2018年9月20日、幕張メッセにて「東京ゲームショウ2018(TGS2018)」が幕を開けた。TGS2018は、41の国と地域から、668の企業と団体が出展するゲーム展示会。出展タイトル数は、なんと1568にものぼる。最新ゲーム発表や試遊コーナー、プロゲーマーたちのeスポーツ大会、そして可憐なコスプレイヤーなど、見どころ満載のイベントであるが、本稿では、初日に行われた基調講演の様子をお届けする。
基調講演に先立って、まずはコンピュータエンターテインメント協会(CESA) 会長の早川英樹氏からあいさつが行われた。
早川氏「昨今、ゲームには新たな楽しみ方が生まれています。産業としては40年以上の歴史がありますが、今なお成長を続けていると言えるでしょう。なかでも、昨今のゲーム市場を語るうえで外せないのが『eスポーツ』です」
2017年の調査では約15%だったeスポーツの認知度は、今年40%を超えた。なかなか実現しなかった「eスポーツ元年」ではあるが、ようやく日の目を見ることになったのではないだろうか。
早川氏「日本のゲーム産業の規模を考えれば、eスポーツはまだまだ伸びしろがあるでしょう。今後も期待してほしいですね」
行政連携などが進み、準備の整い始めたeスポーツ
続いて行われた基調講演のパネルディスカッションでは「eスポーツが“スポーツ"として広がるためのロードマップ」をテーマに、日本eスポーツ連合(JeSU) 会長の岡村秀樹氏、カプコン 常務執行役員 eSports統括本部長の荒木重則氏、コナミデジタルエンタテインメント『ウイニングイレブン』シリーズ 制作部長の森田直樹氏、Asian Electronic Sports Federation(AESF) 会長のケネス・フォック氏、日本サッカー協会(JFA) 副会長の岩上和道氏の5人が意見を交わした。
まずはeスポーツの現状や各社、各団体の取り組み内容の紹介から始まった。
岡村氏「日本のeスポーツは、海外と比較すると大きく出遅れています。グローバルの市場規模が720億円であることに対して、日本は5億円未満。視聴者数も世界の3.3億人に対して、382.6万人程度です。ただし、環境は整いつつあると感じています。昨年に比べて認知度や視聴者数が劇的に増加しているだけでなく、家庭用ゲームのネットワーク化やスマホゲームの拡大、法対応、行政連携などが進み、透明性の高いマーケット組成が可能になってきました」
日本eスポーツ協会(JeSPA)、e-sports促進機構、日本eスポーツ連盟(JeSF)の3団体が統合して2018年2月に誕生したJeSU。特に岡村氏の話の中にあった「法対応や行政連携」について、JeSUの役割は大きいだろう。eスポーツの土台部分からサポートしてくれる団体があることで、参加者も動きやすくなり、認知度向上という結果が生まれたのではないだろうか。
荒木氏「『ストリートファイター』では、カプコンプロツアーやカプコンカップなど、さまざまな大会を世界で展開してきました。また、新しい取り組みとして、1対1の対戦だけでなく、eスポーツイベントのRAGEでは団体戦を実施。3人のチームで団体戦を行うことによって、ドラマ性が生まれたと思います。そして、全国各地に我々が出向いて、金の卵を探しに行くRookie's Caravanを開催しました」
森田氏「コナミデジタルエンターテインメントが手掛けるeスポーツ事業は大きく3つ。サッカー、遊戯王、野球です。なかでも『ウイニングイレブン』シリーズは累計1億本を突破。昨年は2対2のコミュニティ大会『PES LEAGUE』の開催をサポートしました」
フォック氏「eスポーツはジャカルタで行われたアジア競技大会で、初めてデモンストレーション競技として採用されました。ゲームでのアスリートが、伝統的なスポーツと同様に自分の国を代表するようになったのです。これは非常に重要なステップだと思います。またこれからは、eスポーツの発展のために、教育プログラムの構築やアジアにある公式eスポーツ団体の支援を行っていきたいですね」
岩上氏「我々は、すべての人がサッカーを楽しめる環境を作りたいと考えています。そのため、ゲームをきっかけにサッカーを好きになるという人が増えるよう、eスポーツにも力を入れていきます。eスポーツにおいても、サッカーと同様に普及・育成・強化に取り組んでいく予定です」
プレイヤーの質と量の拡大が喫緊の課題
続いて、eスポーツにおいて課題だと考えられる5つのトピックが提示された。どの課題もeスポーツが発展していくためには解決しなければならないものだが、講演の時間が限られているため、この5つのなかでも特に重要な課題だと考えているものについて、2~3回「〇」の札を掲げてもらった。
1つめの「プレイヤーの質と量の拡大」については、なんと参加者全員が札を掲げた。続いて「視聴者やファンの拡大」については荒木氏、フォック氏、岩上氏の3人が重要だと考えており、「eスポーツ向けタイトルの充実」は森田氏1人。「興行としての魅力向上」はフォック氏と岩上氏、そして「日本のeスポーツ業界の国際競争力の向上」は岡村氏が札を挙げた。
そこで、「プレイヤーの質と量の拡大」について、それぞれが考えを述べることに。
岡村氏「もちろん5つとも重要なのですが、最も必要なのがプレイヤーの育成でしょう。日本では、オフラインでの対戦機会が多くありません。JeSU視点では、プレイヤーの切磋琢磨できる環境を作ることが喫緊の課題ですね。この課題を解決できて初めて、ファンの醸成や興行化などにつながっていくのではないでしょうか」
荒木氏「ストリートファイターでは、30年の歴史の中で個性あるプレイヤーが多く生まれてきました。ただし、プレイヤーの量については、今後も獲得していかなければなりません。そのためには、グラスルーツ(草の根)の取り組みが大事だと考えています。いま我々が行っているRookie's Caravanで次のスターを発掘したいですね」
フォック氏「岡村氏や荒木氏の話すように、グラスルーツの活動によってプレイヤーの育つ環境を作ることが大事だと考えています。また、それと同時に教育に入り込むことも重要。学生リーグなどの発足がeスポーツ人口の拡大につながると思います」
岡村氏「ええ、具体的には、法令と照らし合わせてグレーであってはならないので、ホワイトな練習施設の拡充が必要だと考えています。スキルを磨ける環境がないと、スター選手は生まれません。また、地方自治体や中学、高校などの部活動として容認されていくための環境づくりに力を入れていきたいと思います。さらに、海外の有力選手と競い合うことも大事でしょう」
森田氏「選手ファーストで考えていくことが大事だと思います。岡村会長がおっしゃったように、環境整備などを通じて、選手がモチベーションを持ち続けられるようにすることが我々の課題と言えるでしょう」
岩上氏「我々にとって理想的なことはeスポーツもできて、サッカーもできる選手。ただし、すぐには実現できないと思うので、まずはウイイレの上手な人をサッカー界でも育てられればいいなと。また、フットサルとウイイレを同じメンバーで行い、合計点で勝敗を競うような大会ができればおもしろいなと考えています」
日本のeスポーツの歴史はまだ始まったばかり。社会の理解を深めながら、草の根が広がっていけるよう、着実な環境整備が求められている。
(安川幸利)