中小企業庁は毎年、中小企業、小規模企業についてさまざまな統計資料を発表している。2018年に発表された「中小企業の企業数・事業所数」によると、企業全体に占める中小企業・小規模事業者の割合は357.8者で99.7%だという。

一方、日本の中堅・中小企業は生産性低下、人手不足、デジタル化などの構造変革への対応など、さまざまな課題を抱えていると言われている。国全体としての競争力を高めるためにも、日本の9割以上を占める中堅・中小企業における課題を解決することは重要だろう。

そこで本稿では、中小企業庁が発表した資料をもとに、日本の中堅・中小企業が抱える課題とその解決策を整理してみたい。

時間当たりの労働生産性に注目を

中小企業庁が2018年に公開した「2018年版中小企業白書・小規模企業白書」は、中小企業の景況感は改善傾向にある一方、大企業との生産性格差は拡大しているとして、中小企業・小規模事業者が生産性向上を実現するためのヒントを提供している。

  • 企業規模別労働生産性の推移 資料:中小企業庁「2018年版中小企業白書・小規模企業白書」

中小企業と大企業の労働生産性の格差は、時間当たりおよび1人当たりの労働生産性の双方において確認されているが、時間当たり労働生産性で見たほうが格差が大きくなっている。そのため、中小企業が生産性向上に取り組む際は、時間当たりの労働生産性を意識するとよいと言える。

また同白書では、生産性向上に取り組む際、大前提として業務プロセスの見直しを行う必要があると指摘している。当然と言えば当然だが、業務の見直しを行った上で施策に取り組んだ企業と業務の見直しを行わずに施策に取り組んだ企業では、生産性向上を実現した企業の割合が15%から20%の開きが生じている。

例えば、IT導入においては、業務の見直しを行った企業の49.5%が生産性を向上したのに対し、業務の見直しを行わなかった企業は29.6%となっている。

  • 業務の見直しの有無から見た生産性を向上した企業の割合 資料:中小企業庁「2018年版中小企業白書・小規模企業白書」

業務の見直しの効果については、実施する体制によって差が出ていることが明らかになっている。労働生産性が向上している企業では、「経営者・経営層がリーダーシップを発揮している」が54.5%と最も高くなっており、業務の見直しは経営層の指揮の下で行うと効果が発揮されることが証明されたことになる。

製造業以外にも役立つ「多能工化」と「兼任化」

同白書では、中小企業が生産性向上するために有効な取り組みとして、前述した業務プロセスの見直しに加え、人材活用における工夫も挙げている。

具体的には、従業員の多能工(マルチスキル)化と兼任化を進めることが人手不足を解消する上で有効だという。「多能工化」とはトヨタ自動車が発案した仕組みで、1人の従業員が複数の業務や行程をこなせるよう、教育・訓練することをいう。

3年前と比べた労働生産性の向上について聞いた質問では、多能工化・兼任化に取り組んでいる企業の59.0%が「向上した」と回答したのに対し、取り組んでいない企業は33.6%が「向上した」と回答している。

もともと製造業から生まれた仕組みだけあって、製造業では取り組みが進んでいるが、その他の業種では製造業ほどは取り組まれていないことがわかっている。中小企業庁では、人手不足感が強い建設業、サービス業においては多能工化と兼任化に取り組む余地があると指摘している。

多能工化・兼任化を進めるにあたっては、従業員のスキルの見える化が重要になってくる。従業員ができることがわからなくては、どんな業務を任せてよいのかが見えてこないからだ。

ただし、多能工化・兼任化を推進するにあたり、時間や人材の不足が課題であることもわかっており、その実現は簡単ではないのが実情のようだ。従業員の負担が一時的に増加しても、生産性向上という目標の達成に向けて進むべきかどうか、悩ましいところだ。