オンラインバックアップサービス企業のBackblazeは9月17日(米国時間)、「SaaS Pricing Strategy: Raising Prices and Getting Rave Reviews For It」において、2019年3月にここ10年間で初めて1ドルの価格引き上げを行った背景を紹介した。

どうして価格アップを検討する必要があったのか、どのような意思決定が働いたのか、結果としてユーザーの解約状況はどうなったのかなどがまとまっている。Backblazeはこれまで競合他社が明かさないような社内事情を積極的に公開してきた。今回の発表もこうした同社の社風を反映したものとなっている。

Backblazeは2019年2月、1カ月後にPoersonal BackupとBusiness Backupの価格を1ドル引き上げると発表した。これは10年以上前にサービスを開始してから初めての値上げとなる。値上げの主要原因はハードディスク調達コストの上昇だという。次のグラフが示すように、ドライブサイズ当たりのコスト減少がどんどん緩やかなものになっており、サービスの強化やサイズの拡張を続けながら同一コストを実現することが難しくなったことが主な原因だとしている。

  • ドライブあたりのコスト 2009年〜2017年: 急速に減少しなくなってきている - 資料: オンラインバックアップサービス企業Backblaze提供

    ドライブ当たりのコスト 2009年〜2017年: 急速に減少しなくなってきている - 資料: Backblaze

Backblazeの話はここからが興味深い。Backblazeは今回の値上げを2017年8月の段階で発表することを予定していた。それに合わせて、このバックストーリーをコミュニティに公開することも決定し、さらにコミュニティに前進し続ける意思を示すためにバックアック機能と復元機能の高速化という追加プロジェクトまで実施していたものの、発表の直前で値上げを中止している。それは発表の当日朝、競争他社がバックアップサービスから手を引くという発表を行ったためだとしている。

競合他社が去ったその日に値上げを発表するというのは最悪のタイミングだとして発表を中止。競合他社のサービス中止によって、その後ユーザーが流入してきたという嬉しい結果があったものの、そのユーザーに合わせてストレージを増強するためにまた支出が発生するという厳しい事態も招くことになったと説明している。

  •  - 資料: オンラインバックアップサービス企業Backblaze提供

    - 資料: Backblaze

その後さまざまな方策を重ね、最終的にBackblazeは2019年2月に1ドルの値上げを発表し、2019年3月に値上げを実施した。値上げ前の解約率は5.38%で、発表後半年間での解約率は5.75%となっている。解約率が約0.7%ほど増加したことになる。値上げの発表に対して不満を示すユーザーもおり、その結果は解約率の増加が物語っている。しかし、多くのメディアがこの値上げを公平なものだと評価している。

Backblazeはこうした同社の取り組みを、ユーザーが有益で興味深いものになると考えてくれると期待して、値上げプロセスの工程をユーザーと共有したかったと説明。時間をかけてユーザーの声を聞いて何ができるかを検討していくことで、問題を軽減していくことができるという同社の考えを説明している。

Backblazeはオンラインバックアップサービスを提供しているベンダとしては珍しく、同社が利用している大量のハードディスクの故障率や内部で使っているポッドデザインなどを公開している。

タイのハードディスク危機が発生した際、どのようにしてハードディスクを調達したのかといった話もすでに公開済みだ。Backblazeはこうした情報公開の社風があり、12年経って初めて実施した値上げに対しても概ね理解が得られているようだ。