京都eスポーツ文化祭事務局は、「NASEF JAPAN 京都eスポーツ文化祭 説明会」と「eスポーツの教育的価値と地域創生セミナー」を8月26日にオンラインにて開催しました。
将来的には学生主体の街おこしイベントに
京都eスポーツ文化祭は、eスポーツを通じた人材育成と地域創生を目的に、eスポーツ大会「NASEF JAPAN杯eスポーツ ロケットリーグ選手権」と各種セミナーを行うイベント。開催地は京都のサンガスタジアムのスカイフィールド内にある「e-SPORTS ZONE」で、日程は2022年2月を予定しています。
eスポーツ大会は『ロケットリーグ』を使用し、京都府のみならず全国からオンラインで参加者を募集。ゆくゆくはサンガスタジアムを『ロケットリーグ』の聖地とし、4年後には参加者100~500名、観戦者3,000~5,000人規模のイベントにすることを目指します。
また、京都eスポーツ文化祭では、新たな大会を創設するだけでなく、eスポーツの教育的意義やイベント運営ノウハウを学びながら、地元企業や学生たちによって開催できるように考えています。それによって街の活性化、ITCリテラシーの向上、協賛学校の進学、協賛企業への就職など、京都府でeスポーツによる良い循環を生み出す狙いがあります。
先に紹介した『ロケットリーグ』の大会「NASEF JAPAN杯eスポーツ ロケットリーグ選手権」は、各種コンテンツ制作やプロモーション活動も京都の学生、生徒が行う予定です。
さらに、高校教職員向けにeスポーツ教育セミナーやオンライン相談会も実施。eスポーツやゲームの知見が少ないがためeスポーツ部の顧問を引き受けることに二の足を踏んでしまっている教職員のサポートをしていきます。
eスポーツアスリート育成セミナーでは、eスポーツをプレイしながら実践的な英会話を学ぶ「ゲシピ eスポーツ英会話」や『ロケットリーグ』初心者のための合同練習、ある程度上級者向けのプロ選手によるコーチングなどを無償で提供。京都とオーストラリアをつないだ『ロケットリーグ』の海外交流戦により英語を学ぶ機会も用意しています。
eスポーツアスリートや実況解説のようなゲームプレイに直接的に関わる技術の習得だけでなく、大会運営やマーケティングを学ぶことで、Webページ作成、動画編集、オンライン配信など、eスポーツ以外でも役立つスキルの習得も可能。NASEFが掲げるeスポーツを教育に最大活用していく理念と同じく、eスポーツを通じて、さまざまな学びをする体験の場として展開していきます。
ゆくゆくは高校生が主体のイベントで、地元企業を巻き込み、街おこしイベントとして京都から全国に発信できるように目標を掲げています。さまざまな方向からeスポーツを通じて学生が学べる場として機能していきそうです。
気になった点としては、大会タイトルの選定が主催者側の主導であったことです。『ロケットリーグ』は、世界プレイヤー数5800万人を超え、観戦ファン人口は5億人を超えると言われていますが、こと日本ではそこまで周知され、人気を獲得したタイトルではありません。これは主催者側も理解しているとの発言がありました。
高校生のeスポーツ大会「全国高校eスポーツ選手権」で正式タイトルになっていますが、それも高校生の人気を牽引できるほどにはなっていないのが現状ではないでしょうか。
「全国高校eスポーツ選手権」の第3回大会は194校の出場でしたが、同じく高校生向けのeスポーツ大会である「STAGE:0」の第3回大会は1,960校と大きく差が広がっていました。差が付いた理由としては、大会規模や宣伝手段など、さまざまな要因はあるものの、やはり扱われているタイトルの違いが大きいと思います。
京都eスポーツ文化祭で『ロケットリーグ』を採用した理由は、サンガスタジアムを使用するにあたり、サッカーとeスポーツに即したタイトルとして、車を使ったサッカーゲームである『ロケットリーグ』を選んだとのこと。ですが、それであればもっとダイレクトにサッカーゲームである『ウイニングイレブン』や『FIFA』を使用する手段もあったはずです。
もちろん世界でこれだけの人気のあるタイトルなので『ロケットリーグ』自体のポテンシャルの高さは採用するに相応しいと考えています。ただ、今の日本での人気では、多くの参加校数や観戦者数を達成するには、かなり難しいと言わざるを得ません。日本で『ロケットリーグ』を人気タイトルに押し上げる施策があるのかと問えば、それも特にないとの話でした。
高校生が主体の大会を目指すのであれば、大会タイトルを高校生が選ぶまではなくとも、高校生の多くがプレイしており、大会に参加してみたいと思うようなタイトルを選ぶ必要があると思います。撃ち合うゲームよりも保護者の理解を得やすいという選定理由が挙げられており、明らかに高校生よりその保護者や教職員など、クレームがきそうな層への対策であるとも考えられます。主催者や運営が検討し尽くしての結果だとしても、やはり高校生不在に見えてしまうのは残念でした。
eスポーツの持つ教育的価値とは
第2部では、「eスポーツの教育的価値と地域創生セミナー」が行われました。2つのセミナーが行われ、1つめは「eスポーツの教育的価値と地域創生の可能性」、2つめは「日米の事例からみるeスポーツの教育的価値」がテーマです。今回は「eスポーツの教育的価値と地域創生の可能性」についてレポートします。
登壇したのは、一般社団法人全国高等学校eスポーツ連盟(JHSEF)理事 大浦豊弘氏です。JHSEFが考えるeスポーツの教育的価値の1つとして挙げられるのが、ユニバーサルスポーツとしての価値。eスポーツはフィジカルに頼らず、性別、障がい、体力格差などの違いを乗り越え、平等にチャレンジできる競技です。
全国高校eスポーツ選手権で、第1回大会に出場した城北つばさ高校のラハト選手は、足が不自由な車椅子の選手、第2回大会に出場したN高校の大友美有選手は女性選手と、障がいや性別にかかわらず、同じ大会に出場していました。
また、不登校などの教育現場の懸念解決にも活用できる可能性もあります。第1回大会に出場した岡山県共生高校の佐倉涼太選手は中学時代に不登校を経験したあと高校でeスポーツ部を立ち上げ、eスポーツ部部長と生徒会長を兼任していました。
次に戦略/戦術的思考能力を向上させる価値があります。試合に敗北したのち、負けた試合を振り返り敗因を分析する。分析結果をチームで話合って対策を練る。対策を実践するために技術の向上を図り、再度試合に臨む。ただ単にゲームをプレイし、勝った負けたで終わらず、考えて行動することで戦略/戦術的思考能力を養えます。
コミュニケーション能力の向上も挙げられます。先の戦術的思考能力でもチーム内で話し合うことが述べられていましたが、試合中はボイスチャットによるコミュニケーションが勝敗に大きく関わってきます。自分の現状や仲間にやって欲しいことを伝え、対応することで、チームコミュニケーション能力が高まっていくでしょう。
最後にICTスキルの向上。eスポーツはPCやゲーム機を使用し、配信やボイスチャットなどさまざまなICTスキルを磨ける機会でもあります。学校の授業では伝えきれないITやインターネットの活用方法がeスポーツを通じて自然と身につきます。
高校でeスポーツを行う目的としてもっとも大きいのが、eスポーツが産業として発展し、さまざまな新しい職業が生まれてくることにあります。経済産業省では2025年に経済効果3000億円を目標とし、eスポーツ支援に乗り出しています。eスポーツはデジタル クリエーションの入り口として活用することが考えられ、次世代のデジタル人材育成に役立つと考えられています。
教育現場だけでなく、自治体もeスポーツへの取り組みを始めており、徳島県では産官学連携で地方創生を目指しています。徳島県庁、四国大学、阿南工業高専、JHSEFが連携することで、地元企業が地元高校を支援し、高校と大学が繋がることで地元での進学を増やしていきます。さらに支援してきた企業へ就職することで地方の人材が循環する形を作り、デジタル人材を育んでいきます。
デジタル庁が発足し、プログラミング教育が開始されてもなお、ICTスキルが低いと言わざるを得ない日本において、eスポーツと高校教育がデジタル人材の育成と地方創生を担う可能性は多いにあると言えるでしょう。