ソフトバンクは11月4日、2022年3月期第2四半期決算を発表しました。それによれば、売上高は半期ベースで過去最高の成績でした。登壇した宮川潤一氏は、通期目標に向けて「まずまずの中間報告ができたのではないか」と総括します。

質疑応答では「料金値下げの影響」「NTTドコモの通信障害」「NTTドコモの巨大化」「ソフトバンクの将来像」などについてコメントしました。

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    ソフトバンク 代表取締役 社長執行役員 兼 CEOの宮川潤一氏

通期目標の達成は「やり切れる」

2021年度の上期の連結業績は、売上高が2兆7,242億円(前年同期比+2,958億円)、営業利益が5,708億円(同-188億円)、純利益が3,073億円(同-78億円)でした。

宮川社長は「売上高については12%の増収で、半期ベースでは過去最高でした」と評価。その要因としてLINEを子会社化したこと、また携帯端末の販売が回復したことを挙げます。

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    2021年度 上期の連結業績

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    全セグメントで増収した

営業利益は3%の減少。「コンシューマ事業の売上高について400億円の下げ額でした。通信料金の値下げ要因が上期で260億円あります」と説明したうえで、「60%の進捗率で、やり切れるのではないかと自信を持っているところであります」と通期目標の達成に向けて自信をのぞかせます。

純利益の通期目標は5,000億円。こちらについても「すでに60%となり、達成可能な圏内に入りました。まずまずだったな、と思っています」と振り返りました。

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    2021年度 通期業績予想の進捗率について、宮川社長は「総じて半分以上は達成できている」と前向きなコメント

スマートフォンの契約数は6%増で、累計契約数は2,650万に到達。特にワイモバイルが堅調に伸びています。そして5Gプランの累計契約数は1,000万超。「スマホの累計契約数のうち3分の1以上は、この5Gプランに入っている状況になりました」と説明します。

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    スマートフォンの累計契約数

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    5Gプラン累計契約数

スマホ決済サービスのPayPayについては、ユーザー数が4,300万人を突破。決済回数(半期)は16.6億回(前年同期比81%増)となりました。

宮川社長は「スーパーアプリになるための最重要KPIが決済回数。10月の決済回数は3億回を超えています。まだまだ成長できるアプリだということを示しています」と話します。

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    PayPayユーザーは4,300万人超。決済回数(半期)は16.6億回、決済取扱高(半期)は2.4兆円に達した

ちなみに、PayPayでは2021年10月より中小店舗の決済手数料を有料化しましたが、その影響は軽微だったと報告。「全加盟店344万店舗のうち、解約は0.2%に過ぎませんでした。月額のGMV(流通取引総額)は4,000億円あり、解約店舗のGMVは約4億円です」と説明しています。

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    中小店舗の決済手数料による影響は軽微だったと話す

料金値下げは5G基地局整備に影響するのか?

報告のあとは、メディアから寄せられた質問に宮川社長が対応しました。

料金値下げは基地局の整備に影響しないのか、と問われると「今後は影響するかもしれないと思っています。国から周波数をいただくときに開設計画を出すんですね。7年間でどのくらいの基地局を建てて、どんな運営体制でやっていくのかという内容です。当然、通信料金の計算をして、収益と費用のバランスを考えて進めている。だから収益のほうでバランスが崩れると、支出のほうも何かを抑えないといけなくなります。この1~2年は5Gを立ち上げる時期。いまがイチバン厳しい、悩ましい、というのが本音です。我々としてはほかの分野で、例えばリストラだとかコスト削減などを徹底的に行って、ネットワークの設計に不備がないようにやっています。ただ、これが5~10年も続くと、通信のインフラ整備のありかたはどこかで見直す時期がくるかもしれません」と回答。現在のところはCAPEX(設備投資)を減らす予定もなく、むしろCAPEXを超えるくらいの勢いで5G基地局を建設中であると強調しました。

今後のサービスと料金のありかたについては「いま0円スタートできる料金プランも世の中には存在します。ずっと長いこと技術を担当してきた自分の立場から申し上げると、ネットワークを維持するには24時間365日体制が必要。今日も深夜から出社してネットワークを監視する社員がいます。機械は必ず壊れるもの。壊れたときは自動復旧を待つわけですが、それで直らなければ現地に赴きます。こうした運用コストが賄えなくなるところまで、料金プランを(値下げ方向に)踏み込むつもりはございません。ある程度、加入者さんにはネットワーク維持コストを負担していただき、あとは使用量に合わせて料金に違いをつける。これがベストで、そのバランスを見つけるべく、いまトラフィックの分析も含めてやっています」と答えました。

5Gの基地局整備について、半導体不足の影響はあるのか、と聞かれると「クリティカルな影響はまだ出ていません。発注したものが手に入るのが、ずいぶん先になったり、少しずつ影が見え始めたところ。チップの周りも時間がかかっている。いま、半導体不足による実害は『iPadが入らない』ことです」と回答しました。

NTTドコモの通信障害や巨大化についてどう考える?

NTTドコモが10月14日に起こした通信障害について、今後は他キャリアがローミングを提供することで通信障害を回避する方法もあり得るのか、といった質問には「見ていると起こりうる障害かなと思いました。IoTデバイスが障害の中心でした。例えばIoTデバイスを他キャリアがローミングするには、どのキャリアの信号も読めるようなデバイスを作らないといけない。現実的にはコストが上がるので難しいでしょう。ネットワークのコア側で起こる障害は、同じミラーを持ちにくいんです。だからキャリア同士が『こういう制御プログラムを使っています』ということを情報交換していくことも必要なのかな」と考えを述べます。

世界的に見ても、日本の携帯電話の利用料金はだいぶ下がってきたのでは、という問いには「総務省の発表によると、安さでは世界2位になったそうです。通信量、通信品質を考えると、ボクは世界イチ安いところまできているのではと思います。安さを目指す、ということが日本の進む方向であればそれについていきますが、通信業界を引っ張っている外国は、そういう方向を目指していません。これでは、日本は通信の開発競争から遅れてしまうのではないかという懸念があります。デバイス系も含めて、キャリアらしさを追求してきたのが日本の従来のやりかた。その部分が失われるのは悲しいのでがんばりますが」と宮川社長。基地局の整備についても「4Gと5Gでは、数も電力もまったくの別物。相当なエネルギーを消費しますので、4Gよりさらに安い料金で5Gを維持できるか、心配があります。工夫しながらやっていきたいと思います」と意気込みました。

また、NTTドコモが、NTTコミュニケーションズ、NTTコムウェアの子会社化を発表したことについては「超驚異でございます。もともと大きすぎて分割したものが、いつの間にか一緒になって、同じカタチに戻りつつある。『時代が変わったから仕方ないよね』とおっしゃっていましたが、競争政策のなかでは、何らかの議論があってよいことだと思っています」と話します。

しかし、「もう始まってしまったこと」としながらも「いま法人周りのデジタル化がすごい勢いで広がりつつあります。日本の法人もデジタル化をやり始めた。ソフトバンクでもこれを応援しています。そしてNTTドコモさん、コムさんもそれが得意な会社。ここは健全な競争になるのでウェルカムです。その先で、日本が成長するためのDXに突入していく。新たな構造づくりには叡智が必要です。ソフトバンクだけでなく、NTTさんたちにもがんばってもらい、切磋琢磨することで新しいビジネスモデルが生まれていく。そんな環境が望ましい、あるべき姿と思っています」と前向きな意見を述べました。

そのなかで、ソフトバンクの強みについて聞かれると「他社より早く法人のDXに注力してきたことによる知見があります。そしてSVF(ソフトバンク・ビジョン・ファンド)には最先端のDXカンパニーがあり、そうしたビジネスモデルとも融合しながらやっていける。負けないようにがんばります」と話していました。

ソフトバンクの将来像は総合デジタルプラットフォーマー

前回の発表では50万未満と話していたLINEMOの契約数について聞かれると、単体の数字については非開示としながら「LINEモバイルとLINEMOを足して100万を超えています。月額900円のブランドを出してからLINEMOは毎月、勢いを増しています」と説明。どう育てていくか、については「我々にはワイモバイルもあります。今はワイモバイルのほうが、お客さんウケが良い。ワイモバイルを主力にして、オンラインでLINEMOをやります。ワイモバイルのほうが、はるかに上なので、そちらをさらに強化していきたい」と話しました。

ソフトバンクの将来像については「これまでは『通信屋さん』として生きてきました。これが『総合デジタルプラットフォーマー』になります。業界ではレイヤーと言いますが、通信をつなげる土管屋さんの仕事をイチバン底のレイヤーとして、その上にプラットフォームが乗るレイヤー、そしてサービスが乗るレイヤーがある。それぞれ、まったく違う仕事をしていますが、それらのレイヤーをトータルで持つ会社になりたい。日本国内で顧客接点をしっかり持ったので、サービスを作る側にまわります」と説明します。

そして、30~50年後を逆算したプランとして「地球温暖化など、環境の変化が思ったより早く起こり始めています。ソフトバンクとして、環境保護にどう貢献できるか。それを企業の未来のカタチにしていきたい。電気通信事業者は、電気を大量消費して通信に変える立場です。電力は今後はカーボンニュートラルになりますし、電力の消費を抑えるテクノロジーの開発にも本気で取り組んでいきます。世の中における、我々の役割を作っていきたい。いまのビジネスの延長線もやりつつ、逆算してやらなくてはいけない事業もある。これを組み立てて、ソフトバンクの未来のカタチを示していきます」と語りました。

PayPay黒字化の時期については「いつになるか、はまだ申し上げるわけにはいきませんが、数年以内には黒字化できる環境にあると思っています。決済手数料を有料化できたことから、あとは獲得コストとの見合いになる。コントロールしようと思えばできるところ(の近く)まできています。もう少し拡大路線をとって、それから回収時期に移行したい。まだ攻めたい気持ちがあります。数年先には黒字化したい。どのタイミングかは、決まり次第、ご説明します」と答えます。

PayPayの収益源は決済手数料がメインになるのか、という問いには「ある程度、メインになるかと思います」としつつも、「アリペイは後払い(ローン)のマネタイズが主力どころです。PayPayマイストアでは、店舗のデジタル化という切り口でキャンペーンとか、販促の利益も見込まれる。そうしたことを複合的にやっていきます」と回答しました。

コンシューマ事業でARPUを上げていく施策について聞かれると「一度、下げた料金は正直、なかなか上げ辛いものがあります」と苦笑い。ただ、5Gでリッチコンテンツを利用するユーザーが増えたことで、ワイモバイルなどからソフトバンクに移る数も増えているようで「トラフィックが出る5G端末ですから、使い放題の無制限プランに寄る時代がくる。リッチコンテンツをきちっと出していくことで、マーケットが広がっていきます。まずは5Gネットワークをつくること。各キャリアとも、ここが主戦場になる。どのキャリアさんも、2021年中に5G SA(スタンドアローン)のコア設備が整うことで、ネットワークスライシングなど新しいサービスも生まれるでしょう。あと2~3年で、まったく違った料金体系になると想像します。そのときに出遅れることなく、業界をリードしていきたいと考えています」と展望を述べました。