この夏、カメラ業界で大きな話題となったのが、キヤノンの高性能フルサイズミラーレス「EOS R5」「EOS R6」の登場です。ひと足早く販売を開始したEOS R5、8月27日に販売が始まったばかりのEOS R6ともに強い品薄状態の人気ぶりとなっており、キヤノンが本気で作ったミラーレスを待ちわびていた写真愛好家が多かったことがうかがえます。
EOS R5/R6は、圧倒的な補正効果を持つボディ内手ぶれ補正機構や、一眼レフも真っ青のオートフォーカス性能、表現力の高い動画撮影機能、一眼レフEOSにならった操作性など、かなり意欲的な改良が施されています。今回、EOS R5/R6の誕生秘話や新機能の搭載にいたった理由、開発エピソードなどを、各部門の開発に携わった方々に聞く機会を得ました。全3回で、EOS R5/R6にグッと迫ります。
プロ向けの機能や装備をひたすら充実させたEOS R5
――EOS R5とEOS R6では、15万円を超えるほどの価格差があります。その違いが生まれた理由を教えてください。
佐藤さん:EOS R5は、特にプロの方に使っていただきたいという思いで商品企画をしました。EOS R6との価格差は、おもにプロユースを意識した装備や機能の差と考えていただけたらと思います。
具体的には、8K動画が撮れたり、映画などの用途を前提としたDCI 4Kに対応するといった部分です。プロユースを意識した装備としては、EOS R5のWi-Fiは5GHz帯にも対応し、通信速度の向上を図っていることも挙げられます。
イメージセンサーに関しては、一概にどちらが高価か、どちらが安いかといったことは申し上げられません。ちなみに、EOS R5のイメージセンサーは完全に新規で開発したもので、EOS R6のセンサーはデジタル一眼レフ「EOS-1D X Mark III」で採用したイメージセンサーをベースに、ミラーレス用に手を加えて改良したものとなります。
ボディは、両機種で見た目がまったく同じなのも工夫がないので、カメラのキャラクターや全体のバランスを考えて違いを持たせています。ベースはどちらもマグネシウム合金ですが、イメージセンサーや基板の構成が違いますので、それぞれに応じた放熱素材や放熱プレートを配置しています。外装カバーは、EOS R5のトップカバーと背面カバーがマグネシウム合金なのに対し、EOS R6はトップカバーと背面カバーを強化プラスチックとしています。結果的に、EOS R5のほうが高い放熱性と堅牢性を持ち、上のクラスなりの機能を持たせています。防塵防滴性能も、EOS R5のほうがEOS R6に比べていくぶん強化されています。
操作感に関しては、モードダイヤルの有無で差をつけています。モードダイヤルを搭載したEOS R6は、モードダイヤルのある既存の一眼レフからステップアップする方にもなじみやすく、かつ分かりやすいようにと考えました。一方、モードダイヤルのないEOS R5は、プロ感をイメージできる操作性としました。パッと見で分かりやすいのはEOS R6だと思っております。モードダイヤル以外の操作部材は基本的にどちらも同じです。
機能面で大きな違いのひとつが、DPRAW(ポートレートリライティングおよび背景明瞭度)の搭載です。ポートレートリライティングはその名のとおり、人物を明るくライティングしたような結果が得られ、効果はとても分かりやすいと思います。背景明瞭度は、奥行き情報を使って背景だけ明瞭度を上げる機能です。カメラがターゲットとするユーザー層を考慮し、EOS R5のみに搭載しました。
――EOS R5のメモリーカードスロット、CFexpressとSDカードのダブルスロットとした理由を教えてください。
佐藤さん:EOS R5にCFexpressを導入した一番の理由は、8K動画撮影時の書き込み速度が通常のSDカードでは対応できないためです。もう一方のスロットをSDカードとしたのは、利便性を考えてのことです。CFexpressは新しいメディアなので持っている方も少ないですし、すでに持っているSDカードがまったく使えないのもよくないな…ということもあり、SDカードスロットも備えました。
カードの選定においては、ボディの厚みを抑えることも考慮しました。SDカードスロットにすると、わずかではありますがボディを薄くできるからです。
EOS R6も含めてダブルスロットにしたのは、EOS Rでダブルスロット化の要望をものすごく多くいただいたこともあります。メインのカードに記録しつつ、もう1枚のカードにバックアップできる安心感を求める方の多さが伝わりました。