タムロンの「SP」(Superior Performance)シリーズといえば、描写性能に優れた高性能交換レンズとして知られています。SPシリーズ40周年となる2019年に登場したのが、タムロンでは珍しくF1.4の明るさを持つ大口径レンズ「SP 35mm F/1.4 Di USD」です。「タムロンが持つ技術をすべてつぎ込んだ」という自信作の実力をチェックしていきましょう。

  • タムロンの大口径レンズ「SP 35mm F/1.4 Di USD」。ニコン用は販売中で、キヤノン用は7月25日発売予定。実売価格は、それぞれ税込み10万円前後。今回は、有効4575万画素のフルサイズセンサーを搭載するニコンの「D850」と組み合わせて撮影した

タムロンにしては珍しい重量級レンズ

タムロンの35mmレンズといえば、2015年に発売した「SP 35mm F/1.8 Di VC USD」があります。今回登場したSP 35mm F/1.4 Di USDは、それよりも絞りが半段明るいだけでなく、最新かつ最高の技術を用いて作ったとのことです。

タムロンといえば、他社に比べると同じスペックでも小型軽量なレンズに仕上げることが多いイメージですが、このレンズはかなり大柄。かつ、いかにもガラスが詰まっているといった重量感があります。単純にシャープな描写のレンズならもっとコンパクトに作れるはずですが、総合的な描写を高度な次元でまとめたからこそ、この大きさになったのでしょう。

  • 逆光でも高コントラストでシャープ。しかも、向こうに見える空は、わずかにトーンが残っています。レタッチすればさらに見えてくるはず。これも、レンズの性能が大きく寄与しています(ニコンD850使用、ISO64、1/1250秒、F4、-0.3補正)

  • 小雨模様の日、近所を歩いていて見つけた光景。近接撮影でピントは紙のように薄いのですが、前後へなだらかにボケていくことで、心地よい立体感があります(ニコンD850使用、ISO64、1/160秒、F1.4)

  • 逆光に強いレンズですが、特定の角度で強い光が入り込むとハレーションが。しかし、その出方にも味があり、あえてフードを外して撮影してみました(ニコンD850使用、ISO64、1/400秒、F1.4、+1補正)

  • 上の写真と同じ猫を、サイドから光が当たっている状態で撮ってみました。とても立体感のある描写です。右端の後ボケに、やや口径食(レモンのような形に変形した玉ボケ)が見られますが、広角の単焦点ではこれくらい仕方ないかなぁ…というのが個人的意見です(ニコンD850使用、ISO64、1/320秒、F1.4)

切れ味と立体感のある描写が圧巻

レンズの設計や製造の技術は、ここ数年驚くほどの速さで進化しています。よく写ることは事前に想像できましたが、実際に撮影してみると、上品でとても“色気”のある写りだと感じました。色再現はナチュラルでクリア。コントラストは高くなく、トーンもふわっと柔らかめ。それでいながら、絞り開放から鋭いキレ味を発揮しているのが分かります。

ボケの描写も実にお見事。ピントの合った部分からアウトフォーカスにかけて、なだらかにボケているのが分かります。背後のボケを優先すると被写体より前のボケが乱れるなど、前後のボケ味を両立させるのは難しいのですが、このレンズは見事なバランスを実現していると感じます。被写体が自然に浮かび上がるような、立体感のある描写が印象的です。

35mmはスナップ撮影に適していますが、目の前の光景をやや広めに切り取る画角で、人物や自然風景などオールマイティーに使える焦点距離です。ズームに慣れ親しんだ人にも単焦点の魅力を知ってもらえる一本ではないでしょうか。

  • 35mmといえば、街角のスナップにも最適な焦点距離。とても自然な遠近感で、背景を取り込むことができます。さらに、F1.4の明るさがあれば、主題が浮かび上がるような表現もできます(ニコンD850使用、ISO64、1/320秒、F1.4、-0.3補正)

  • なかなか晴れない日々が続いたので、都心でモノトーンの風景を狙ってみました。F5.6まで絞ると、緻密さがさらに増します(ニコンD850使用、ISO110、1/125秒、F5.6、-1.3補正)

  • 最短撮影距離は、35mmレンズとしては標準的な30cm。接写に強いタムロンとしては意外ですが、高い描写性能を保つためかもしれません。実際に30cmで撮影してみると、さすがタムロンといった描写が得られました(ニコンD850使用、ISO64、1/250秒、F1.4、-0.7補正)

  • 曇天で色味のない被写体という、こうした作例には向かないシチュエーション。しかし、厳しい条件だからこそ、実はレンズの性能がモノをいうのです(ニコンD850使用、ISO64、1/2000秒、F1.4)

  • シングルAFに設定していたため、動いている人物がわずかにピンボケになってしまいましたが、雰囲気で選びました。F1.4の明るさと高い光学性能は、なにげない場面を印象的にしてくれます(ニコンD850使用、ISO64、1/1250秒、F1.4、-1.3補正)

鹿野貴司カメラマン

著者プロフィール
鹿野貴司

1974年東京都生まれ。多摩美術大学映像コース卒業。さまざまな職業を経て、広告や雑誌の撮影を手掛ける。日本大学芸術学部写真学科非常勤講師、埼玉県立芸術総合高等学校非常勤講師。