東芝が白物家電を中国家電メーカーのマイディアグループに売却したのは2016年の話だが、それに続いて今度はテレビ事業を、同じく中国メーカーのハイセンスに売却すると決めた。経営危機に陥ったシャープは昨年来、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業傘下で再建に勤しむなど、ここ数年、日本の家電メーカーを取り巻く環境は厳しい。

その中で日立は、早くから重電分野や社会インフラ事業に舵を切って経営の安定基盤を築いたことで「家電メーカーの優等生」として高い評価を受けてきた。そうした「選択と集中」を行いつつも家電部門を残した日立だが、国内家電市場の行く末には危機感を抱いている。

少子高齢化による人口減で市場が徐々に縮小する上、外資やベンチャーが次々と新機軸の製品を投入しており、コアな先進層から低価格重視層まで、幅広い分野で市場環境が変化しつつあるからだ。そうした状況から、日立は4月に組織改編で注力4分野ごとに事業を括り直し、それぞれ成長戦略の策定と投資を検討する方針を打ち出している。

家電製品を扱う生活・エコシステム事業は、鉄道やアーバンソリューション、自動車部品などとともに「アーバン」事業に組み込まれた。4月の改編以来初めて、日立 生活・エコシステム事業統括本部 統括本部長の中村 晃一郎氏がこのほど会見し、今後の家電事業戦略を説明した。

生活・エコシステム事業統括本部の中村 晃一郎統括本部長と、事業スローガンの「360°ハピネス」

家電で社会イノベーションを起こす

生活・エコシステム事業統括本部は、家電の開発、空調機器の販売・サービスを担当する日立アプライアンスと、家電の販売・サービスを担当する日立コンシューマ・マーケティングの2社を統括する。日立全体の2016年度売上高は9兆1622億円だが、生活・エコシステム分野の売上高はそのうち6%にとどまる。

「売上構成比では6%だが、家電分野は一般顧客に対して日立のブランドを想起させる重要な役割を背負っており、責任が大きい。しかし、収益性が全社平均より低いという弱点がある。2017年度の営業利益率は4.4%と前年比0.4ポイントの改善を見込むが、さらに上げていきたい。そのためには、統括本部の下でアプライアンスとコンシューマ・マーケが一体となる必要があるそしてもう一つ、『社会イノベーション事業』だ」(中村氏)

注力4事業分野の構成

2016年度売上高の事業セグメント別構成比

従来、家電事業は個人家庭への製品の売り切りであり、他の事業と比較すれば「社会イノベーション」というキーワードとは遠い位置にあった。

「これまでの家電事業は、高性能・高機能な製品で顧客に利便性を提供することに価値を見出してきたが、このあり方を変えていきたい。ハードに加えてサービスやプラットフォームを提供することで、顧客の生活シーン全体における新しい価値を生み出していく」(同)

それが今回発表した「人生100年時代における日立の新たなスマートライフ事業の創造」と題する新戦略だ。

日本人の平均寿命は男女ともに80歳を超えて世界一の長寿大国なった。人生100年時代の到来は、年齢や家族構成、健康状態など、人々の生活環境の多様化をもたらしている。そこにはさまざまなニーズや課題が存在しており、日立はデジタルの力で一人一人の生活に向き合い、それぞれに適した新たなソリューションを提供していく、というものである。

中村氏は、注力分野を「洗濯機」などの紋切り型の言い回しではなく、「洗う」「冷やす」「調理する」「安心して使う」「見守る」という言い方で説明した。

新たなスマートライフ事業として取り組む5つの分野

例えば「洗う」では、「ユーザーが望むことの本質は洗濯機の性能ではない」(中村氏)として、本来の価値を「着たい服を着たい時にキレイな状態で着れること。洗うという行為は、そのための段取りでしかない」と説明する。

もちろん、日立もただ単に話し言葉で茶を濁すわけではない。