「I just set up a trap!」
「Thanks for the help!」
「I've set a Health Booster!」
ハンティングアクションゲーム『モンスターハンター:ワールド(MHW)』をプレイしていると、多種多様な言語が飛び交うことがある。オンラインで世界中のプレイヤーと一緒にモンスターを狩りに行くことができるMHWには、意思疎通を図る手段として、あらかじめ設定した文章を画面に表示させる定型文機能が用意されているのだ。
各言語に自動翻訳される定型文もあるが、手動で入力したオリジナルのメッセージなどはそのままの言語で表示される。英語であればまだしも、スペイン語やハングルなどが表示されると、正直なにを言っているのか筆者にはわからない。しかし、それもまた、国際色豊かなユーザーがプレイしている証拠だろう。
近年、ゲームは「日本国内だけで販売されるもの」ではなくなった。オンラインによるコンテンツ配信や、海外販社と連携した展開などによって、いかに海外での販売数を伸ばすかが重要になってきている。
そのような市場環境もあってか、2018年9月20日から4日間にわたって開催された「東京ゲームショウ2018(TGS2018)」では、「日本発グローバル・ヒットタイトルに学ぶ、国産ゲームが世界で勝つ方法」をテーマにした講演が開かれた。カプコン 『モンスターハンター:ワールド』プロデューサーの辻本良三氏、スクウェア・エニックス 『NieR:Automata(ニーア オートマタ)』プロデューサーの齊藤陽介氏、コーエーテクモゲームス 『仁王』ディレクターの安田文彦氏の3名が登壇し、それぞれの作品が世界的にヒットした理由について話していたので、本稿ではその内容を紹介しよう。
7割以上の海外比率を実現した『MHW』
最初に登壇したのはカプコンの辻本氏。モンスターハンター(MH)は2004年から10以上のタイトルが発売されているシリーズだ。最新作であるMHWは世界累計出荷本数が1000万本を超え、シリーズのなかで最高記録を更新したことでも話題になった。過去のMH作品でも欧米市場に対する取り組みは行ってきた同社だが、今作はどのような点に注力したのだろうか。
辻本氏「2008年に発売された『モンスターハンターポータブル2ndG』の海外比率は14%でした。そこで浮き彫りになった課題を解決すべく、チュートリアル強化やオンラインマルチプレイ提供を行った結果、『モンスターハンター4G』では30%まで海外比率が上昇。さらにMHWでは、ユーザーからの『据え置き機への要望』に応えるとともに、4KやHDRの対応など『AAAの水準のクオリティとボリュームの実現』という、海外タイトルではもはや当たり前にやっていることを目指しました」
シリーズの経験を生かして徐々に海外比率を高めてきたMH。最新作でも世界を見据えた目標を設定した。
辻本氏「そこで掲げたコンセプトが“最新技術を使って世界一のマルチプレイ・ハンティングアクションを作る!”というものです」
MHシリーズの大きなコンセプトでもある“マルチプレイ・ハンティングアクション”を改めて意識しつつ、最新作では世界で勝負することに一層注力し、システム開発やプロモーションを実行。具体的には「世界同日発売」や「ワールドワイドマッチング」、シリーズ最多の「12言語へのローカライズ」などに取り組んだという。
辻本氏「また、プロモーションでは、開発初期から海外販社と入念な連携を行うことで、開発陣にも販社の生の声やユーザーの温度感を伝えることができたと思います。加えて、E3(海外で行われるゲーム見本市)で作品の発表をしてから発売後まで、北米、欧州、日本、アジアのバランスを考えながら、各国でイベントを実施いたしました」
発売後も積極的に各国でイベントを開催しているMHW。今回のTGS2018でも、各国の予選を勝ち抜いた代表者による、モンスター討伐のタイムアタック大会「DREAM MATCH」が行われた。
そのほか、「日本・アジア」と「北米・欧州」で商品パッケージや広告などのデザインを変えたり、新規ユーザーが手に取りやすいようにタイトルのナンバリングをつけなかったり、開発担当者が同行して欧米でテストプレイを実施したりと、グローバルを意識して取り組んだ結果、MHWでは海外比率が71%と、大幅な海外ユーザーの増加に結びついたのである。
バランスを取ることで成功を収めた『ニーア オートマタ』
続いて、アクションRPG『ニーア オートマタ』のプロデューサーの齊藤氏にバトンが渡った。
齊藤氏「まず我々は、前作『ニーア ゲシュタルト/レプリカント』の反省点を考えることからスタート。同作では、ヨコオタロウ氏の考える世界観に加えて、岡部啓一氏をはじめとするMONACAスタッフの作曲する音楽について、非常に高い評価をいただきました。その反面、決してダメだったわけではありませんが、世界市場を見据えた場合にまだ伸ばすことのできるキャラクターや、アクションゲームとしての完成度を“及第点”と考え、それらをさらに高い“合格点”へと引き上げるよう試みました」
ニーア オートマタは累計出荷・DL販売本数が300万本以上のアクションRPG。前作で「まだ伸びしろがある点」について、さらなる向上を目指したという。そこで、キャラクターデザインに『ファイナルファンタジーXIV』でアートディレクターを務めた吉田明彦氏を起用し、ゲーム開発をアクションゲームの開発に定評のあるプラチナゲームズに依頼。なにか1つに秀でるゲームではなく、全体のバランスを取ることを意識した。
齊藤氏「プロモーションで効果があったと考えられるのは、ゲームタイトルの発表会をコンサートスタイルにしたことと、発売後にMONACAの楽曲を主軸としたコンサートを実施したことです。発売後のコンサートについては、ゲームの発売前にコンサートのチケット販売を行ったので、どこまで集客できるか不安でしたが、ありがたいことに連日満席でした」
実際、同作のサウンドトラックは、オリコン週間CDアルバムランキングで2位を獲得するほど、高い人気を誇っている。
齊藤氏「また、視聴者にはネタバレがあることを事前に伝えたうえで、出演声優さんに作品のおもしろさを話してもらう座談会を開催しました。その結果、ユーザーも積極的にSNSで発言してくれるようになったと思います」
SNSでは、なかなかネタバレ発言をしにくいもの。しかし、それではクチコミも広がりづらい。そう考えた齊藤氏は、あえて公式がネタバレをすることで、SNSでの拡散を狙った。
齊藤氏「とはいえ、ゲーム開発には数年間を要することが当たり前になってきています。ニーア オートマタの内容をトレースしたところで、成功できるかはわかりません。大切なのは開発者がテンションをキープすること。“生みの苦しみ”は重々承知しています。しかし、最終的にいいものを生み出すのは、開発の時間を楽しく有意義にできるかが大切なのではないのでしょうか。もちろん、アイデアには旬があるので、ベストな時期でのリリースは大前提です」
3度の体験版と12年の開発期間が話題を呼んだ『仁王』
コーエーテクモゲームスの安田氏は、世界で200万本以上の販売台数を誇るアクションRPG『仁王』において、開発の観点から大きな影響のあったアプローチを紹介した。
安田氏「我々は発売の10カ月前にα体験版を配信しました。そこで得られた難易度調整やインターフェース改善などのフィードバックを反映して、その4カ月後に再度β体験版を配信。そして、一般的なものに近い最終体験版を発売直前に配信しました。αと比較すると、β版はユーザーアンケートの評価が上がっていることがわかります」
従来の体験版は、完成したゲームの一部を切り出して発売前に配信するケースがほとんど。しかし、仁王の場合は開発途中の段階から3回の体験版を配信した。そして都度、改善内容を公開することで、意見をしたユーザーにも納得してもらえるように工夫。自分の意見が反映されたところをβ版で確認できるようにすることで、ファンを構築できたのではないだろうか。
安田氏「体験版で世界中の人に触ってもらえて、海外では、なにが好かれてなにが嫌われるのか、分析しながら開発できた点が最終的な評価につながったのではないかと考えています。また、ソニーさんとパブリッシュのパートナー契約を結んで、欧米とアジアに展開できたことも後押しになりました」
そして安田氏は、個人的な意見としてもう1つ話題を呼んだ理由を分析する。
安田氏「そもそも仁王は2005年に発表され、発売まで12年の歳月が経過しました。そのため、国内では『仁王先輩』と呼ばれ、“ネタ”として扱われている時期もあったと認識しています。しかし、体験版を公開することで、仕掛け人である社長のシブサワが本気で作っていることが伝わり、ストーリーが生まれ、バズる結果になったのではないでしょうか」
海外でUI評価の低い日本産ゲームが、世界で勝つために必要なことは?
今回、同講演を開催するにあたって、コアな海外ゲームユーザー700人を対象に、日本産ゲームの意識調査を実施。日本ゲームの長所や短所などについて意見を聞いた。
アンケートでは、海外ユーザーにとって「日本製ゲームは操作性、ユーザーインターフェース(UI)がよくない」ということが見てとれる。この結果について、3人はどう思っているのだろうか。今後日本ゲームが世界で勝つために必要なこととあわせて、考えを聞いた。
辻本氏「たしかに、海外タイトルはリアルさを追求して、余計な情報を非表示にしているものが多いですが、ジャンルやタイトルによって、どういうところを遊んでほしいのか、そのためにはどういう情報が必要・不要なのかが変わってくると思います」
齊藤氏「UIに対する考え方の違いがあるのではないでしょうか。例えば、ドラゴンクエストは、コマンドの階層を深くすることで、初めてゲームに触れる人でも直感的にわかるようになっていると思います。反対に海外のゲームは、表示されているボタンを押すだけで機能がすぐ使えるようになっているものが多いイメージですね。とはいえ、“絶対的にこうすればいい”という答えはないのかもしれません。タイトル・バイ・タイトルで検討はすべきですが、できないことを無理してやるべきではないでしょう」
安田氏「我々もUIは改善に苦しんだ部分ですね。齊藤さんのおっしゃった通り、ゲーム文化によって考え方の違いがあるのではないでしょうか」
辻本氏「MHにはユニークな操作方法もあり、海外のFPS(一人称視点のシューティングゲーム)で慣れている人にとって、ガンナー(弓、ライトボウガン、ヘビィボウガンなどの武器を使用するプレイヤー)は操作が特に難しかったのではないでしょうか。今作では改善はしましたが、あくまでシリーズもののタイトルなので、いままでのユーザーに“プレイしやすくなった”と感じてもらうことも大事です。また、海外だけでなく、初めてプレイする人が操作しやすいか否かもしっかりと議論を重ねました」
国が異なればゲーム文化も異なる。すべての人にとって満点のUIを実現するのは難しいだろう。そのなかで、3者は今後どのようなビジョンで日本のゲームを世界に発信していくのか。
安田氏「極端な弱点については、克服していくべきだと思っています。しかし、作品の評価されている部分は変えてはいけないので、大事なところを伸ばしていきたいですね」
齊藤氏「ニーア オートマタでは、バランスを重視することで狙い通りの結果を得られたと考えています。もしニーアの次回作があれば、今作と同様に、まだまだ上を目指せる“及第点”をさらに高い“合格点”へと引き上げていきたいですね」
辻本氏「いただいた意見を受け止めつつ、例えば、UIについてももっとかみ砕いて、どこをどう変えていけばいいのか分析する必要があるでしょう。また、プレイヤーの声をもっと聴いていきたいですね」
日本製のRPGを意味する「JRPG」という言葉があるように、これまで日本のゲームは比較的ドメスティックに作られてきた。しかし、世界的に日本のゲームへの注目度は高く、国内だけを向いて作るという時代は変わってきている。
今後、各ゲームメーカーが聴くべきユーザーの声はどんどんグローバルになっていくだろう。世界中のプレイヤーに向けて作られるゲームがどのように進化していくのか、展開が楽しみだ。
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(安川幸利)