ポッキーがeスポーツに参入した背景を聞いた

コラボキャンペーンで、ここまで既存のゲームをカスタマイズするのはかなり珍しいのではないでしょうか。しかも、この「Pocky Edition」、プレイできるのはロサンゼルスで開催される「CC2019」の会場のみ。期間はわずか3日間です。かなり贅沢なキャンペーンだといえます。

今回のキャンペーンについて、仕掛け役である江崎グリコ アシスタントグローバルブランドマネージャーの玉井博久さんは「数年前からeスポーツの盛り上がりは感じており、大会運営やメーカー、チームなどから協賛のご提案はいくつもいただいていました。しかし、ありがたいことに、日本でポッキーの認知度はほぼ100%。単純に冠スポンサーやチームのスポンサーに就くのは価値を活かしにくいと思って、断っていました。2016年から海外に携わるようになり、そこで、海外のポッキー認知度が日本ほど高くないことを知りました。また、世界でeスポーツが日本と比較にならないほど盛り上がっていることから、海外プロモーションの一環としてeスポーツへ参入したのです」と、今回のコラボについてきっかけを話します。

  • コラボを記念して、PockyのStreet Fighter V限定パッケージが登場。ECサイト「Asian Food Grocer」や「It’s Sugar」「Hot Topic」「FYE」などアメリカの店舗で販売されます

ポッキーを展開している「北米」や「中国」「韓国」などのエリアで、eスポーツが盛り上がりを見せていたことも、参入を決めた要因の1つ。さらに、ポッキーがお菓子であり、eスポーツと相性がいい点も後押しになったそうです。サッカーやバスケットボールの試合中にお菓子を食べることはあまりないと思いますが、eスポーツは試合中でもパクッとお菓子を食べられますし、広義として「ゲームのプレイ」と考えた場合でも、親和性は高いといえるでしょう。

ただ、今回も冠スポンサーや商品提供でeスポーツと関わるつもりはなく、玉井さんはおもしろい案を模索。いくつか出た案のなかから「体⼒ゲージがポッキーに⾒える瞬間がある」という企画を進めることに決めました。

「eスポーツにはよく体力ゲージがありますし、それがポッキーに見えるのはかなり強いのではないかと考えました。『ストリートファイター』シリーズに決めたのは、対戦ゲームと聞いて真っ先に思い浮かんだタイトルだったためです」(玉井さん)

おもしろい企画に期待は高まりますが、社内では賛否両論。すんなりとは通りませんでした。3度のプレゼンで玉井さんは、いずれも同じことを言い続けたそうです。

「『Pocky K.O.』は、ギリギリできそうなドキドキ感がいいんですと伝えましたね。アマチュアでもプロでも、eスポーツプレイヤーの好奇心をくすぐる企画なんですと」(玉井さん)

玉井さんがブレずに企画のポイントを主張し続けた結果、みごと予算を獲得することに成功しました。

「現時点で『Pocky K.O.』は話題になっており、その点ではプロモーションの効果はあったと思います。しかし、結果も大事。実際に売上げもどのくらい影響があるか、冷静に判断したいと思っています。eスポーツがますます拡大することは間違いないでしょう。今回の件が成功したら、ほかの国でも展開し、より大きな企画をやっていきたいですね」(玉井さん)

おもしろさを追求する開発陣のプロ意識が、クオリティの高いコラボ企画に

ポッキーからコラボを提案されたカプコン。先ほどのデモ機体験でお相手いただいた松本さんは「Pocky K.O.」の企画について2つ返事で乗ったと言います。

「お話をいただいたとき、単純におもしろいと思いました。普通のコラボと違い、ゲームの仕様を変更するため、やはり現場にも負担がかかるのですが、開発メンバーの反応もよく、かなりポジティブに取り組めましたね」(松本さん)

  • カプコン ストリートファイターシリーズ プロデューサーの松本脩平さん

企画が動き出したばかりのころは、体力ゲージの見た目をポッキーに変える程度の変更でした。しかし、それだけでは「Pocky K.O.」がなかなか出なかったそう。そこで、せっかくのコラボがつまらなくなってしまうと思った開発陣が、「Pocky K.O.」よりゲージが減った場合は体力が回復するよう主体的に手を加え、その回復時間もコンマ何秒という単位で微調整を繰り返したといいます。

「最初はここまでのものを作るとは思っていませんでした。でも、私も現場も、負担よりおもしろさが上回り、プロ意識をもってやれたと思います。これだけのことをやっておきながら、プレイできるのは、CC2019の会場で、しかも3日間だけなのもおもしろいですよね。私としては、できあがったもののクオリティはもちろん、開発チームメンバーの熱意とプロ意識を改めて実感できたことにも満足しています」(松本さん)

実際に体験してみて感じたのは、驚くほどの完成度の高さ。「CHALLENGE」モードの1つとして導入してほしいと思ったほどです。

記事を読んで、自分も『Street Fighter V Pocky Edition』をプレイしたいと思う人がいるかもしれません。ですが、現時点ではCC2019会場以外の展開は考えてないそうです。限られた場所と時間でしかプレイできない刹那的なキャンペーンだからこそいいのかもしれません。

まぁ、個人的には、日本で「Pocky K.O.」を経験した数少ない者として、後々の語り草とするために、このままでいいかなとも思ったり……。

カプコンは「Red Bull」や「ユニクロ」「オニツカタイガー」など、積極的に他業種とのコラボを実施しています。もちろん、開発のタイミング次第ではありますが、今後も「Pocky K.O.」のような仕掛けをする可能性はあるでしょう。また、今回のポッキーのように、eスポーツを通じてナショナルブランドの価値を高められるものであれば、eスポーツの運営としてもやる価値はあるはずです。おもしろいプロモーションを期待せずにはいられません。

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