジナルeスポーツイベント「LIMITZ」

――オリジナルのイベントを確立する以外で、今後やっていきたいことはありますか。

谷田:事業や運営ではなく、概念的なものになってしまうのですが、ゲームやゲームをすることをライフスタイルとして確立していきたいですね。当社の理念であるゲームやゲームをプレイする人の価値を高めることにつながりますが、それがどういったことなのかを具体的に考えていきたいです。

うまく伝えられるかわかりませんが、例えば、本はどこの書店で買っても、どこで読んでも内容は変わりませんが、代官山の蔦屋書店に行って、そこのスタバで読む行為がカッコイイもの、オシャレなものとして捉えられるわけじゃないですか。ゲームも、ゲームそのものの価値だけではなく、どのようにゲームをするかについて価値を出せればいいなと思っています。

――わざわざ銀座や表参道のApple Storeに行って、発売日にiPhoneの新モデルを購入するイメージでしょうか。

谷田:そうです、ライフスタイルとして、どのようにゲームを取り入れられるか、ゲームの楽しみ方自体をイケてる行為にできるか、生活に密着できるか、そういうものを満足度の高いものにしていきたいんですよね。プロゲーマーがめちゃくちゃ格好良かったり、ストリーマーがイケてたりするのも、そういった社会が訪れる手段の1つだと思います。

――ありがとうございました。