上位入賞のアイデアとは?
優勝したのは名古屋のヴィッツがプレゼンした「次世代工場の安全化と効率化を実現するIoT、AIソリューション(「SF Twin」)」で、工場の安全化、高度自動化、効率化を目指すデジタルツインツール(現実世界の工場のロボットをサイバーの世界をつなぎ、サイバー空間で評価し現実の世界に返していくもの)。監視画像センサや運搬ロボットなどの情報を集め、データ解析を行い、AIで効率化の提案を行いたいという。
審査員からは、中小企業に共通する課題を解決しようとしており、効率化することで、より新規性の高いプロダクトを提供できるとコメントが寄せられた。
準優勝はCDISC-SDTM Blockchain Teamの「ブロックチェーン技術を用いた臨床データの共有プラットフォーム」。 同チームは、複数の製薬会社、CRO、システム会社から結成した8名のチーム。本業は臨床試験に関するデータマネージメント、統計解析などを行っている。臨床データはデータベース化されており、それらを解析することでさまざまな知見を得られるというが、2次利用などは個人情報保護の観点で制約が多いという。そこで、データのアクセス権ややり取りをブロックチェーンで管理し、患者がデータの行き先を見られるようにし、提供拒否のほか、報酬を受け取る仕組みを構築するシステムを提案した。
審査員からは、狙いが明確で面白く、実現可能性は高いが、ブロックチェーンを使うべきかは議論の余地があるというコメントが寄せられた。
3位はユーネットランス の「最適運行ダイヤの自動作成システムによる輸送業全体の効率化 」。愛知県の同社は貨物輸送を行っており、運送業界は過度な残業やドライバー不足も深刻だという。そこで、システムとしてAIを活用し物流設計段階で最適運行ダイヤを他社も巻き込んで作成し、効率化と図ろうというものを提案した。完成後は他社にも提供し、30%の効率化を目指すという。
審査員からは、解決すべき課題が大きいのでどういうステップで進めるかが重要だというコメントが寄せられた。
カゴヤ・ジャパン賞
カゴヤ・ジャパン賞には、イグスの「AIによるデータ精度向上及び災害対策サービス」とアズワンの「適正在庫AIモデル」が選ばれた。
東京都のイグスは、ドイツを本社とするケーブル保護管、可動ケーブル、樹脂ベアリングなどの樹脂製の機械部品の開発・製造・販売を行う日本法人だ。同社の課題は、英語で記載された製品名などを日本語する際、文字化け、誤字や脱字が発生している点。また、日本企業においても、社名、住所、郵便番号の間違いが発生しているという。こういった文字のチェックや修正は1日あたり500-1000件あり、これをゼロにすることが目標。そこで、AIを活用したデータミスの洗い出し、チェック、自動修正のシステムを提案した。
審査員からは、登録情報の誤りにより余計な業務が発生することは、お客様情報を扱う企業の課題だと思うので、ぜひ実現してほしいというコメントが寄せられた。
アズワンは大阪市の研究者向けの理化学機器専門商社。同社の課題は多品種、少量出荷をクイックに提供することだが、コロナ禍においてエッセンシャルワーカー向けに看護・介護の商品を即時提供する必要性が増大したという。そこで、AIを活用して多品種、少量出荷のクイックデリバリーを実現することを考えたという。具体的には、在庫の推移、入出庫のリードタイム、受注予測をグラフ化。このグラフと最適な状態のグラフをAIで比較し、最適な状態にするための方策をAIに提示してもらおうというもの。
審査員からは、画像の判定で行うアプローチに共感したというコメントが寄せられた。
ミライコミュニケーションネット賞
ミライコミュニケーションネット賞には、レニアスの「AIを活用した需要予測、在庫管理、工程計画 」、水上の「可視化して将来のビジネス基盤を再度見直すためのBig Data分析を用いた営業活動指針のためのAIサービス」が選ばれた。
広島県のレニアスは、輸送機器や特殊車両の部品、セキュリティ商品の開発・製造・販売を行っている。同社は、内示データ、受注データをもとに生産計画を立てているが、工程計画は人が行っている。そこで、この部分をAIを使って自動化するとともに、需要予測も自動化したいという。これにより、在庫や温度条件などさまざまな制約条件によって並び替えを行う作業を自動化し、正確な需要予測による適正な発注量、在庫、ワークオーダー、管理費の削減、適正人員の配置を実現するという。
審査員からは、製造業の多くが抱える課題なので、ぜひ実現してほしいというコメントが寄せられた。
大阪の水上は、金物店への卸や住宅や建材メーカヘ製品や部品の供給を行っている。金物屋は一時の2万店から5000店に縮小し、マーケットが小さくなっていることから、金物屋へのルート販売が減り、非店舗向けの特販営業の比率が増えているという。そこで同社は、経験、勘、度胸ではなく、データに基づく根拠で経営判断していくつもりだという。そのために、スマーフォンGPSによる行動データを収集して営業活動の可視化。得意先データの取集・分析などをして、ルートの最適化、効率化を実現するという。
審査員からは、人にフォーカスを当てAIを利用するところがどこまで通用するかに期待するというコメントが寄せられた。
NASIT賞
NASIT賞には、ピーチ・ジョンの「社内AIポータル構想」と平井精密工業の「歩留まり向上のための製造工程AI解析サービス」が選ばれた。
東京のピーチ・ジョンは、女性向け下着を主力にEC、店舗を展開する。同社は、勘、経験、度胸といった古い意思決定ではなく、AIを駆使してエビデンスベースで意思決定できるシステムを目指す。社員向けのAIポータルを構築し、SaaSサービスとして利用できるようにして、EC受注予測、店舗受注予測、在庫消費予測、顧客行動分析、トレンド分析に役立てようというもの。
審査員からはAI活用は経済的効果の可能性が高いが、どうAIを活用していくかは考える余地があるというコメントが寄せられた。
大阪市の平井精密工業は金属エッチング加工を行っているが、製造工場における歩留まり向上を図るシステムを提案した。
このシステムは、現在は紙ベースで管理している製造条件、パラメータなどの情報をIoTで収集し、歩留まりとの相関関係をAIで分析し、不良の種類・歩留まりと製造条件・パラメータとの相関関係を分析し、歩留まり向上に寄与する製造条件・パラメータを見つけ出すものだ。
審査員からは、プロジェクトとして非常に興味深い。成功のカギは紙ベースのものを自動化することだというコメントが寄せられた。
コンテストの最後には、デル・テクノロジーズ 最高技術責任者 黒田晴彦氏が総評し、「熱のこもった話が聞けて、本当に素晴らしい会だった。中堅企業からデジタル課題を解決し、1年後に完成した際には、世の中に『どうだ』というメッセージが出せたらいいと思っている」と語った。