捺染により刻まれたTOTOロゴ。左下は筆者の手によるもの

施釉のあと、捺染(なっせん)体験もさせてもらった。捺染も聞き慣れない言葉だが、これはTOTOのロゴを表面に染める作業。TOTOロゴをかたどったフィルムを置き、その上からインクを塗り込む。原理は単純だが、これも失敗するとムラになってしまう。幸い筆者はうまく捺染することができた。

さて、この選手権の目的は、世界各国のスタッフの技能向上が第一義だが、もうひとつ隠れたねらいがある。それは、日本を楽しんでもらうこと。事実、選手権に参加したベトナムのグエン・ドゥック・アンさんに話をうかがえたが、「技能向上も大切ですが、何よりも日本に来られるというのが最大の楽しみでした」と笑みをこぼす。

各国の成績優秀者がこの選手権に招待されると前述したが、つまりそういうことだ。研修だけでなく、がんばったスタッフに対して報いるという意味合いもある。こうすることで、選にもれたスタッフのモチベーションは上がるし、選手権に参加した各国のスタッフは、TOTOグループの一員として結束を深められる。選手権のあと、多くのタクシーが工場の玄関口にズラッと並んでいたが、皆で懇親会に向かうそうだ。各国から集まった彼ら彼女らにとって、きっと有意義な一晩になったことだろう。

不思議なカタチのミュージアム

選手権の翌日、本社・小倉第一工場の敷地南端に位置する、TOTOミュージアム見学に案内された。正門から入ったときに気になっていたのだが、なんとも奇抜な建物だ。宇宙船のよう、と表現すればよいのか……。担当者によると、ある意味、ランドマーク的な存在になっているという。

展示物に関してはあまり詳報しないが、なぜこのようなミュージアムを建てたのか考えてみた。それは地域貢献にあると思う。たとえば地元学校の生徒たちによる工場見学。工場で、どのように衛生陶器が作られるのか理解を深めたあと、このミュージアムで歴史や科学を学ぶ。もちろん、地元だけではなく、遠方からの工場見学もありだろう。何よりも、ものづくりの大切さを感じ取ってもうらうことができる。

  • 左上:奇抜なカタチをしたTOTOミュージアム。右上:国産初の水洗便器。こうした歴史的なものも展示されている。左下:東京オリンピックのエンブレムのデザイナーがデザインした便器。右下:便器がシートになった3輪バイク。もし、街で遭遇したら、笑顔がこぼれるだろう。もちろん、非売品

何十年か前、衛生陶器のテレビCMは局に断られていたと聞いたことがある。だが、今や人の生活に欠かせないものとして、テレビCMの放映はもちろん、各地にショールームもできている。今でも憶えているが「おしりだって、洗ってほしい」のセリフのCMのインパクトが、転機になったのではないかと思う。