ニコンファンのみならず、多くの写真ファンから熱い注目を集めているニコンのフルサイズミラーレス「Z 9」。いち早くZ 9を試した落合カメラマンも期待以上の仕上がりだと実感したようです。Zマウントの望遠ズームレンズに加え、Fマウントの超望遠レンズを用意し、動体に対するAF性能のすごさを試してもらいました。今回は、測距点の位置を示した「NX studio」のキャプチャ画像をすべての作例に添えていますので、Z 9の優れた被写体認識性能も合わせてチェックしてみてください。
ニコンに対する信頼と期待の高さがほとばしるZ 9
なななな、なんと! 本稿執筆時点(2021年12月下旬)、ニコン「Z 9」の次回出荷が「2022年10月以降」になるんじゃないかという話が…。要するに、発売日に手に入れられなかった人がZ 9を買えるのは、ヘタすりゃ約1年後ってこと? マジすかー。
世界的な半導体不足(かなり端折った言い方ですが)のあおりを受け、生産調整やディスコンに追い込まれるカメラが散見できるなか、難産の末やっとこデビューを果たしたZ 9にとっては、二つ目の障壁とでもいうべき、この無慈悲な現実! 一部のクルマも似たような状況に追い込まれているらしいこの頃ではあるけれど、今の世の中1年後に自分が、いや、この日本が、いーや世界がどうなっているのかなんてまったくわからんのに、その“待ち”は正直キビしいっスよねぇ。え? 幾ばくかの内金を入れちまえば、残金は残りの一年間でナンとか工面すりゃいいんだからラッキー! って? お、おう。すでに買ったも同然となれば貯金にも精が出るってもんで、たしかにそーゆー考え方も…。いやいやいや、ダメでしょ。買いたいモノはお金を貯めてから買いなさいっ(笑)。
発売日に手に入れた人って、多くの場合Z 9に触らず、それが本当はどんなものであるのかわからないまま買っているんだよね? それだけ「Z 9の仕上がり」は信用されているということなんだろうな。つまり、Z 6(II)やZ 7(II)とはベツモノであるという“読み”が最初からあったワケだ。これぞ、ニコンに対する信頼と期待の表れである。
まぁ、なかには別の目的で早期の入手を果たしている人もいるだろうけど。だって、これだけ長期間、入手困難となれば転売価格は…ねぇ。でも、その手の先読みができる人は絶対に写真家よりもお金持ち。人生の先読みができてりゃ、フリーカメラマンを35年近くもやっておりませんし(自虐)。
野鳥撮影で明確な進化を感じたAFまわりの性能
で、実際にZ 9を使ってみたら、これはもうね、期待通りというか期待以上というか。とにかく、テンバイヤーを蔑む気持ちなど瞬時に消し飛ぶほどの痛快で爽快な使い心地でありました。やったね、ニコン! コイツを早期に手に入れた人、大正解。今までの「Z」とはカ・ン・ペ・キにベ・ツ・モ・ノだ。
一番違うのはAF。動体への対応力が完璧なものになっている。カメラのAFに対する個人的な評価軸は、5年以上前から測距点自動選択時の動体捕捉&追従能力に置いてきているのだけど、その観点においてZ 9は先行してきたソニーとキヤノンにちゃんと追いつくことができた。これは「Z」としては初の偉業である。従来の「Z」を基準とするならば、まさしく月とスッポン雲泥の差。素晴らしい進化がそこにはある。
ただし、被写体認識(検出)に関しては、被写体の種類を見分ける数(9種)は最多を誇るも、認識動作の振る舞いそのものはソニーと同等、キヤノンよりはチョイ下の手応え。より小さな被写体を認識する(見分ける)能力に長けるのはEOS R5やR6、EOS R3であり、背景や前景にピントを持って行かれたときの復帰が容易なのもキヤノン勢であるとの印象だ。Z 9は、とりわけ背景に張り付いたピントを引き剥がすのに難儀することが多かった。捉えたい被写体が画面内で小さく、なおかつ背景のコントラストが高い場合、測距点自動選択(被写体検出含む)ではあっけなく背景にピントを取られ、その状態から脱するのがエラく大変なのだ。
もっとも、これは今回の作例に多く使っている「鳥」を初期設定のまま撮っている時の話。人間が主体の競技もの(画面内に被写体の占める割合が多い、主要な被写体が際立つ「色」を纏っているなど)である場合は、もっと違った「至近優先」主体の挙動を見せることになるだろうし、開発段階での機能追い込みも、おそらくおもにそういったシチュエーションで行ってきたのではないだろうか。「乗り物」を認識させた場合も、致命的な挙動を見せることはなかった。自分のフィールドに合わせ自分なりにAF関連のセッティングを煮詰めていけば、このあたりの印象を変えることは十分に可能であると思う。
なお、被写体認識の設定は「オート」にお任せよりも「人間」「動物」「乗り物」を任意に切り替えて使った方が、動作のスピードと認識の確実性は上であるとの手応えだ。まぁ、これは当然の成り行きだろう。もちろん、オート設定で決定的に困ることもないのだが、撮る被写体が絞られている場合は、任意に固定した方が安心感はナンボか上だ。
ちなみに、認識対象を「動物」に固定した設定で一番、敏感に反応(検出)した人工物が何だったのかと言えば、今回の試用においてはヘリコプターがダントツの一位だった。AFを司るAI君には、ヘリコが鳥に見えていたのかも? なかなか興味深い挙動ではある。
一方、ニコンのミラーレス機としては初の搭載となる3D-トラッキングAFは、旧来のフラッグシップ一眼レフ並みの動作を見せてくれるなど完成度は十分に高いことを実感。ターゲットの捕捉に「被写体認識」を併用できることを考えると、一眼レフ以上の有用性を発揮する機能に上り詰めたと言っても良さそうだ。ただ、被写体やシチュエーションによっては、賢さをグンと増しているオートエリアAFに丸投げの方が結果的に打率向上につながるやも知れぬとの思いも。自分自身の使い方において3D-トラッキングAFの使いこなしがベターなのか、あるいはオートエリアAFを手なずけた方が得策であるのかは、十分な吟味が必要だろう。
次回は、高感度画質に対する意外な印象と度肝を抜くクオリティを有することになっているEVFなどについて触れる予定だ。しかし、まぁ、なんというか、Z 9を使ったこと、ちょっと後悔だなぁ。だって、これ、一度使うと、ホレるなってのが無理な相談になっちまいますからーっ!