企業におけるさまざまなワークフローを管理するプラットフォーム「Now Platform」などを提供するServiceNow。欧米を中心に利用されてきた同社のサービスだが、ここ数年で日本企業の間でも普及が一気に進んでいる。そんな日本市場での展開を率いるServiceNow Japan 執行役員社長の村瀬将思氏に、2019年を振り返ってもらうとともに、2020年の抱負など語ってもらった。

--2019年を振り返ってみて、どのような年だったと感じていますか--

村瀬氏: 2019年は私が社長に就任して4年目の年となりました。それまでの3年間はひたすらがむしゃらに走り続けてビジネスを一生懸命に拡大してきましたが、2019年は、1つ上のステージに到達したかなという印象を抱いています。

その理由となる大きな出来事の1つが、国内データセンターの立ち上げです。社長に着任した当初から日本市場でクラウドビジネスを展開する場合、国内にデータセンターを開設しないと、特に官公庁は厳しいと訴え、グローバルのトップも理解してくれてゴーサインがもらえ、2019年に実現しました。目標を1つ達成できたと自負しています。

そして、もう1つ2019年の大きな出来事は、アーク森ビルに新オフィスができたことです。われわれは小さなオフィスで日本でのビジネスを開始しましたが、同ビルに移ると、その後の成長に伴い、その都度オフィスを増やしてきました。しかし、おかげさまで4年の間にビジネスが大きく成長し、人員数も5倍以上に増えると、複数のオフィスが異なった階に存在するようになってしまい、これではワンチームにはなれないと危惧していました。

それまで社員アンケートを行うと「オフィスをもっとよくしてほしい」という要望が一番多かったんです。「会社の文化はいいのに、オフィスが……」という声をよく聞かされました。そこで、同じ場所で皆が働くことができ、アメリカの本社と同じレベルの働く環境を実現しようと、ワンフロアにオフィスを集約しました。

顧客に喜んでもらうには、まずは社員を満足させなければいけません。こうして立派な新本社をオープンできたのは、2019年の大きな一歩でした。

このほか、2019年7月に国内で開始した、われわれのアプリ開発プラットフォーム「Now Platform App Engine」を活用することで、アプリの迅速な開発と提供を実現し、ServiceNowのStore上で販売できるようにしたISV(独立系ソフトウェアベンダー)プログラムも大きな前進となりましたし、2年目の開催となった顧客・パートナー向けの国内プライベートイベントも2000人超を集客するなど、かなり大きな反響があったのも嬉しかったです。

--それでは、2020年において、どのような試みを考えてらっしゃいますか--

村瀬氏: まだ構想段階ですが、エグゼクティブによるServiceNowのユーザークラブをつくりたいと考えています。既にServiceNowにはSNUG Japanというユーザーグループが存在しており、その活動はとても活発ですが、エグゼクティブに特化したクラブはありません。

ただし、エグゼクティブを対象としたラウンドテーブルなどは開催しており、多くのCIOの方々が参加してくれていますので、これをクラブ制にしたらもっと活動の幅が広がるだろうと考えています。

単独もしくは賛同してもらえるベンダーやパートナーと一緒に、情報が公にならない場にして、ざっくばらんにお互いに悩みを打ち明けるといったことまでできれば、参加者にとって大きな収穫があるはずです。

--最後に大きな方針として、2020年はどのようにビジネスを推進していこうと考えていますか--

村瀬氏: まず、ServiceNowのエコシステムを強化したいと考えています。社員もパートナーも顧客もすべてServiceNowに関わってくれている人たちですから、皆が幸せになれるようなエコシステムを構築することが私の使命だと強く意識しています。例えば日本では、多くの40代・50代の方々が実質的に過去の経験をもとにビジネスを回しています。これらの方々がデジタルトランスフォーメーションの障壁になるのではなく、当社のエコシステムに招き、ServiceNowのファンになってもらいたいと考えています。

具体的には、ServiceNowのトレーニングを受けてもらい、そこで培った技術やノウハウを所属先の組織で生かしてもらいたい、もしくは当社で活躍してもらいたいわけです。

もちろん言うまでもありませんが、これからの日本を牽引する20代・30代の人たちも重要な対象者です。当社は年に複数回、顧客やパートナーを対象としたハッカソンを開催しています。「Now Platform」を活用して社内のデジタルトランスフォーメーションを実現するアプリ開発などをテーマにしたハッカソンでは、いずれも多くの20代・30代の方々に参加してもらっています。

もう1つはダイバーシティです。これは絶対重要であり、性別だけではなく、国籍、年齢、あと考え方もダイバーシティとして尊重すべきではないでしょうか。

私自身、自分の中では当たり前と思っていたことが、新人社員から「なぜ、これはこういうやり方なのでしょうか」と指摘され、ハッと自身の無駄に気がついたことがあります。気がついたら、プロセスを変えてしまえばいいのです。しかし、ダイバーシティがなければ、気づきを得ることすらできないでしょう。

考えも背景も違った人たちが集まってコミュニケーションをとることで、違いが強みになるというのは重要なことです。したがって私も、MD(社長)ランチ会を現場の社員と定期的に開催したり、年に1回1対1での話し合いの機会を可能な限り設けたりしています。その際、抱えている業務の話を一切することなく、キャリアの話などをして、その人自身を理解するように努めています。

そして、ServiceNowのテクノロジーを使って日本企業の働き方改革を実現していきたいです。当社は既に定型業務の自動化をServiceNowで実現しています。アフラック様のUS本社では、音声認識技術を使ってオフィスでも音声からワークフローに指示を送るという取り組みも行っています(編集部注:アフラックは、Now Platformとスマートスピーカーが連携することにより、音声からのNow Platform上のワークフローの実行を実現している)。

消費者向けのデジタルサービスは「卓越したエクスペリエンス」をそれぞれのエンドユーザーに提供し続けて支持を得ているのに対して、企業向けのシステムやワークフローは複雑化あるいはサイロ化したままで、決してユーザー本位ではありません。ServiceNowのプラットフォームにシステムやワークフローを統合することで自動化、簡素化、可視化などが組織横断的に実現できます。

そして、「面白そうだからまず使ってみよう」といったチャレンジ精神溢れる人の存在が重要になります。日本のデジタルトランスフォーメーションの成否は一にも二にも、テクノロジーを使って経営や業務改革を行う「人」にかかっている、というのが私の持論です。