海をデジタル化した先には、どのような未来が待っているのでしょうか。ソフトバンクが通信などのデジタル技術を提供するプロジェクト「e5ラボ」は11月11日に、東京湾に浮かぶ船上で実証実験の様子を公開。海の世界のデジタル化を推進する実験の様子をお伝えします。

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    ソフトバンクが参画するe5ラボが実証実験が報道陣に公開されました

e5ラボが進める“海のデジタル化”

e5ラボは、旭タンカー・エクセノヤマミズ・商船三井・三菱商事という船に関係する4社が2019年8月に設立した共同会社。名称はelectrification(電気化)、environment(環境)、evolution(進化)、efficiency(効率)、economics(経済性)の5つの「e」に由来しており、電気で航行するEV船の実用化を目指しています。アーバンドック ららぽーと豊洲で開催された「ROBOSHIP価値共創プロジェクト PoC in Tokyo 2020」にて、e5ラボの末次康将氏がプロジェクトの概要を説明しました。

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    e5ラボ 最高技術責任者 CTOの末次康将氏

これまで、あまりデジタルの先端技術が導入されてこなかった海洋の世界。末次氏は「船がオンラインになったとき、どんな可能性があるでしょうか。従来、陸上ではつながるインターネットも、海上に出ると圏外になっていました。しかし今回、ソフトバンクさんの力でインターネット通信を船内に導入。今後は船の世界に電気、電池、AIなどのデジタル技術を取り込んでいきます。それが産業の成長ドライバーにもなっていくでしょう。その先に新しい事業があると考えています」と期待を寄せます。

プロジェクトには、業界の垣根を越えた数多くの企業が参加しています。「東京のど真ん中で、23社と一緒にPoCというカタチでプロジェクトを進めていきます。イノベーションを通じて新たな価値を生み出し、社会に届けていきます」と末次氏。そして各社の役割についても説明していきました。

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    ソフトバンクが通信などのデジタル技術を提供

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    業界の垣根を越えた数多くの企業がプロジェクトに参加

例えば、電力に関しては、関西電力と東京電力が参画。末次氏は「エネルギー業界と船業界がEV船を介して密接につながります。なお、災害時には船から陸に電気を送ることもできます。日本は島国ですので、海洋経由で被災地まで直接、電気を届けることができます」と説明します。

自律運航船事業に取り組んでいる三菱商事、エンジニアリングによる課題解決に強い三菱造船、ウォーターフロントの開発を進める三井不動産、船の知見やノウハウがある商船三井、プレジャーボートのロボット化を目指しているMarine X、空間を快適にするダイキンも参画。観光汽船興業とは、船を中心とした新しいモビリティを開発中です。ひいてはそれが都市の魅力の拡大につながると説明します。

東京電力エナジーパートナーはEV船を供給、ダイヘンはWPT(ワイヤレス給電)を提供。東京海上日動は無人遠隔船、自律船に保険を付与しました。「まだ法律が追いついていない面もありますが、新しい保険も開発していけたら」と説明する末次氏。東芝エネルギーシステムズは、イノベーションから取り残されている港湾のデジタル化を提案します。

古野電気、ソフトバンク、e5の3社は船をデジタル化させるプラットフォームを共同開発中です。「古野電気さんは航海機器メーカーとして世界トップシェアの企業。船内におけるエンジニアリング、海図のノウハウ、レーダー、ソナーに強みがあります」と将来的にはグローバル展開も視野に入れている様子でした。

なおe5ラボでは地球環境を汚染しないゼロエミッションの取り組みも進めています。末次氏によれば、完全に電気の力だけで走る世界初の電気推進タンカーを2022年3月に第1船竣工、2023年3月に第2船竣工予定とのことです。

デジタル化が進められている船に乗ってみた

湾に停泊中の船に乗ると、洋上でも各企業の担当者から説明がありました。船舶の屋根に取り付けられていたのは、米Kymeta(カイメタ)社のフラットパネルアンテナ。これを使い、ソフトバンクの衛星通信(周波数帯は12GHz~18GHzのKuバンド)をキャッチします。アンテナから有線ケーブルをつたって、下の部屋に設置されたWi-Fiルータに届けられ、ルータから船内に電波が吹く仕組みです。

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    船舶の屋根には、イージス艦にも使われている衛星通信アンテナを設置

また、ソフトバンクの高精度測位サービス「ichimill(イチミル)」も導入されています。衛星「みちびき」などの全球測位衛星システム(GNSS)から受信した信号を利用するもので、誤差わずか数cmで測位できるのが特長。この高精度測位サービスにより、船の衝突事故を減少させ、また将来的には遠隔操縦、自動操縦にも応用していくことを考えています。

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    ソフトバンクのセルラー電波を受信できるアンテナとichimillのアンテナ

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    航跡もこの通り正確に表示できる

このほか、古野電気は航海情報を手元のタブレットに集約することを考案。ダイキンは「海にも都会の暮らしを」をキーワードに、船内にアロマを発生させて船酔いに効果があるかを調査中です。ナカシマプロペラは、推進器とスマホが繋がることでリモート点検や、ムダのない運用を実現することを考えているとのことでした。

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    手元のタブレットでさまざまな航海情報をチェック可能に

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    ナカシマプロペラでは、スマホで簡単に推進器の状態が分かるアプリを開発していく

各企業の担当者が志高く臨む姿が印象的なe5のプロジェクト。ソフトバンクの担当者は「海の世界でもデジタル化が求められています。通信、AI、クラウドといった技術で、海の世界に新しい価値と事業をつくっていきます」と説明していました。