DRKSHDW by Rick Owensのジャケットを羽織り、中目黒のブルーボトルコーヒーで、このiPhone XRのレビューを書いている。新しいApple製品を新鮮な気持ちで書くのに、筆者にはブルーボトルの味が欠かせない。
おっと、前振りに持ってきたかったのはブルーボトルではない。DRKSHDWの方だった。ご存知の通り、DRKSHDWはデニムをメインにしたRick Owensのセカンドラインである。しかし、今着ているジャケットは2014S/Sのコレクションで、ファーストラインのアイテムと一緒に紹介されたものなのだ。一般的にセカンドラインはファーストラインより価格が安い普及版というイメージがある。しかし、ブランドによっては、DRKSHDWのようにセカンドラインのアイテムながら、ファーストラインとしてランウェイに登場させるといった戦略を採ることがある。
iPhone XRも価格的にみれば、セカンドラインであるとは言えよう。だが、内実はそうでない。高い完成度を誇る圧倒的なファーストラインなのだ。そもそもiPhone XRをセカンドラインだとか廉価版と評するのは的確ではない。これまでに、Appleは「廉価版」なる製品を発売したことがない。ユーザー体験を最大に高めるのに最良の製品/サービスしか提供しないからだ。だから、一般的なスマートフォンの利用において重要な部分の機能(例えばカメラ機能)は、先行して発売されたiPhone XSに見劣りしないものになっている。 それに、スペシャルイベントでのリサ・ジャクソンの発言にあったように、長く使えるのが確約されている。これは堅牢性というだけでなく、中に入ってる「A12 Bionic」チップやカメラなどの各種機能もそう簡単に古くならないからだ。その他の機能も陳腐化しないようOSレベルでのサポートがついてくる。この辺は、ハードウェアとソフトウェアの開発を一本化してるAppleならではのアドバンテージだと言える。Androidスマートフォンだと、自分が使っている端末が、果たして次のアップデートで対応するのかビクビクしながら利用するってケースが多いのではないかと思うが。
カラーバリエーションの豊富さもiPhone XRの魅力の一つ。Appleは使って楽しい製品にはカラバリを増やすという手法を用いるが、iPhone XRも、そのカテゴリーということなのだろう、イエロー、ホワイト、コーラル、ブラック、ブルー、(PRODUCT)REDの6色がラインナップされている。この中で、ブラック、ホワイト、(PRODUCT)REDはクールなイメージ、イエロー、ブルー、コーラルはポップで可愛いという印象だ。筆者が今回入手できたのはブラック。先述のRick OwensやANN DEMEULEMEESTERといった、黒を基調にしたブランドの服にはとても良くマッチする。
iPhone XSシリーズでは、フレーム素材に医療器具でも使われるステンレススチールが採用されていたが、iPhone XRの素材はアルミニウム。耐久性が高く、なんでも航空宇宙産業で使われているものと同じグレードとのことだ。高級感もバッチリ演出されており、持っていてカッコ良いiPhoneの伝統を踏まえた仕上がりとなっている。
なお、iPhone XRでは、現時点で純正のケースが用意されていない。この色をデザインを愛でて欲しいという想いの表れであると同時に、ケース無いのが一番綺麗という自信をもうかがわせる。
ディスプレイのサイズは6.1インチ。これはiPhone XSとiPhone XS Maxの間となる大きさだ。従来の「Plus」シリーズと比べて画面のサイズは大きくなっているが、本体サイズは「Plus」シリーズよりは小さくなった。これはホームボタンを廃止し、オールスクリーン化したことによるものである。
ディスプレイ自体はIPS方式の液晶パネルが採用され、新たに「Liquid Retinaディスプレイ」と命名された。業界の中で最も先進的なLCDを謳っており、バックライトの再設計により、スクリーンを隅々に広げるのに成功している。状況に応じて最適な色合いで表示をしてくれる「True Tone」や、デジタルシネマ規格であるDCI-P3の広色域にももちろん対応する。画質に関しては、有機ELディスプレイ採用のXSシリーズにはやや劣るものの、申し分ないという印象なので、XSシリーズとは、大きさで比べることになる、という向きもあるかもしれない。
画面を押し込んで操作する「3D Touch」には非対応となっているが、それに代わる「Haptic Touch」が搭載されている。これは画面を長押しすることで、ほぼ「3D Touch」と同じ操作が行えるというものだ。長押しすると「プルッ」と画面が震え、ロック画面での「カメラ」「ライト」の素早い起動が行えたりする。「メモ」アプリでのカーソル移動の際にも、このHaptic Touchが機能するが、サードパーティのアプリに関しては対応待ちという状況である。個人的に、触感フィードバックは、特に視覚に障害のある方に便利に利用できると考えているので、「アクセシビリティ」機能の充実に一役買ってくれるのではないのかなと思えた。
続いて紹介したいのは、やはりカメラ機能。メインとなる本体背面のカメラはシングルレンズ仕様ながら、被写界深度のコントロールができる「ポートレートモード」と、3つのエフェクトを備えた「ポートレートライティング」が利用できる。これまでデュアルレンズを備えたiPhoneでしか使えなかった、プロが一眼レフで撮ったような写真を、レンズが一つしかないiPhone XRでも楽しめるのだ。ポートレートモードは人物以外には適用できないが、大切な人との思い出を美しく残せることの価値は非常に高いと感じる。
この「人との思い出」を残せるというのに、改めて、iPhoneってコミュニケーションツールなんだな、Appleって人との関係を大事にしてるんだなと再認識させられた。Apple MusicやApple Booksで人の手が入ったキュレーションが行われていること、Apple Storeでのジーニアスたちの対応、タウンスクエアとしての機能などなど、他者とのコミュニケーションに重きを置いてるのは明らかだ。筆者もiPhone XRの発売を楽しみにしている人たちのことを想像しながら本稿の執筆にあたっているのであって、情報をクロールするロボットのために記事を書いているわけではない。だから、Appleの考えていること、伝えようとしていることには強く共感できる。
「ポートレートモード」について、もう少し詳しく見てみよう。どこまで被写体の「顔」を認識してくれるのか、ちょっと実験してみた。
ご覧の通り、完全に後ろを向くとNGだが、横顔なら、そこに「人の顔がある」と認識してくれる。横顔でも、「鼻」だけだとダメなようで、「目」「口」との三点セットになって初めて「顔」であると理解するようである。そこで、一歩踏み込んでこんなテストもしてみた。
何と、画像でも三点セットになっていれば「顔」と認識してくれるのである。試しにApple Musicでイラストのジャケット、ビル・フリーゼルの『Ghost Town』を覗かせてみたが、流石にこれは「誰も検知されませんでした。」になってしまった。果たしてどこまでが「顔」なのか興味は尽きないが、時間の都合で今回確認できたのはここまで。この件に関しては改めて検証できればと考えている。
前面のTrueDepthカメラにも触れておこう。こちらはiPhone XSと同等。ポートレートライティングも5つ使え、アニ文字とミー文字も利用できる。自撮り好きには嬉しい仕様だ(セルフィー好きってだけでなく、やっぱりコミュニケーションを深めたいって人にも使って欲しい)。
動画の撮影に関しては、こちらもXSシリーズ同様、最大30fpsの拡張ダイナミックレンジが適用されるようになったほか、TrueDepthカメラで1080pと720pで映画レベルのビデオ手ぶれ補正を搭載、1080pでの撮影はフレームレートを30fpsと60fpsから選べるようになっている。ステレオ録音もXSシリーズ同等の仕様だ。
iPhoneの動画の品質は、iPhone 5sで撮影されたショーン・ベイカーの『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』以降、商業映画でもイケるという評価になっている。スティーブン・ソダーバーグやミシェル・ゴンドリーもiPhoneで撮った作品を公開しており、プロもお墨付きなクオリティなのだ。カメラ性能で訴求するスマートフォンは多くあるが、それらはiPhoneと比べると「盛って」綺麗に見せている観があるのは否めない。対してiPhoneは写真も動画も自然に写すのを基本にしている。プロは後から加工するのが前提なので、最初から盛られた素材など論外なのだ。
今回、特に拡張ダイナミックレンジに対応したことで、明るい部分の白飛びが軽減され、暗い部分のノイズが出にくくなった(この暗い部分のノイズが出ないのが凄い)。マイナビニュースでは運営の都合上、iPhoneで撮った映像そのままのデータをご覧いただけないので、サンプルは掲載しないが、これは是非、店頭で触ってチェックしてみてほしい。
そして、特記したいのはバッテリーライフだ。今秋発表された新iPhoneの中で、iPhone XRは最長のバッテリー駆動時間を誇る。これはつまり、歴代iPhoneにおいて最長ということになる。スマートフォンに求められる機能の上位に、確実に「長いバッテリーライフ」は入ってくるが、iPhone XRはこれをクリアしていると評価できよう。
スマートフォンに求められる機能で、もう一つ。堅牢性だ。航空宇宙産業で使われているものと同じグレードのアルミニウムが使われていると、前述したが、それに加えて、スマートフォン史上、最も強靭とアピールするガラスをフロント面に採用。耐水性能と防塵性能はIP67等級で、最大水深1メートルで最大30分間の耐久と、これまた申し分ない仕様になっている。
長く使えて、最新の機能を装備。加えて、クールから可愛いまでを揃えたカラバリ、高い耐久性と、長時間のバッテリーライフ、廉価版ではないと言ったが、iPhone XSよりは安い価格と、購入の動機になりそうな条件は十二分に揃ってる。発表直後、iPhone XRの「R」の意味は何だろう? と海外メディアを中心に様々な考察がなされた。ある人は、「Revolutionally(革新的)」だろう、いや、廉価版だから「Reduced(減らした)」じゃないの? いやいや、やっぱり「Regular(普通の)」でしょ、などなど。いろいろ記事やSNSの投稿を見ているうちに、何でこれがないんだろう……と筆者が思ったのが「Represent(代表する)」だ。機能面でもデザイン面でも、これだけ充実した製品はそうあるまい。iPhone XRは、間違いなく今あるスマートフォンを「代表する」存在となるはずだ。ウォルター・ペイターが「すべての芸術は音楽に憧れる」と言ったように「すべてのスマートフォンはiPhoneに憧れる」のである。