ファーウェイのスマートグラス「HUAWEI Eyewear」に新モデルが登場しました。時代に即してテレワーク利用にも適したアップデートに加え、メガネメーカーのOWNDAYSと協業したモデルをラインナップしたこともポイントです。
このOWNDAYSとの提携について、ファーウェイ デバイス 日本・韓国リージョン プレジデントの楊涛(ヤン・タオ)氏と、OWNDAYS(オンディーズ)代表取締役社長の田中修治氏に話を聞きました。
スマートグラスでもメガネとしての完成度を高める
メガネにスピーカーを搭載するというオーディオグラスのジャンルが始まったのは、「5~6年前から」(田中氏)といいます。メガネメーカーからすると「メガネとして実用に耐えうるレベルではなかった」(田中氏)そうですが、それでも家電量販店で購入したオーディオグラスをOWNDAYSの店頭に持ち込む人もいて、度付きにして欲しいというニーズがあったとのこと。
田中氏も「いつか自分たちでも製品として作りたい」という希望を持っていました。そうした中、ファーウェイから事前にHUAWEI Eyewearの実機を紹介され、「これならば実用に耐えうる、ようやくここまで来た」と確信。
「度付きのレンズを入れないとメガネとしては未完成」(田中氏)であり、メガネの部分をOWNDAYSに担当させて欲しいと提案したことから、今回の提携にいたりました。メガネとしての機能も担保されている製品を作ろうと協業が始まり、開発期間は1年ほど。
HUAWEI Eyewearは、初代製品が発売されたのは2021年7月。当初はアウトドアユースにフォーカスしており、屋外で音楽を聴くといった用途でジョギングなどでのニーズを想定していました。
ところが、実際に発売してみると度付きレンズに対するニーズに加え、コロナ禍によってリモートワークに使いたいという声があり、そうした要望に応える形で第2弾の開発が始まったわけです。楊氏は「大きなマーケットがあると感じた」と振り返ります。
初代製品で想定していたアウトドアユースは、いわばニッチな市場。対して、リモートワークでオンライン会議をするようなビジネスパーソンを取り込んで、新たなニーズを開拓することを目指しました。ファーウェイがスマートグラス分野で日本企業と協業するのは世界で初めてとなります。
「今回のHUAWEI Eyewear新製品を実現するにはパートナーの力が必要でした。ファーウェイ自身はメーカーとして高品質でイノベーティブ、豊かなオーディオを実現するスマートグラスは作れますが、メガネの専門家ではありません。チャレンジングなメガネメーカーを求めていたところ、OWNDAYSさんが手を上げてくださいました」(楊氏)
製品としてコラボレーションモデルも用意し、OWNDAYS店頭で度付きレンズを入れることもできるようにしました。「製品開発の分野でもサービスの分野でも、深いレベルで協業した」(楊氏)とアピールします。
デザイン面では、メガネの前掛け部分をOWNDAYSがデザインし、ツルの部分はファーウェイが設計。その上で、メガネとして全体の掛け心地やバランスなど、完成度を高める設計をOWNDAYSが担当したそうです。
OWNDAYSは、年間で実に300万人ものユーザーにメガネを販売しています。メガネとしてのデザインやサイズなど、HUAWEI Eyewearが想定しているターゲットユーザーにもっとも売れている形を提案して完成したそうです。
HUAWEI Eyewearはツルの部分に電子機器が詰まっており、通常のメガネに比べて重量バランスが異なります。メガネというのは鼻や耳で支えますが、「同じ重さでもバランスが崩れると重く感じてしまう」(田中氏)ことから、バランスが重要。「日本人のサイズの最大公約数というか、平均的に一番掛けやすいバランスにした」と、田中氏は自信を見せます。
その上で、コラボレーションモデルはマグネットでサングラスに切り替えられる「SNAP LENS」に対応。車の運転シーンを想定して、サングラスになると便利だという判断からです。個人ユーザーだけでなく、タクシー運転手や電車の運転士などサングラスを掛けたい場面で簡単に切り替えられるといった点で、業務用途でも提案できると田中氏は見ています。OWNDAYSは法人販売も手がけて、事前のリサーチでも需要があるとのことです。
ファーウェイ側の設計にも、OWNDAYS側からアドバイスがありました。日本人のニーズやフロントフレームの幅、レンズのサイズ、形状といったデザイン面のアドバイスは、製品に落としこむのは難しいことでした。
なぜなら、ツルの中に多くの電子部品を埋め込む必要があるからです。メガネとしての完成度を保ちながら音質や通話性能を高め、待受時間を長時間化するといった、機能向上とデザインの両立が難しかったといいます。特に、やはりツルの部分を太くしすぎないように苦労したそうで、太すぎるとビジネスシーンにそぐわなくなります。
機能面では、従来の「音楽を高音質で」というコンセプトに加えて、屋内だけでなく、屋外で歩きながらでも快適に音声通話できることを目指しました。屋外で通話すると、風切り音がひどいノイズになってしまうそうで、これをいかに抑制するか――。そのノイズをどのようにキャンセリングするかといった点で苦労したそうです。
「今回の製品は、メガネとして長くかけていても大丈夫。これまでのスマートグラスは眼鏡屋としてちょっと売る気は起きなかったのですが、やっとこれで市民権を得て広く一般に普及するレベルになったという自信があります」(田中氏)
今後の協業も継続、世界展開も目標
HUAWEI Eyewearは「スマートグラス」という位置づけですが、メガネレンズに情報を表示するといったARグラスを開発するメーカーもあります。こうした「AR」について田中氏は、「そこまで需要があるとは思っていない」と否定的。それよりも、度付きレンズで視界が良くなり、スピーカー付きで音が聞こえやすくなるというHUAWEI Eyewearには、高齢化する日本で視力や聴力をサポートする存在として期待をかけます。
人間の身体機能を補完する方向でのテクノロジー進化が、「社会的にも役に立つし、ニーズも大きい」というのが田中氏の考え。ARのように情報を表示するのではなく、見る視点に応じてフォーカスが自動で変わる、右耳が聞こえにくいから右側の音を増幅するといった方向の進化を目指すとのこと。
「ファーウェイさんともそのように話していて、次はもっと人間の生活に密着した、リアルな悩みや問題を解決する方向に投資していきたい。より多くの人を助ける、人間の生活を豊かにする、そういうことが重要」(田中氏)
ファーウェイ側は、ARやVRは単にハードウェアを作るだけではダメで、コンテンツやサービスをはじめとして業界全体で取り組む必要があるという認識です。「現時点ではデバイス単体で考えるのではなく、トータルで検討する必要があります」(楊氏)と説明します。
そのため、現時点のHUAWEI EyewearはARではなくオーディオグラスであり、タッチ操作でスマートに操作できるメガネという位置づけです。メガネとしての装着性や重さを考えると、スマートグラスに乗せられる機能には取捨選択が必要になってきます。単に機能を盛り込むだけではなく、OWNDAYSの協力でメガネとしての完成度を高めながら「機能」を盛り込めることが、今回の協業の重要な点だとしています。
田中氏は「今後も協業は継続していきたい」と強調。OWNDAYSは世界14カ国で事業を展開しており、今回の提携を皮切りに世界で展開し、次の製品開発につなげたいという目標を掲げます。人をサポートするメガネの機能はまだまだ作る余地があるとして、ファーウェイと継続して協力していく考えです。
「メガネだけでなく、洋服でも靴でも、すべての業界はデジタルと切り離せなくなっています。デジタル技術を製品開発に取り入れていかなければなりません」(田中氏)