米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」の会場で、ワコムが「xR」向けクリエイティブツールの開発を表明しています。年内の投入を計画していますが、今回のCES会場で披露することで、来場者などからの声を受け、開発をさらに加速させたい考えです。
ワコムが展示していたのは、HTC VIVEと専用コントローラーを使った3Dグラフィック作成ツール、そしてMagic LeapのARグラスとペンタブレットを使ったグラフィックス作成ツールの2種類です。
VR向けツールは、工業デザインの3Dモデリングツールとして知られるGravity Sketchと連携します。Gravity Sketchは、もともと自動車メーカー向けのVR向け3Dモデリングツールでしたが、今は自動車業界以外でも使われている定番ツールです。
Gravity SketchはHTC VIVEと組み合わせることで、コントローラーの位置を正確に把握できるため、より精密なデザインが行えます。しかし、HTC VIVEのコントローラーは、どちらかといえばゲーム用で、握り方がゲームコントローラー風になってしまいます。
そこでワコムは、コントローラーの形状を変え、さらにワコムのスタイラスペンを挿入できるようにしました。ペンを持つようにコントローラーを握ることで、ペンで書くように操作できるようになっています。
この効果は明確です。紙のノートに鉛筆でデザインを描くように、VR空間でデザインを作成できるのです。細かい描写も、コントローラーをペンのように持っているため、微調整しやすくなっています。
ワコムのスタイラスペンを挿入しているので、HTC VIVEのコントローラーそのままで液晶タブレットにデザインを描いて、そのままHTC VIVEでも3Dデザインをする……といったシームレスな移行も可能です。とはいえ、現時点でコントローラーの形状はプロトタイプで、「この1~2月でデザインを固めたい」としています。
従来のGravity Sketchの操作はそのまま可能で、作成した3Dオブジェクトを回転したり縮小したり、光線を追加して光の当たり方を確認したり、人のオブジェクトを配置して確認したりと、VR空間内でこのソフトウェアならではの操作性を提供します。
その上で、コントローラーをペンのように持って、細かい作業や描画を快適に行えるのが大きな特徴です。ワコムはかつて、PCではマウスを使って描画するしかなかったところに、ペンタブレットによって紙に書くような使い勝手を実現してきました。それをVR世界でも同様に実現しようというのが、今回の取り組みです。
とはいえ、現在はまだ最初のプロトタイプ。すでに100社以上で試用してもらい、さまざまな意見が集まっているそうです。さらに今回のCESで来場者の反応も含めて、順次機能やデザインを拡張していくとのこと。2019年中の発売を計画しています。
すでに開発には2年ぐらいかかっているとのことですが、VR自体の技術が成熟していなかったこともあって、開発には時間がかかったようです。また、今回はGravity Sketchでの動作でしたが、こうしたプロ用のツールとうまく連携できるように開発を継続していく考えです。製品化にあたっては、「車であればコンセプトカーをこれだけでデザインできるするレベルには持っていきたい」(ワコムの担当者)とのことです。
ワコムは、Gravity Sketchと共同でソフトウェアをチューニングしています。HTC VIVEとの組み合わせで遅延を0.5ミリ秒まで短縮化し、より精細な動きに追従できるようにしています。「VRは工業ユースでも“見る”ツールでしたが、これによって編集や作成といった作業もできるようにしていきたい」(ワコムの担当者)とします。
ちなみに、現状はトラッキング性能などを考えてHTC VIVEを想定した開発となっていますが、これはペンの座標軸を正確に捕捉できるVRシステムが必要なため。もし今後、より最適なシステムが登場した場合は、そうしたシステムにも対応していきたい考えです。
AR向けツールも
これと同様に開発を行っているのが、AR向けツールです。こちらはMagic Leapと2年にわたるコラボレーションで開発が行われており、ARを使ったデザインツールとなっています。
VRとの違いは、実際の風景にCGを重ねて表示できる点です。このため、現実との組み合わせでデザインを確認できます。想定しているのは例えば、複数人による会議の場。ディスプレイを何台も使って、対象のデザインを検討していたケースなどはです。Magic Leapを使えば、全員がその場で話し合いながら、視界に映る3Dのデザインを検討していけます。
使用するのは、Magic Leapとワコムのペンタブレットです。ボタンとペンの動きで3Dデザインを動かしたり、拡大したり、配置を換えたりといった操作が可能。もちろん、その場でデザインに書き込むこともできます。
デジタルなので、色を変えるなどの操作も簡単ですし、要素の追加もできて、その場の全員と共有していますので、すぐに検討が進みます。CES会場のデモでは、シューズのデザインが視界に表示されましたが、サイズを変えて自分の足元に移動させれば、実際に履いたときにどのように見えるか、といったことも確認できます。
面白いのは、現実の景色にも書き込める点です。Magic Leapは現実を認識していますので、テーブルや壁面を選択してペンタブレットに書き込みをすると、それがそのまま反映されます。ホワイトボードに書き込むように、現実に書き込みができるわけです。まさに「AR」ならではですね。
外から見ると、妙なメガネをかけた人たちがペンタブレットを動かしているだけに見えます。実際にMagic Leapを通すと、壁面に書き込みが現れますし、視界にはシューズが表示されます。移動すると、それに合わせて角度を変えて見えます。複数人で見ても、ちゃんとその人の見る方向を認識していますので、それぞれが角度を変えて確認する、といったこともできます。
ワコムでは、個人が集中してデザインするような用途でVRを、複数人でデザインを共有する場合にARを使うことを想定。xRソリューションとして、2019年内に商品化を行いたい考えです。
PCでのインプットにこだわってきたワコムが、VRでもARでも変わらずインプットにこだわろうというのが、今回のソリューションです。すでに、デザインの現場ではVRやARの活用が始まっていますが、それを一歩進化させるワコムのソリューション、登場に期待したいところです。