ソフトバンクグループの孫正義社長は、6日に行われた2018年度3月期第2四半期決算説明会において、前日報道された同社傘下の米スプリント(以下、スプリント)とTモバイルUS(以下、Tモバイル)の合併交渉停止について「今は迷いが終わり晴れやかな気持ち」であると述べた。交渉停止の理由は、スプリントの経営権を維持することにより「グループ全体の戦略的な将来像を描く」目的があったという。

ソフトバンクグループ 代表取締役会長兼社長 孫正義氏

「経営権を手放してまで合併するべきではない」

米国携帯電話市場第3位のTモバイルと、第4位のスプリントの合併により、同1位2位のAT&T、ベライゾンに匹敵する顧客層を持つことは、同社がスプリントを買収する時の基本戦略であったが、当時は米国政府の許可が下りず断念を余儀なくされた。今回は政権も変わり「望みを持って交渉に入った」(孫氏、以下同)が、交渉の過程において合併後の会社に対してソフトバンクが経営権を取れる形にはならない方向性が明確になった。

米スプリントとTモバイルUSの合併交渉停止を正式に発表

同社はこの10日前に役員会を行い「スプリントが我々にとって戦略的に重要な拠点であり、経営権を手放してまで合併するべきではない」という意見で合意。11月4日夜に双方の当事者8名が集まり、正式に合併交渉を終わらせる形に至ったという。

経営権にこだわった理由は、ソフトバンクにとって今後のいかなる事業を伸ばして行くにおいても、情報インフラは欠かすことのできない根幹的なものであるとの考えからだ。昨年買収したARMが今後20年間で1兆個のIoT向けチップを出荷すると予想する中、米国はその最も多くを使用すると考えられると孫氏は言う。

「人間同士のユーザーをつなぐことについては、AT&Tとベライゾンが圧倒的に先行しており、これを抜くことは簡単ではない。しかしIoTを考えると、我々はもしかしたら、ARMという会社を持っているがゆえに、俄然有利な立場にいるのではないか」

スプリントの経営権を維持することで、ARMやOneWebなど、グループ企業とのシナジー効果を狙う

かつてソフトバンクがボーダフォンジャパンを買収した際、「携帯電話は音声通話でなくモバイルインターネットのためのインフラであり、ソフトバンクの情報革命のために欠かせないものである」とした孫氏の発言は、ほとんど理解されなかったという。しかし今日、我々はそれを日常のものとして理解している。孫氏は、IoTでも同じことが、もっと大きな規模で起こるという。

「人が人と通信する以上に、モノとモノが、モノと人がつながり合うIoTの時代。そのインフラのことを考えると、世界で最も大きく、最もリッチなマーケットである米国を失うことは、10年後に大変後悔する。だから、たとえ株価が一時的に下がっても、私は晴れやかな気持ちで、心の底から正しいと思ってこの判断をするに至った」

スプリントの株式を、ルール上保有できる上限の85%まで買い進めた

スプリントの決算を見ると、ソフトバンクグループ傘下に入って以降、経費は下がりEBITDAは倍増。今年は上半期で2,000億円の営業利益を上げるまでに至った。その理由として孫氏は、通信ネットワークのインフラが他社に追いつくところまで伸びてきていることを挙げ、さらにここから投資を行って一気に追い越すところまでいけると見込んでいるという。ただ同時に、「3~4年は苦しい戦いをすることになる」との見通しも示した。