過日開催されたAppleのスペシャルイベント"Let's take a field trip."終了後、シカゴ市内にあるフラッグシップのApple Store、「Apple Michigan Avenue」で無料の学習講座「Today at Apple」のセッション「Exclusive Teacher Tuesdays:Video Storytelling with Clips」が実施された。

「Teacher Tuesdays」は学校の教員向けに実施されるもので、授業にテクノロジーを導入する新しい方法を学べる。この日は"Exclusive"と題されるだけあって、ちょっと特別なノリでの開催となった。

  • セッション冒頭、AppleのシニアバイスプレジデントであるAngela Ahrendtsから挨拶が

冒頭、AppleのシニアバイスプレジデントであるAngela Ahrendtsから挨拶があった。彼女はAppleのリテール担当で、Today at Appleプログラムの陣頭指揮を執っている。

  • Apple Distinguished Educatorでもある、New Rochelle High Schoolの教諭、Anthony Stirpeさん

セッションの内容は、そのタイトルにあるよう、無料のiOSアプリ「Clips」でビデオ編集を行って物語を紡ごうというものだった。ゲストスピーカーとして登壇としたニューヨーク州にある高校、New Rochelle High Schoolの教諭、Anthony Stirpeさんから、Clipsの概要、授業での実践が語られた。そこでは、Clipsを使うことで、学生たちの「声」が簡単に生き生きとした「物語」へと転化されることが明かされた。Clipsには「ライブタイトル」という機能があり、撮影中にiPhoneに向かって話した言葉がアニメーションテキストに変換されるのだ。この機能を使えば、字幕やタイトルが瞬時に入れられる。

  • 自己紹介も得意のClipsを使って

Apple Distinguished EducatorでもあるStirpe先生は国語(もちろん英語)の担当で、教師生活は16年になる。これまでは生徒に短い小説や詩の朗読をさせていたのだが、iPadの導入で方法論がドラスティックに変化したという。他人の作ったテキストを読み上げるのではなく、自分たちのストーリーを語っていくというわけだ。これはつまり、テキストに「実体」を持たせることにほかならない。古典文学から学ぶことは多いが、そこに学生たちが「リアリティ」を感じとるのはなかなか難しい。そこで、Stirpe先生は学生自身の言葉で、今の自分を語らせようと考えたのだ。それはすなわち、自己分析へとつながっていく。

  • 会場に集まった先生方にiPadが配られ、実践講座へと突入

Stirpe先生のトークセッションののち、会場に集まった先生方にiPadが配られ、実践講座が始まる。この時、ちょっと驚いた。いわゆるグループセッションの形式をとっているのだが、その場に座っている先生を本当にテキトーにグループ分けしていたのだ。彼ら/彼女らも、仕事の延長で来場してるので、友人と遊びに来る感覚でないのは確かだが、その場で偶々会った人と同じグループに押し込むというのは、日本のToday at Appleのセッションではまず見かけない。

Angela Ahrendts曰く、Today at Appleは「現代版の公共広場」である。今回、Apple Michigan Avenue内でセッションが行われた空間をAppleは「フォーラム」と呼んでいる。フォーラムは、古代ローマの都市で、元老院、神殿などの公共施設がおかれたオープンスペースを指すのだが、筆者が目の当たりにしたのはまさに、公共空間におけるフォーラムであり、古代ギリシアのポリスにおける「アゴラ」であった。偶々会った人たちがグループとなって共同作業に着手した時、これが発展してコミュニティが生まれると予感させるものがあったのである。社会の分断を嘆く声が相次ぐ中、ここからまた新たな連帯が生まれるのではないか、Apple Storeのフォーラムは地域社会の紐帯となっていくのではないかといった期待を寄せたくなるのは、筆者だけではないはずだ。

グループセッションでは、Clipsで使うための素材を撮影する際にはカメラにグリッドを表示させ、三分割法を使おうなど、日本のToday at Appleのセッションでもよく聞かれるテクニックなどが紹介され、各々制作を進め、一本のクリップとして完成させた。

  • ファンとセルフィーをキメるCEOのTim Cook

その間、ストアに歓声が上がった瞬間があったのだが、気づくと、シニアバイスプレジデントのPhil Schiller、CEOのTim Cookら姿があった。これもまた日本ではまずApple役員に遭遇する機会はないが、ここぞとばかりに、来場者はサインやセルフィーをねだったりしていた。御覧の通り、Cookも上機嫌でファンのリクエストに応えていたのだが、とても印象的なワンシーンだった。

  • 写真には全く写っていないが、前方でしゃがみこんでいる三人がiPadでGarageBandを演奏

セッションはこの後、ストアのチームによる、GarageBandを使ったジャムセッションに突入。GarageBandといえば、Mac/iOS用の音楽制作アプリで、あまり演奏用のイメージはないのだが、こういったリアルタイムのパフォーマンスにも使えるというのは意外な感じがした。

  • Towkioのパフォーマンス

最後はスペシャルイベントの会場となった、シカゴ市内のLane Technical College Prep High Schoolの卒業生、ラッパーのTowkioのパフォーマンスで締めくくられた。教職員向けのセッションのはずなのに、最後はパーティーで終わるというのが、なんともユニークというか、Appleらしいと言うか。

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日本では間もなく、東京・新宿に「Apple 新宿」がオープンする。本稿執筆時では、バリケードに覆われていて、中を覗くことはできなかったが、新ストアは「街を訪れた人がふらりと集う広場」となるとのことで、このところAppleが各都市の旗艦店で進めてきたコンセプトを踏襲する形になるのは間違いない。筆者がMichigan Avenueで見たのと同じ光景が広がるというのが理想の展開なのだが。

  • 4月5日時点でのApple 新宿の外観。「周辺に緑」というのはMichigan AvenueやUnion Squareと同じスタイルだ。おそらく、店内にも鉢に植えられた樹木が置かれると思われる

果たして、シカゴのApple Michigan AvenueやサンフランシスコのApple Union Squareのようなフォーラムが設置されるのか、コミュニティスペースとしてどんな役割を果たすのか、こちらも注目いただきたい。Apple 新宿のオープンは4月7日、午前10時だ。