どこかに置き忘れてしまった鍵などの大事なアイテムを簡単に見つけるためのアクセサリー「AirTag」をアップルが発表しました。この手の“忘れ物防止タグ”はすでに多く存在しますが、AirTagは「世界に数億台もあるiPhoneやiPadと連携し、大事な探し物をより早く、より確実に見つけられる」というズバ抜けた機能を備えているのが特徴です。このジャンルでは最後発ながら、発見能力で劣る既存製品を一気に追い抜いてスタンダード的な存在になるのは間違いなさそうです。

  • アップルの「AirTag」は、既存の忘れ物防止タグを物足りない存在にしてしまう機能を秘めていた。価格は3,800円で、4個セットモデルも12,800円で用意する。発売日は4月30日で、4月23日の21時から事前予約を開始する

デザインはシンプル、別売のホルダー類は高いけれど必須

AirTagは、500円玉よりもひとまわり大きいコイン状の円形デバイス。iPhoneやiPad、Macなどの「探す」(Find My)アプリを使ったりSiriで呼びかけると、AirTagのある場所の地図や距離、方向を表示でき、AirTagを付けた鍵や財布、バッグなどが探し出せる仕組みです。

  • アップルらしくシンプルな造形のAirTag。アップルロゴのある背面カバーは金属が用いられ、質感も高い

セットアップはアップルの周辺機器らしく実にスマート。AirTagの保護シートを取り外すとバッテリーが通電して起動し、AirTagのセットアップを促す画面が自動的に現れます。あとは、AirTagの名前を設定するだけで完了。AirPodsなどと同様に、ものの1分ほどで使えるようになります。

  • セットアップはAirPodsシリーズと同様のシステムで、iPhoneの近くにAirTagを置いていれば自動的に発見してくれる。AirTagの名称は好きな文字列も設定できる

AirTagにはストラップホールなどは用意されていないので、別売のホルダーなどに入れたうえで、鍵や財布などの身の回りのものに取り付けて利用します。ホルダーがないと鍵などに取り付けるのは難しいため、ホルダー類はほぼ必須。出費がかさむのは覚悟しておきましょう。

  • アップル純正の装着用アクセサリーは、本革製の「AirTagレザーキーリング」や「AirTagレザーループ」、「AirTagループ」などを用意するが、いずれも値が張るのが悩ましい

  • カメラのストラップに取り付けたところ

  • ハンドバッグに取り付けたところ

UWB搭載のiPhoneなら方向や距離が細かく表示される

AirTagが多くの忘れ物防止タグと比べて優れている点は2つあります。1つは「iPhone 11以降のモデルならば、AirTagのありかを方向、距離ともに細かくリアルタイムに表示でき、確実に素早く探し出せる」機能が用意されている点です。

自宅で鍵などの小物をなくした場合、忘れ物防止タグから鳴る音だけではありかを速やかに把握するのが難しい場合があります。AirTagは「UWB」(Ultra Wide Band)と呼ばれる超広帯域無線システムに対応しており、同じくUWBの機能を備えるiPhone 11以降のモデルを用いた場合、AirTagのある方向や距離が細かく画面に表示され、一直線にありかにたどり着けます。実際に試してみると、宝探し的な感覚で楽しく探せます。

  • AirTagは「探す」アプリの「持ち物を探す」タブで探し出せる。UWBを搭載したiPhone 11以降のモデルならば、方向や距離が細かく表示でき、容易に発見できる

UWB搭載のiPhone 12 miniでAirTagを装着したカメラを探しているところ。画面と音、振動でAirTagに近づいていることを知らせてくれる

世界中に張り巡らされた「iPhoneの網の目」で探し出す

もう1つの大きなポイントが、「出かけた先などで鍵などをどこかに置き忘れてしまった場合、近くの人が持っているiPhoneと連携し、AirTagのありかを発見しやすくなる」点です。

既存の忘れ物防止タグは、同じシリーズの製品を使っている人が近くを通った場合、その人がスマホに導入した専用アプリとクラウドを経由してありかを把握できる仕組みになっています。つまり、製品を使っている人が増えないと、検出してくれる可能性は低いまま。全世界で数千万単位で普及したシリーズもありますが、「知り合いの誰もが持っている」という状況にはほど遠く、「見つかればラッキー」的な程度にとどまります。

それに対し、AirTagがすごいのは「iPhoneやiPad、Macなどのアップル製デバイスで検出できる」ということ。しかも、特別なアプリを導入しておく必要はありません。置き忘れたAirTagの近くをiPhoneユーザーが通りかかると、AirTagが発信するBluetoothの信号を受信したiPhoneが位置情報をiCloudに送信し、iCloudを経由してAirTagのありかが「探す」アプリで確認できるわけです。

アップル製デバイスは全世界に数億台あるといわれており、普及の度合いは既存の忘れ物防止タグとはまさにケタ違い。日本では、スマートフォンの2台に1台がiPhoneといわれており、人が通る場所の近くに置き忘れたならばほぼ確実に検出できるとみられます。

外出先で置き忘れたものを取り戻しやすくする工夫も盛り込まれています。AirTagを紛失モードにした状態で、運よく誰かがAirTagの付いたものを発見した場合、NFCを搭載したスマホをAirTagにかざすと事前に登録した電話番号やメッセージが表示され、その人と直接連絡を取れるようになります。情報は特別なアプリではなくWebブラウザーで表示されるので、スマホはiPhoneに限らずAndroidにも対応するのがポイントです。

  • 探し物が見つからない場合、探すアプリから「紛失モード」にすると、連絡先の電話番号やメッセージが登録できる

  • 置き忘れたものを見つけた人が自分のスマホをAirTagにタッチするとブラウザーを開くよう通知が現れ、ブラウザーを開くと登録した電話番号やメッセージが表示される

  • 「AirTagが付いているものを見つけたからスマホでタッチしてみよう」という行動を起こしてもらえるようになるのが理想的だ

プライバシーを危険にさらす悪用を防ぐ工夫も

このように、探し物のありかを確実に素早く探し出す機能を備えたAirTagですが、位置情報などのプライバシーを第三者に不当に取得されないための工夫も盛り込んでいます。

意図せずに他人のAirTagを自分のカバンやポケットなどに入れられ、気づかないまま誰かに居場所を追跡されないか…と心配になる人がいるかもしれません。もし、自分のものではないAirTagが自分のカバンなどに隠されていて、そのAirTagと紐付けられたiPhoneが近くにない場合、しばらくするとそのAirTagから音が鳴るとともに、自分のiPhoneに「自身のものではないAirTagがある」と通知が現れ、注意を促す仕組みが備わっています。これでAirTagの存在に気づけるわけです。

  • カバンなどの持ち物にAirTagをこっそり仕込まれていても、自身の居場所を追跡されないような工夫が盛り込まれている

  • 他人のiPhoneと紐付けられたAirTagを検知すると、「自身のものではないAirTagがある」という通知が現れ、タップすると解説が表示される

NFC対応のiPhoneやAndroidスマホを使っている場合、発見したAirTagにスマホをかざすことで、シリアル番号が確認できるとともに、対処法が閲覧できます。対処法はシンプルに「AirTagの裏ぶたを外して電池を抜く」方法ですが、裏ぶたを押し込みながら反時計回りに回せば外れる、と分かりやすくガイドしてくれます。

  • 見つけたAirTagにスマホをかざすとシリアル番号が確認できる

  • 追跡をブロックするには、シンプルにAirTagの電池を外せばよい。裏ぶたは工具などを用いる必要なく、押し込みながら回せば外れる。この要領で、消耗した電池の交換も簡単にできる

この「AirTagと紐付けられたiPhoneが近くにない場合、AirTagから音が鳴る」という仕組みがあるため、「子どものランドセルにAirTagを付けて見守り用途に使う」「実家に住む高齢の親の行動を見守りたい」「ペットが家の外に逃げ出した時に備えて首輪に付けておく」といった用途に使うのは現実的ではありません。子どもや親の行動を見守るならば、このような制約がなく双方向のやり取りも可能なApple WatchやiPhoneを利用するのがベター。あくまでも、AirTagはなくしたら困る身の回りの「モノ」の管理に使うものと考えておきましょう。

アップル製デバイスのネットワークを利用して探し物を確実&素早く見つけられるAirTagは、iPhoneユーザー比率の高い日本では特に実用性が高く、利便性を体感できるのは間違いありません。価格も手ごろなので、自宅やクルマの鍵など、見つからないと面倒なことになる大事なモノにまず装着して試してみるのもよいでしょう。