LINEが転職求人情報サービス「LINEキャリア」を開始した。掲載する求人情報は「エン転職」で知られるエン・ジャパンが提供。両社が共同出資した新会社「LENSA」が運営する。680万人の会員と5000件以上の求人情報を抱えるエン・ジャパンが、LINEの新サービスに協力した狙いはどこにあるのだろうか。

転職市場でLINEとエン・ジャパンがタッグを組んだ。LENSA 代表取締役会長 上土達哉氏(左)はLINE HRサービスの事業部長を務めており、代表取締役社長の寺田輝之氏(右)はエン・ジャパンの執行役員だ

「企業内失業者」が人手不足解決のカギに

寺田氏は国内の労働市場について、「有効求人倍率は8月に1.63と高い水準にあり、未充足の求人は121万人と増加の一途をたどっている。人手不足による倒産も昨年を上回るペースにある」と、人手不足が多くの企業にとって大きな課題となっていることを説明する。

人手不足による倒産が増加

日本の社会問題となっている人手不足と転職市場の関係は根深い。総務省によれば2017年の転職者数は311万人だが、潜在的な需要として「企業内失業者」が465万人いることに寺田氏は注目する。

企業内失業者とは、いわゆる窓際族と呼ばれる人々で、かつては中高年層が中心だったが最近では20〜30代の若手にも広がっているという。その背景には、リーマンショック後の人員削減などにより、若手を教育するベテラン人材の不足があるとされる。

潜在的な顕在意識しか持たない「企業内失業者」が転職市場の需要に

この「本来、活躍すべき人が活躍していない」状況を解決すべく、転職へのハードルを下げ、新たな入り口を設けるのが狙いだ。

そこでエン・ジャパンは、エン転職で扱うすべての求人情報をLINEキャリアにも掲載。エン転職では担当者が企業を1社ずつ訪問して取材した生の声を発信しており、時にはポジティブではない情報も含まれる。転職後に「こんなはずではなかった」と感じるギャップをなくすことが入社後の活躍や定着につながるとする、同社ならではのやり方だ。こうしたポリシーは、LINEキャリアにそのまま受け継がれる。

求人の背景や職場の雰囲気について詳しく書かれている

LINEは人手不足問題を解決するプラットフォームへ

LINEは2015年に「LINEバイト」でアルバイト情報事業に参入しており、1400万人の会員を誇る。同サービスで注目すべき点は、「面接率」の高さにある。

なぜLINEバイトは面接の確率が高いのか、その秘密はLINEメッセージにあるという。「Eメールは埋もれがちで見落とすことが多い中で、LINEのメッセージは開封率が高く、面接の案内を見逃すことが少ない」と上土氏。たしかに、LINEが主要なメッセージツールとなった今、普段よく使うLINEでコミュニケーションをとれる方が、Eメールでのやり取りよりも便利で、ユーザーにとって大きなメリットがある。

もちろんこの特徴はLINEキャリアにも活かされている。まずはアルバイト情報事業から始め、そこでの知見をもとに、次のステップへと踏み出した形だ。

「LINEメッセージ」で面接の案内を見落とすことがない

また、LINEキャリアは既存のLINEアプリをそのまま使うため、追加のアプリインストールや会員登録が不要という点も特徴。LINEのユーザー基盤は7600万人で、実に6500万人が毎日アクセスしている。その巨大プラットフォームに新たなサービスを追加できるという、LINEの強みを活かした。

既存のLINEアプリ内から「LINEキャリア」にアクセスできる

LINEキャリアでは、トーク画面での履歴書作成や、求人の閲覧・検索・応募ができる。また、希望の職種や年収に答えていくだけで求人を絞り込むことが可能で、手軽な作業で転職企業の候補を選ぶことができる。将来的には、ユーザーの同意を得た上でLINEが持っている個人情報も活用していく予定だという。

アルバイト、転職ときて、今後の展開として気になるのが「新卒採用市場」への進出だ。LINEは若年層のユーザーも多く、かつエン・ジャパンでは新卒学生向けのスカウトサービス「iroots」も提供しており、新卒市場でのLINE活用にも身を乗り出す可能性は低くない。

LINEキャリアでは今後、企業からのダイレクトオファー機能も追加する予定であるという。そこにLINE側が持つ個人情報の活用が重なれば、転職に限らず、人材領域全般においてのサービス拡大が見込まれそうだ。

LINEは日本を襲う人手不足を解消するためのプラットフォームとなり得るのか、今後の動きに注目したい。

(山口健太)