マルチプレイヤーオンラインバトルアリーナゲーム『League of Legends(LoL)』のプロプレイヤーとして、国内プロリーグ「League of Legends Japan League(LJL)」と、プロeスポーツチーム「DetonatioN FocusMe」を支えてきたCeros選手が引退を発表しました。今後はコーチとしてチームをサポートしていきます。

そんなCeros選手にインタビューを実施。プレイヤーとしての9年間を振り返りつつ、『LoL』やLJLへの思いを語ってもらいました。

  • Ceros選手

    プロeスポーツチーム「DetonatioN FocusMe」のCeros選手にインタビュー

――9年間の現役生活、お疲れ様でした。『LoL』で活躍した9年間を振り返ってみてどんなことを感じていますか。

Ceros選手(以下、Ceros):選手として活動した9年間は、短いようにも感じますが、振り返ってみるといろいろありました。選手になったばかりのころは、今考えてみると何もわかっていなかったですね。僕自身も、日本の『LoL』界隈も未熟でした。世界と比べるとまだまだでしたし、今みたいな体系化されたシステムはありませんでした。

LJL発足時点では、『LoL』の日本サーバーもなかったんですよね。そんな状況でも大会だけは開催していて、多くの関係者ががんばっていました。

――その9年間には、『LoL』の国際大会「World Championship(Worlds)」で初のプレイイン勝利、2021年のプレイイン突破と、偉業を達成してきましたが、そのことについて、どのように感じていますか。

Ceros:そのあたりは、あまり深く考えていないんです。僕ら(DetonatioN FocusMe)の活躍が日本のLoL業界の発展につながっているのはわかっています。でも、それだけを考えすぎないようにやっていました。

結果が出れば業界の発展につながるので、最終的にLJLや『LoL』全体が良い方向に向かえばいいという程度。僕はそんな感じで結構気楽に考えていましたが、チームメイトには、日本代表としてプレッシャーを感じ過ぎてしまった人もいるんじゃないかな。

  • Ceros選手

    2021の「Worlds」での試合中のコーチ陣の様子

  • Ceros選手

    グループステージが決まった瞬間

――先に挙げた試合を始め、感慨深い試合はたくさんあったと思いますが、その中でも印象深い試合がありましたら教えてください。

Ceros:そうですね、「DetonatioN FocusMe」が今の状態になる分岐点になった試合があるんです。2014年に行った、最初のLJLのファイナルがそれですね。

東京ゲームショウのメーカーブースの一部を使って行った試合で、対戦相手はRJ(Rascal Jester)。この大会で勝利したことで、我々はゲーミングハウスでプレイするようになったので、もし負けていたら、今の「DetonatioN FocusMe」はなかったかもしれません。

  • Ceros選手

    2014年に行われた「LJ LEAGUE Grand Championship」

――LJLが発足し、ライアットゲームズ公式になり、よしもと∞ホールでの定期開催になるなど、LJLの発展と共に歩んできましたが、その移り変わりに関して、どのように感じていますでしょうか。

Ceros:LJLや『LoL』関連の業界が大きくなること、大会の場が増えることは、うれしかったですね。年を追うごとに、世間に認められてきたことは肌で感じていて、いろんな企業の方がLJLや『LoL』、eスポーツシーンに価値があると思ってくれたことは素直にうれしく思います。

――その分、注目度が高まり、より多くの人から見られるようになったと思いますが、その点についてはどうでしたか。

Ceros:人から見られていることについては、チームのアドバイスやサポートもあって、特に問題ありませんでした。プロ活動の1年目から人に見られている感覚はありましたし、ゲームのトップ層はある程度みられる存在であったことはわかっていたので、急に注目されて戸惑うことはなかったですね。

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    LJL 2017 SUMMER SPLIT FINAL(幕張メッセ・幕張イベントホール)

  • Ceros選手

    LJL 2017 SUMMER SPLIT FINAL(幕張メッセ・幕張イベントホール)

――「DetonatioN FocusMe」はここ数年、LJLでは圧倒的な強さを見せていましたが、世界大会の「Worlds」などでは勝ちきれませんでした。世界と日本の差はどのように感じていますでしょうか。

Ceros:国際的な大会をベースに考えると、LJLはそこまで歴史がありません。サッカーのJリーグと同じような道を歩んでいる感じがします。Jリーグ発足時は、選手やコーチを海外から招聘したり、海外との練習などをしたりして、世界に追いつこうとしていましたが、LJLもまだその段階です。

一方で、2021年あたりから「DetonatioN FocusMe」がLJLで勝てないシーズンがあったり、勝ててもかなり苦戦するようになったりと、LJL全体のレベルアップを感じますね。国内リーグ戦で高い経験値を得て国際戦に臨めるのはいいことだと思います。

――世界との差を埋めるためには、今後コーチとしてどのようなことをしていこうと思っていますか。

Ceros:正直、コーチとしての先のことは考えてないんです。選手のときもそうだったんですけど、目の前のことを一つひとつクリアしていく感じです。なので、今年もLJLで「DetonatioN FocusMe」を勝たせて、国際戦に行くことが目下の役目です。

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    LoL World Championship 2018(韓国・LoL Park)

  • Ceros選手

    LoL World Championship 2018(韓国・LoL Park)

――選手を引退するに当たり、ストリーマーや解説者などの選択肢もあったと思いますが、コーチの道を選んだ理由はなんでしょうか。

Ceros:確かに選択肢はいろいろありました。ほかのチームに移籍をすれば、まだ現役のレギュラーとして活動するチャンスもあったと思います。それで打倒「DetonatioN FocusMe」を目指すことも、おもしろかったでしょう。ただ、移籍は早い段階で選択肢から消えていきました。理由は「DetonatioN FocusMe」というチームに対しての思い入れがあったのが大きいですね。

チームの運営側に回ることも考えましたが、どれもしっくりきませんでした。やはり強かったのは「DetonatioN FocusMe」に貢献したいという想い。その最善がコーチだという結論に至りました。メンバーの入れ替えが少なかったチームに9年いて愛着があるので、引退としたとしても「DetonatioN FocusMe」が優勝してほしいと切に願いますね。

――現在はコーチとなって「DetonatioN FocusMe」を支える立場を選びましたが、昨年、サブに回ったときはどんな気持ちだったのでしょうか。

Ceros:自分がプレイできないことに、悔しいと思う感情もありました。ただ、どこか『LoL』をプレイするモチベーションが低下していたのも事実。そういう意味では、ちょうどいいタイミングだったと思います。決して『LoL』がつまらなくなったり、嫌いになったりしたわけではなかったんですが、モチベーションの高さは戻らないような気がしていました。

――eスポーツ選手の引退理由として、eスポーツタイトルに生活のリソースをそれほど割けなくなった、割くのが辛くなったと聞きますが、そういう感じでしょうか。

Ceros:そうですね。年齢的や体力的な問題ではなかったですし、リソースを割くのが難しくなったのはあるでしょう。僕が選手として活動を始めた1~2年目は、おかしいくらいリーグで勝つことに注力していました。そのために『LoL』にいくらでもリソースを割けたんです。

ある意味異常な状態だったと思います。長年やってきた中で、その状態から普通の考えになってきたのかもしれません。その結果、『LoL』にリソースを割く割合が下がってきたんだと思います。

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    LJL 2019 SUMMER SPLIT FINAL(立川・アリーナ立川龍飛)

  • Ceros選手

    LJL 2019 SUMMER SPLIT FINAL(立川・アリーナ立川龍飛)

  • Ceros選手

    LJL 2019 SPRING SPLIT FINAL(よしもと∞ホール)

――引退発表動画ではオーナーの梅崎さんとの出会いについて語られていましたが、どんな出会いで、どんなことがあったのかを教えてください。

Ceros:当時は、ゲームは知らないけれどお金になりそうな気配を感じてeスポーツに参入するなど、いろんなチームオーナーがいた中で、梅崎さんは、ゲームがすごく好きで、ゲームに対して強い熱意を持っていました。

先ほど、「DetonatioN FocusMe」の分岐点となった試合について話ましたが、あれも梅崎さんがいたことが大前提ですね。梅崎さんがいて、「DetonatioN FocusMe」が優勝したからこそ、今があると思っています。

――選手時代の経験などで、コーチになって活かせることはありますでしょうか。

Ceros:僕がコーチングしてもらった内容のうち、素直に受け入れられたものは、自分が納得できたことなんです。もちろん、「納得できないけどやってみるか」ということもありましたが、納得できることが大事だと感じました。なので、僕がコーチングするうえでも、選手に納得させられるような指導ができればと思っています。

あとは、選手よりも高い理解度をもって、指導に当たれればと思います。例えば、海外のトップチームの試合をみて、選手が気づくことよりも多くのことを理解し、それを伝えられるようにしていきたいですね。

――プレイのコーチング以外で、例えば選手としての佇まいやファンに対する接し方、SNSの使い方などの教育も行っていくのでしょうか。

Ceros:チームマネージャーが指導してくれていると思いますので、メインではやらないでしょう。当然、目の前で何かおかしなことをするようであれば、さすがに注意しますよ。僕は今年で29歳になるんですけど、新人選手がチームに入ってくるとしたら、もっとも若くて18歳。年長者としてある程度のことは教えていかなくてはいけないと思います。

――選手時代は『LoL』にリソースを全振りしていたため、ほかのゲームをプレイしたり、趣味を持ったりするのが難しかったと思いますが、引退したことで多少の余裕ができたと思います。やってみたいことや挑戦したいことはありますか?

Ceros:YouTubeの動画、ストリーミングをやってみたいですね。今までは勝利が最優先だったので、それとは違うプレイを見せていけたらいいなと。また、ファンに対しても恩返しできればと考えています。現役の選手時代は決してファンサービスが良かったとは思いませんし、どちらかと言うと冷たかったと思います。なのでイベントなども、呼ばれたら積極的に参加していきたいですね。あとは、仕事以外に遊ぶ選択肢もあるといいですが、今はいろんなことを始めたばかりなので、まずはそんな環境の変化に少しずつ慣れていこうと思います。

――ありがとうございました。