新型コロナにはインターネットの登場と同じほどのインパクトがあった

リモートワークがだいぶ普及し、人々の働き方や生活の仕方が大きな変化を余儀なくされました。理由は言うまでもなく新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の世界的流行です。

物流・観光・出勤がリスクになり、人の移動を前提にデザインされていたビジネスが、移動できないことを念頭にした再デザインが必要に。データと通信の力で対応することよってビジネスが続けられ、多くの人が外出自粛と在宅勤務を経験しました。

従来の仕事とは、出社してPC・電話機・書類の載った自分のデスクで働くのが当たり前でしたが(もちろん職種によって異なります)、それらがなくてもデジタルデータとデバイスがあれば仕事ができることに気付かされたものです。

ここでは、ファーウェイ・ジャパンがメディア向けに開催した「DX時代に求められる“働き方×マインドセット”」セミナーから、株式会社圓窓 代表取締役 澤円(さわまどか)氏の講演を中心にお伝えします。「プレゼンの神」とも呼ばれる澤氏は、単行本『「やめる」という選択』を7月に出版。動画サイトなどで澤氏のプレゼンに触れたことのある人も多いと思います。

  • 講演を行った圓窓(えんそう) 代表取締役の澤円(さわまどか)氏

澤氏は、リモートワークが当たり前になった2020年は人々に意識の切り替えを迫るようになったと述べます。

新型コロナウィルスの感染者が減少傾向となり、2021年9月30日をもって全国で緊急事態宣言が解けました。ぼちぼち「コロナ以前に戻そう」という意識が芽生え始めるころです。日本人は「元に戻す」が得意な民族で、同調圧力にも比較的弱いので、せっかく新しい働き方に慣れてきたものを戻したくない人も多いでしょう。

  • 澤氏は2020年をリモートワーク元年と呼んでいます。?!付きですが

澤氏は、新型コロナがビジネスや人々の生活習慣に与えたインパクトは、1995年のインターネットの登場(普及開始)に匹敵する大きさであり、特に影響を受けたのがコミュニケーションの手段だったと指摘します。今さら手紙・電話・FAXが中心の時代に戻れないように、新しい働き方に順応していかないと、インターネットに乗り遅れた企業のようになりかねないというわけです。

「これからのDX(デジタルトランスフォーメーション)の世界で生きていくには、マインドセットのアップデートが不可欠。考え方や心の持ちようを変えていく必要があります。デジタルのスキルはもちろんあったほうが良いですが、世界が変わったのだから、考え方や物事の受け止め方を変えていかなければなりません。そのために何をするべきか。何を始めるべきか。最初にやるべきことは『しなくて良いことを選択すること』です」(澤氏)

  • マインドセットをアップデートする第一歩として「しなくて良いことを選択する」をすすめています

「とりあえずやる」はやめろ

現代はモノも情報も方法論も過剰に供給されています。澤氏によれば、書店の新刊を見ても「やめる」をキーワードにしたものが増えているそうです。「こんまりメソッド」のようなものが流行するのも、減らす、削っていく、やめる、シンプルにしていく、ミニマルにしていくといったことが、世の中で求められているからこそだと言います。

では、仕事の上ではどうやって「しなくて良いこと」をやめるのでしょう。澤氏は「上司が、意味が薄いと感じたことを『やめろ』と指示すること。『やれ』ではなく『やめろ』が大事」と述べます。その具体例が「意味の薄いミーティングをやめる」と「意味の薄い移動をやめる」です。

  • やるべきことは「意味の薄いミーティングをやめる」「意味の薄い移動をやめる」。思い当たるフシはありますか?

日本人はとりあえず会議に出る、とりあえずメールのCCに入れておくなど、「とりあえず」が付くと「やる」のが特質で、会社にも「とりあえず」行ってしまう人がとても多い民族です。澤氏は「『とりあえず』ならやめるクセをつけて、『何はさておき』だけをやるように」――とアドバイスします。少々極端な気もしますが、それくらい意識しないと良い習慣は身に付かないのかもしれません。

やめることを決めれば、可処分時間が増えます。人間は誰しも一日24時間しか持っていません。可処分時間が増えることは、実はとても重要な意味を持っています。「意味が薄いと思ったら『やめる』の一択」と力説する澤氏が印象的でした。

  • やめることを決めて実行すれば可処分時間が増えます。私もあなたも足りていない睡眠時間だって増やせるのです

耳だけでできる仕事を探せ

多くの人が在宅勤務を経験する中で、昼間に家で仕事しようとすると、ノイズがたくさんあることに気が付くようになったのも、昨今の風潮と言えるでしょう。

「ノイズの多い環境での仕事に求められるスキルは「ながら」のスキル」(澤氏)

そして、「ながら」を鍛えるには耳を使いましょうと訴えます。仕事にしろ日常生活にしろ、目を持っていかれると何もできないことが多い中、耳を使わなくてもできることは多く、そんなときに耳を別のことに使う「ながら」が有効というわけです。

家の中であれば、たとえば料理や掃除をするときは、耳は別のことに使えます。外出時も移動中は耳が空くことが多く、ながらで勉強したり、ニュースを聴いて情報収集したりもできます。聞くだけの会議に出席するくらいなら、その会議の録音を聞きながら、取り引き先や現場を1件でも多く回ったほうが有意義です。

  • 多くの仕事は目を使います。「耳だけでできる仕事を探せ」は、パソコン作業の長い人には胸に刺さる言葉かも

在宅ワークは見方を変えれば、「仕事が自宅に押し寄せている、侵略している状態」でもあります。場所と仕事の相関関係が希薄になった現代は、「軽やかに働く」が求められる時代だと澤氏は言います。

やや抽象的な言い回しですが、気持ちを楽にして、フットワーク軽く、いつでもどこでも一番働きやすい場所を見付けて働き、ここでなければできないという時間や場所をなくしていくこと。そのための環境を整えることだと感じました。

  • たとえば「丸いものは人間を楽しい気分にさせる」として、ファーウェイの完全ワイヤレスイヤホン「FreeBuds 4」を取り出す澤氏。気持ちを上げていくアイテムは、環境を整える要素の一つ

耳を使った「ながら」に有用なアイテムの一つとして、完全ワイヤレスイヤホンが挙げられます。ケーブルがないので引っかからず、断線の心配もなし。ノイズキャンセリング付きやマイク性能が良いものを選べば、どこにいてもコミュニケーションの不安が和らぎます。最近のスマホはイヤホンジャックがない機種も多く、完全ワイヤレスイヤホンは現代のマストアイテムとも言えるのではないでしょうか。

人を退屈させるものは悪

大切な「ながら」を理解したところで、可処分時間の重要性にもう少し触れます。可処分時間の重要性を多くの人が理解すると、「人を集めて話すこと」はプレミアムなことになります。半面、「人を退屈させるものは悪だ」という認識が広がるようになります。会議でもプレゼンでも、いかに参加者に有意義な時間と思ってもらえるかが大事なのです。

  • 会議や講演には「参加者に時間を借りている」という意識が必要になっていきます

仕事では管理職にも変化が求められます。リモートワークでは部下の仕事ぶりが見えないため、管理が難しいと言われていますが、澤氏に言わせると「さぼる人間はリモートワークじゃなくてもサボっていました。サボり方が変わるだけ。管理の仕方もアップデートできなければ、管理職として無能扱いされます」と警告します。

ではどうすればいいか。「軽やかにいろいろなところで仕事して、結果だけ持ってくる。それが評価される仕事の仕方になります」と澤氏。どんな結果をどうやって出させるかが大事で、その過程を見張ることにウェイトを置くべきではないというわけです。

  • コロナ禍の前からサボる人はサボっていました。サボり方が変わっただけ。マネジメントもやり方を変えていく必要があります

日々の雑談がコミュニケーション能力を鍛える

澤氏はこれからの仕事の仕方について、軽やかに働くことと同時に「大きな主語を使わず、『私は』『あなたは』を使う最小単位での会話」「互いに自己中であることを認め合うこと」「困ったらすぐに誰かを頼ること」「自分が最強になれる場所を探してそこで勝負すること」をすすめています。

いずれも重要なのはコミュニケーション能力です。いろんなタイプの人と意思疎通できることが求められます。そうなると日常の雑談をいかに上手にできるか、「誰にでも『5分話せる?』と声をかけられて、受け入れられる力が大事」(澤氏)と言います。雑談力を上げると、会社の中だけだった物差しが「外の物差し」も使えるようになり、今までと違う評価軸を知ることができるようになります。

  • 澤氏は「雑談」を推奨しています。もちろん、これは「意味の薄いミーティング」とは別物です

困ったら迷わず人を頼る、自分が最強になる場所を見つける、外の物差しを持つなど、今までと違う新しい価値観や働き方が、かつてないペースで目の前に現れてきます。澤氏は「新しい働き方に適応するのは靴紐を結ぶようなもの。靴紐を他人に結んでもらってはいけません。自分で靴紐を結ぶように軽やかに対応していきましょう」と述べ、「テクノロジーの力で素敵な未来を作りましょう」と結びました。