農家の反応はどうだろうか。

7年前に脱サラし就農した若手いちご農家の一人である松尾氏は「ベテラン農家のデータと自分のデータを比較できるのがいいですね」と高く評価する。

いちご農家 松尾康司氏

「『あまおう』は生育に応じた施肥のタイミングや日照時間の管理など土壌の状況や天候に合わせて適宜対応することで甘くて美味しいものに育ちます。そのためには、日照時間が足りなければ夜間に照明をあてて疑似的に日照時間を増やしたり、EC(土壌の窒素濃度)が低ければ液体肥料を流すといった作業が必要です。ところがこれらの実施タイミングは7年経った今でも悩みの種でした。それがe-kakashiでは日射量やECをスマートフォンや自宅のパソコンで確認できますし、収量が多いベテラン農家の同じデータも確認できるので、自分のデータと比較していろいろな質問ができるようになりました。例えばベテラン農家に比べ自分のハウスの方がCO2濃度が低かった場合『CO2濃度が低いとどんな影響があるのか』であったり『CO2濃度を上げるためにしていることは何か』といったことをベテラン農家に質問することができるようになります。特に新規就農者の場合、収量や品質を上げるために誰に何を質問したらいいのかも分からず一人で悩んでしまう人も多いと思うので、ベテラン農家と会話をするきっかけ作りに役立っていますね」(松尾氏)

  • JA営農指導員と一緒にデータを確認することも

新規就農者受け入れに注力している自治体が増えている中、受け入れ後の体制が整っておらず新規就農者が孤立し去ってしまうケースもあるという。そんな中、宗像市のいちご就農者においてその心配はないようである。

ワークショップで情報共有

2018年2月に開催されたワークショップには前田氏と竹井氏、そして松尾氏をはじめセンサーを設置しているいちご農家が参加。各センサーで取得したデータを様々な軸でベテラン農家と若手農家で比較し、参加者各人が気づきを得る機会となっている。松尾氏は今回のワークショップで積算温度について気づきがあったという。

「『あまおう』は積算温度が600度くらいで完熟し収穫できるようになりますが、収量が多い方は積算温度も積算地温も平均より少し高いことが分かりました。そうなると展葉(葉が出ること)も早くなるのでそれが自分の収量と差がつく要因かな、といったことを考えさせられました」(松尾氏)

こうした気づきがノウハウとなり若手農家の栽培技術を向上させていくのだろう。

宗像市は今回のe-kakashi導入費用全額を、総務省の「ICTまち・ひと・しごと創生推進事業」の補助金で賄っている。

「農業振興施策としてICT導入は有効な手段の一つです。しかしどの自治体もそうだと思いますが、財政面から見てICTは補助金がなければなかなか導入できません。ましてやJAや農家個人で導入することも現実的ではありません。ですから我々自治体とJAが連携し、自治体が補助金面からJAが技術面から農家のみなさんを支援することが大切だと考えています」(前田氏)

「あまおう」は12月から5月までが収穫時期のため、同市では取得したデータと収量を紐づけて分析できるのは今年の5月以降となる。その分析データを来年の「あまおう」栽培に役立てたいと前田氏は意気込む。