日本の高等学校にeスポーツの教育的価値を普及・啓発するNASEF JAPAN(北米教育eスポーツ連盟 日本支部)は、3月20日に「NASEF JAPAN 国際教育eスポーツサミット 2021」を開催しました。
NASEF JAPANは、米国に拠点を置くNASEFの日本支部として2020年に設立しました。主に高校生や中学生に対して、eスポーツを学習促進の効果的なツールとして活用し、知能向上、社会性・情動性を育むソーシャル・エモーショナル・ラーニングなどの教育を支援する団体です。その活動内容とeスポーツにおける教育に対する知見を発表する場として、今回のeスポーツサミットが開催されました。
eスポーツサミットは、2部構成のプログラムで実施。第1部の「国際教育サミット」では、カリフォルニア大学アーバイン校のコンスタンス・スタインクラー博士やクラーク記念高校の笹原圭一郎教諭をはじめとするクロストークセッション、NASEF JAPANの坪山義明氏による北米における教育研究事例など、さまざまな観点のセミナーが行われました。まずは、NASEF JAPANの内藤裕志氏による「eスポーツの実態とNASEFの活動」を挨拶として、第1部が開幕します。
続いて、北米からのオンラインセミナーとして、スタインクラー博士が「ゲームを活用した次世代の世界の教育事例と潮流、そして日本での可能性」について講演。スタインクラー博士は、「日本の教育現場で次世代に求められているものは、その世代が興味のあるゲームを使ったキャリア教育だ」と述べました。
クロストークセッションでは、クラーク記念国際高校の笹原圭一郎教諭、阿南工業高等専門学校の小松実教諭、全国高等学校eスポーツ連盟(JHSEF)の松原昭博氏が登壇。2019年にeスポーツ専攻を設立させたクラーク記念国際高校の笹原氏は、「コミュニケーション能力、協調性を高めることを目的とし、ゲームをプレイさせるだけでなく、結果を求めた教育をしている」と、授業でeスポーツを取り入れたことについて話しました。
eスポーツ市場を盛り上げたり、eスポーツプレイヤーの育成をしたりは考えていないと言います。なぜ、eスポーツを活用するかというと、「生徒の一番興味があるゲームを利用して教育すべきであるという考えから、ツールとして使用しているに過ぎない」と述べました。
小松教諭が勤務する阿南工業高等専門学校では、企画・運営を生徒主導で行うeスポーツイベントを開催しており、今では授業でeスポーツの普及についての研究を行うようになりました。今後は四国大学との連携を模索しているそうです。
eスポーツを取り入れていることに関しては、「反対意見は空気として感じるものがありますね。遊んでると思われないように、理解を広げられるよう努めています」と述べていました。
「全国高校eスポーツ選手権」を開催しているJHSEFの大浦氏は、さまざまな高校に出向いて、大会参加を促したものの、芳しい結果にならなかった事例を取り上げました。高校生向けの大会を開くだけでは、学校側の協力が得られないため、啓発活動をする必要があると感じたそうです。そこで、eスポーツの教育的価値を高めることで、学校側への理解を求めるようになりました。
ほかにも、NASEF JAPANの坪山義明氏が「北米における教育研究事例について」を、星槎国際高等学校帯広学習センターの大橋紘一郎氏が「eスポーツを通じた教育現場の今」を、ゲシピの真鍋拓也氏と国際教育評論家の村田学氏による「eスポーツがもたらすグローバル教育の可能性~ゲシピ:eスポーツ英語教育~」を講演するなど、内容の濃い発表が続きました。
第2部はメディア限定「NASEF JAPAN 2021年度活動構想発表会」を開催。ここでは、今後のNASEFの活動内容について言及しました。活動は、教育者、生徒、社会を対象としており、eスポーツを使って「英語学習・社会性」「論理思考やIT技術(プログラミング教育)」「創造性・才能発掘」の3つを展開します。
今回開催された「国際教育eスポーツサミット」のようなものを教育者向けに定期的に実施し、北米のカリキュラムや実施事例などを紹介するとともに、今後は教育者だけでなく、教育を受ける生徒側、高校生への講演も実施する予定です。
また、夏に向けて3泊4日の生徒向けeスポーツキャンプの開催を計画中だと発表しました。コロナ禍で時期については検討中ですが、共通の目的を持った生徒を集結させることで、成長のきっかけを創出します。
さらに、イベント・リーグも開催。リーグは「NASEF JAPAN MAJOR」と「NASEF JAPAN EXTRA」の2つで、全国規模のMAJORと地方もしくは学校単位で開催できるEXTRAを用意します。
「全国高校eスポーツ選手権」や「STAGE:0」ほどの大規模開催ではなく、手軽に始められる規模での開催を目指しています。大会で使用するタイトルは、北米のNASEFの推奨するタイトルに準拠し、そこから選定。MAJORでは『フォートナイト』を採用するとのことですが、タイトルは今後も増やしていく予定です。
次にNASEF JAPANのメンバーシップ構想です。メンバーシップは、教師個人向け、横のつながりをつくるコミュニティとして機能していきます。
大きく分けて4つのメンバーシップで構成されており、それぞれの対象者に合わせた内容で、教師や学校に対してeスポーツに関することを支援していきます。
最後に質疑応答があり、記者からの質問に回答していました。まず、NASEF JAPANとJHSEFとの差別化、もしくは協力する点について聞かれると「基本的に提携関係にあり、競合関係ではありません。JHSEFは公的な側面が強く、NASEFはボーイスカウト的、草の根的な活動をするイメージ。ちなみにNASEF JAPANには、個人会員で入会できますし、会費もかかりません」と答えます。
大会で使用するタイトルについて「北米NASEFに準拠すると話していたが、日本と北米では人気タイトルに差異があるのではないか」との質問には、「現状は北米の推奨タイトルで選定していますが、将来的には、日本で独自の推奨タイトルの基準が作れないかどうか、検討しています。次世代の可能性を広げる意味で、キャリア教育が重要だと考えます。そのためにPCに触れることを重視しました。ただ、PC以外を否定しているわけではなく、大会で使用する予定の『フォートナイト』のクロスプレイなど、使えるコンシューマ機の対応も考えています」と回答しました。
北米NASEFの推奨タイトルの選定理由にバイオレンス性の強いゲームは基準外とありましたが、単純に排除するのは、eスポーツやゲームを通じて教育するという理念に反するのではないかとの指摘には「それについては、今後、生徒と教師でディスカッションする必要があると思います。学校やNASEFでバイオレンスなゲームを排除したところで、生徒たちはすでにバイオレンスなものは知っていますし、生徒によってはすでにそのようなゲームをプレイしていると思います。したがって、フタをしたり、なかったことにしたりするのではなく、生徒たちと考えていきたい」と答えました。
eスポーツが教育の現場に入ることに懸念している人の多くは、「遊びの代表格であるようなゲームを教育の場に取り入れること」に対して抵抗感があるのだと思います。しかし、NASEF JAPANの理念や活動内容を聞く限りでは、eスポーツやゲームの周知を拡大し、地位を向上し、教育分野に昇華させるのではなく、eスポーツやゲームを使って、教育の幅を広げることだとわかります。
例えば、プロ選手を輩出するための部活動ではなく、団体戦での協調性、考えてプレイする自主性、戦略を立てる創造性などを養う手段としてスポーツを利用しているのと同じです。
いわゆるゲーミフィケーションを教育の場に取り込むことで、生徒のやる気や学習効率の向上を図るわけです。eスポーツやゲームで、生徒の成長が促せるのであれば、ぜひとも多くの高校での採用をしてほしいところです。
画像の提供:NASEF JAPAN / NASEF