クリエイティブ、IT、教育分野など、異業種が集いデジタルとアナログの両面から「手書き・手描き」の価値を考えるイベント「コネクテッド・インク」が開催されました。第5回を迎える2020年は全セッションがオンライン開催されていますが、人数制限や入場時の消毒と検温などを踏まえて、東京・新宿でのリアルイベントも実施されています。
数多く開催されたセッションのなかから、ここではワコムと三菱鉛筆による「画材について考えるトークセッション」を紹介。なお、この両社は2020年8月に発表されたデジタル鉛筆「Hi-uni DIGITAL」でコラボレーションしています。
画材はデジタル? それともアナログ?
セッションは、デジタル画材、アナログ画材に関するアンケート結果を中心に展開しました。まず「デジタル画材とアナログ画材の利用割合」については、アナログ派とデジタル派がバランスよく分かれる結果に。最も多かったのが「ほとんどデジタルで一部アナログ」の29%。次いで「アナログとデジタル半々」が24%、「ほとんどアナログで一部デジタル」が19%と、両方を併用している人が大半を占めました。
また、「下書き(下書き・ネーム)」「清書(ペン入れ)」「色塗り・仕上げ」の各制作フローで利用する画材、文具については、「下書き」パートではシャープペンシルや鉛筆、「清書」パートではボールペンやサインペン、「色塗り・仕上げ」パートでは色鉛筆・クレヨン・マーカー、絵の具などが多いという結果になったといいます。
進行を務める、季刊雑誌「季刊エス」「SS(スモールエス)」(いずれも復刊ドットコム社)編集部の佐々木弥生氏は、制作シーンではデジタルとアナログが両方使われいてることが多いなか、どの制作シーンでもタブレットが一定層に使われていると紹介。
実際に雑誌へ投稿されるイラストも「フルデジタル、フルアナログの人もいますが、兼用している人も多い。アナログで彩色するけれど、ラフや下絵はデジタルという人や、アナログの下絵をスマホで撮影して、デジタルで色を入れる人もいる」と、現状の印象を話しました。
デジタル画材、アナログ画材それぞれの魅力は?
デジタル画材とアナログ画材、それぞれにどういう魅力があるか? という質問には、デジタル画材については「机が散らからない」「やり直しできる」という声が多かったとのこと。アナログ画材については「筆感がよい」「アナログならではの表現ができる」といった声があったといいます。
「ポケモンカードゲーム」シリーズなど、書籍やゲーム分野を中心に活躍するイラストレーターの有田満弘氏は、アナログ画材・デジタル画材のメリットについて「それぞれの利点は相反するものがある」と言及しました。
有田氏が考えるデジタル画材のメリットは「生産性が高いところ」。「水彩なら(自分の意図しない)にじみが出ることもあるが、デジタルは思い通りに何度もやり直しできる。仕事で修正依頼が来たときにも対応しやすい」。
一方で、有田氏がみるアナログの利点は「魂(気持ち)を込めやすいところ」。デジタルでは“後で直すかもしれない”と思いながら作品を描いていくと「完成」まで気持ちを持っていくことが難しいけれど、アナログではやり直しが(基本的には)きかないため、完成へのモチベーションが保たれると説明しました。
最後に佐々木氏は、「アンケートを通じてアナログ・デジタル両方のよさを再発見できた」と総括しました。また、有田氏は、小型のパレットを持ち歩いて水彩イラストを電車内や旅行中などどこでも描けるようにしているというエピソードを披露。長期間にわたるプロジェクトが続いた時期に、小型パレットによる水彩画を始めたことで、短時間でイラストを完成させる満足感が味わえたといいます。
「デジタル中心で描いていたときは、(明暗や色調を調整する)『トーンカーブ地獄』に陥っていたが、水彩イラストを描くようになって色の選び方が正確になり、(デジタル上でも)ほとんど修正することがなくなった。アナログだと心に描いた色を実際に作るしかない。先に色を決めるので、(これに慣れると)後から色をいじることが少なくなった」と、アナログとデジタル両方を組み合わせてきた経験を紹介。「どちらか片方しかやってない人は両方やってみると面白いのでは」と話していました。