他社アプリに対する強みは「ホームズくんと計測」

ARに関する直近のニュースとしては、昨年9月にiPhoneアプリ「LIFULL HOME’S」に搭載した機能「ARお部屋計測」をリリースしたことがある。同機能は、iPhoneのカメラをかざすだけで、簡単にお部屋のサイズが計ることができるもの。

「LIFULL HOME’S」は、GPS機能を利用して物件見学中に撮影した写真を部屋ごとに自動で分類して保存する「見学メモ」という機能を提供しているが、「ARお部屋計測」は同機能の追加機能となる。

住まいを探す場合、家具などを配置するために、部屋のサイズを計測することは必須だが、慣れていない人は内覧にきた際にメジャーを忘れてしまうこともある。そんな時、同アプリをスマートフォンにインストールしておけば、計測が可能だ。

計測の際は、同社のキャラクターであるホームズくんが現れて画面上を走り、室内を1cm単位で採寸する。LIFULL HOME'S事業本部 新UX開発部 デバイスソリューションユニット ディレクション・デザイングループ 大嶋祐子氏は、「他社もアプリで距離を測ることができる機能を提供していますが、当社の場合、ホームズくんと一緒に距離を測ることで、住まい探しを楽しむことができます」と話す。

  • LIFULL LIFULL HOME'S事業本部 新UX開発部 デバイスソリューションユニット ディレクション・デザイングループ 大嶋祐子氏

「動くホームズくんがかわいい」とユーザーにも好評とのことだが、3Dのホームズくんの開発には苦労したそうだ。しかし、「ユーザーの方の声を聞くことで、苦労も忘れます」と大嶋氏。他社も同様のアプリを出しており、長い目で見ると、「ホームズくんが動くアプリ」という特徴は同社のブランディングにも一役買うと言えるだろう。

昨年、ゲーム「ポケモンGO」によって、ARの認知度が一気に高まったが、ARという言葉を知らない人も「ポケモンGOに搭載されている機能」というと、すぐにわかってもらえるそうで、VRに比べてARはとっつきやすいようだ。

  • 「LIFULL HOME’S」の画面。ホームズくんと一緒に室内の計測が行える

チャレンジ精神がAR/VRの活用を促進

LIFULLは、こうしたARやVRの取り組みを自発的なプロジェクトで行っているという。これには、新しいことにチャレンジすることを推奨する社風も関係しているようだ。

「ARお部屋計測」は、AppleのARに対応したアプリを開発するためのフレームワーク「ARKit」を用いて開発されているが、その前は、GoogleのAR技術を用いて開発を行っていた。GoogleのAR技術だが、今ではサポートを終了している。

しかし、大嶋氏は「技術はなくなってしまっても、その技術を用いた開発で培った経験はムダにならない」と語る。同社では、新たなことに挑戦し失敗したとしても、そこから学んだことがあるのでかまわないとする文化があるそうだ。「失敗したらどうしよう」と迷うくらいなら、早期に着手してそのアドバンテージを得ようというわけだ。

加えて、大嶋氏の部署では、企画、デザイン、エンジニアが在籍しているため、アイデアの創出とアプリの開発を社内で回せることも強みとなっている。一部の業務を他社に回すとなると、どうしてもタイムラグが生じたり、意思の疎通を図ることが難しかったりする。

ちなみに、同社では、事前に申請することで、クリエイターが業務時間の10%を関心のある分野のサービス開発にあてることが可能な制度があり、こうした制度も新規事業の創出に役立っていると言えよう。

各社それぞれ社内の事情はあるだろうが、ARやVRを活用することによって、これまでとは違う顧客体験を作り出すことができるようだ。少しでも自社のビジネスにメリットがあると思われるなら、一考の余地はあるのではないだろうか。