AppleはApp Storeをどのように改善していくべきなのか?

App Storeのストア手数料は2年目以降のサブスクリプション登録が15%に引き下げられたのみで30%が維持されている。2008年に始まったばかりの頃は、配信や決済の方法を持たないアプリ開発者をサポートするストアという側面が強かった。配信、販売、決済を全てApp Storeに任せるアプリ開発者にとって30%は妥当でも、アプリ内でのサービス契約のようなクレジットカードの処理しか発生しない取引にも売上の30%は負担が重いという声も。特にNetflixのように複数のプラットフォームを対象にしていてiOSデバイス依存が低いサービスが強く反発している。

大手のアプリを逃せば、Appleやユーザーが不利益を被る。そこでNetflixのようなサービスに対して、ビデオストリーミングや記事の閲覧といったコンテンツ消費専門に使用する"Reader"アプリを認めているが、それが30%回避のグレイエリアと化してトラブルの種になっている。

  • NetflixアプリはReaderアプリとして提供されているため、すでにあるアカウントにサインインできるが、アプリからサービスを契約することはできない。そのため困惑するユーザーも

30%手数料の対象がデジタルグッズとデジタルサービスのみであるのも物議を醸す(詳細は前編)。App Storeが始まった当時、iPhoneで購入するのはiPhoneで使用または消費するデジタルコンテンツばかりだった。しかし、今モバイルデバイスはアプリを通じて現実と結びついている。地域のスポーツジムのエクササイズクラスの予約を仲介する「ClassPass」は、新型コロナ禍でジムが閉まり、そうしたジムが新たに開始したオンラインクラスをサポートし始めた。ClassPassのサービスは以前と同じでも、ジムのクラスがオンラインになったことで、新型コロナ禍の苦しい状況で30%手数料に直面することになった。

デジタルコンテンツは利益率が高いと言われているが、全てが当てはまるわけではない。Spotifyは収入の約7割を権利者に分配している。つまり、Appleに30%の手数料を支払うとSpotifyの取り分がなくなってしまう。料金を引き上げて解決できるかというと、値上げしたら価格的にApple Musicとの競争で不利になる。

Epicの場合、Spotifyのようなコスト負担に直面しているわけではない。マージナルコストがほぼゼロに近い状態で、App StoreとGoogle Play以外でV-Bucksを値下げした上で、Microsoftや任天堂などに30%手数料を支払える余裕がある。また、新型コロナ禍の在宅需要で勢いを加速させている企業でもある。その抗議がモバイル市場の進化につながるならともかく、「Epicの乱」はこれまでApp Storeに対して多くの開発者が改善を求めてきた問題を派手にかき回して混乱に陥れているように見える。そうしてEpicが勝ち取ろうとしている自由な環境では、力を持った大手ソフトハウスが優位に競争を進められる。中小または個人のアプリ開発者にとって不自由な環境になりかねない。

  • Epicの「1984」のパロディに対して、「1984」を監督したリドリー・スコット氏は「アニメーションは素晴らしい、アイディアも素晴らしかった、メッセージは『えっ?』って感じだった」とコメント

一律30%の手数料はシンプルで、規模の大小にかかわらず全てのアプリ開発者に公平な仕組みであったが、それでは割り切れないほど今のiPhoneやiPadのエコシステムは複雑に繁茂している。ある程度のシンプルさを維持しながら、多種多様なサービスをサポートしていくことが求められる。例えば、ベン・トンプソン氏はAppleプラットフォームへの依存度やマージナルコストの違いで手数料を10〜30%で変えていく方法を提案している。

もう1つ、App Storeに対する不満が広がる要因の1つが審査の不透明さだ。トラブルが起こった時に、開発者のツィートのような限られた情報しか共有されないから、決めつけのような意見が広がって「アプリ内課金を用意しないアプリをAppleが排除している」というような極端な見方が一人歩きしたりする。Apple、アプリ開発者、ユーザーが共栄していける環境を目指すなら、そのために独立した立場から活動するオンブズマンのような存在が必要なのではないだろうか。同社は今、環境対策や人権において透明で先進的な取り組みを行う存在になっているが、過去にはそれらで批判を受けた時期があった。環境保護対策やサプライチェーンの問題を乗り越えてきた経験を開発者との関係にも活かすべきである。