アクロニス・ジャパンの「Acronis True Image 2021」は、個人ユーザーや小規模事業者に向けたバックアップソフト。従来同様の強力なバックアップ機能に加えて、マルウェア対策機能を大幅に強化し、総合セキュリティ対策ソフトへ進化した点が最大の特徴だ。
強化されたマルウェア対策機能は?
最新版となるAcronis True Image 2021(以下、ATI2021)の概要は、別記事『ウイルス対策も備えたバックアップソフト「Acronis True Image 2021」新版』で紹介しているが、最大の強化点がマルウェア対策機能だ。
Acronis True Imageは以前から、ランサムウェアなどの攻撃に備える「Acronis Active Protection」が搭載していた。最新版のATI2021ではそれに加えて、機械学習による未知のマルウェア検出も可能なリアルタイムのマルウェア対策機能、スケジュールスキャン、オンラインミーティングツールの保護機能、悪意のあるWebページをブロックするフィルタリング機能など、本格的なマルウェア対策ソフトと同等の機能が追加されている。
なぜバックアップソフトが本格的なマルウェア対策機能を持つのか。マルウェア対策ソフトにはすでに様々な製品が存在するし、「餅は餅屋」で専門ソフトに任せればいいのでは……と思う人も多いのではないだろうか。また、近年はOSも比較的高性能なマルウェア対策機能を備えているため、そもそも追加のソフトウェアとしてマルウェア対策機能は不要と考えている人も少なくないだろう。
アクロニスは、ATI2021に強力なマルウェア対策機能を搭載したことについて、「ユーザーがわかりやすくデジタルライフを保護できるように、ひとつのソリューションでデータバックアップとマルウェア対策を同時に行えるようにした」と説明している。つまり、ユーザーが簡単かつ便利に、バックアップとマルウェア対策機能による強力なデータ保護を利用できるように、ATI2021に強力なマルウェア対策機能を搭載したというわけだ。
近年はサイバー攻撃が高度化、多様化しており、OS標準のマルウェア対策機能だけでは安全性の確保が不十分となりつつあるため、安全重視で個別のマルウェア対策ソフトを利用している人は大勢いる。そういう人にとっては、ATI2021のマルウェア対策機能は無用の存在かもしれない。
しかし、OS標準のマルウェア対策機能しか使っておらず、普段アーデータのバックアップもしていないという人にとっては、バックアップソフトとマルウェア対策ソフトを別々に導入して使うのはかなり面倒に感じるはず。ATI2021を導入するだけで双方を満たせるという点は、十分な魅力となるだろう。
使い方にもまったく面倒なところはない。ATI2021をインストールして機能をオンにしておくだけで、すべてのマルウェア対策機能が有効となる。そう考えると、ATI2021にマルウェア対策機能を搭載するというアクロニスの考え方には一理ある。
とはいえ、マルウェア対策機能の性能が不十分だとしたら意味がない。アクロニスによると、ATI2021のマルウェア対策機能は、ドイツのマルウェア対策ソフト評価機関「AV-TEST」の評価で非常に優れた結果が得られているという。AV-TESTの評価は信頼性が高いため、性能面でも心配はなさそうだ。
ちなみに、マルウェアのスキャンを実行している状態でのCPU負荷は20~30%だった。まずまず高い負荷だが、利用したノートPCはCPUが第10世代Intel Core i7-10510Uと比較的処理能力に余裕があるため、スキャン中も特にPCの動作が重くなる印象はなかった。CPUパワーの弱いPCではスキャン中に動作が重くなるかもしれないが、スキャン自体はそれほど長時間かからない。あまりPCを使わない時間にスキャン実行をスケジュール設定しておけば、ほとんど気にならないはずだ。
とにかく簡単にバックアップが可能
ATI2021の中心的な機能はやはりバックアップ機能。筆者自身も、ATI2021に最も期待するのはバックアップ機能だ。
いまどきのOSには標準でバックアップ機能が備わっているし、NASなどにも高機能なバックアップ機能があるため、あえてバックアップソフトを導入する必要はないと考える人は多いかもしれない。ただATIシリーズは、他にはない便利なバックアップ機能を多く備えている点が大きな魅力だ。
最新版のATI2021は、CPU負荷の分散によるバックアップ時の負荷軽減や、バックアップタスクを中断した場合でも再開時に続きから再開できるといった強化を実現しているという。基本的なバックアップ機能については、従来バージョンから大きく変わっていない。
例えば、ストレージデバイスの丸ごと・パーティション単位・フォルダ単位のバックアップ設定、アクロニスが提供するクラウドストレージへのバックアップ(利用できる容量は最大1TB)、ローカルストレージとクラウドストレージへの同時バックアップなどだ。このあたりは、ATIシリーズにおいてバックアップ機能がほぼ完成されていることを示していると言っていいだろう。
こういったバックアップ機能は、最初に簡単な設定をすれば、以降は自動で実行される。そのつどの設定や操作が伴うとバックアップをしなくなりがちだが、ATI2021なら数クリックの初期設定で定期的に自動バックアップするようになるので手軽だ。
バックアップにかかる時間は、もちろん保存データ量によって大きく変わる。今回、1TBのSSDに700GB弱のデータが保存されているノートPCにて、USB接続の2TB SSDを利用してバックアップを行ったところ、1度目のバックアップには6時間ほどかかった。ただ2度目以降のバックアップは差分のみのバックアップとなるため、長くても10分くらいで終了する。
バックアップタスク動作中のCPU使用率は、おおむね20%前後、ピーク時で30%前後だった。テストに用いたノートPCは、先にも紹介したようにCPUパワーに余裕があり、内蔵ストレージがPCIe SSDということで、バックアップ中に別の作業を行っても特に重いという印象はなかった。ただ、内蔵ストレージがHDDだと、おそらく動作が重いと感じる場面が出てくるだろう。2度目以降のバックアップは短時間で終了するため、PCを使わない時間のスケジュール実行をうまく使いたい。