10月3日より幕張メッセで開催している「CEATEC JAPAN 2017」で、ファナック 代表取締役会長 兼 CEOの稲葉 善治氏が講演。製造工場のIoT、AI導入の重要性とともに、発表したばかりの造業向けIoTオープンプラットフォーム「FIELD system」について解説した。
ファナックは工作機械用CNC装置や多関節ロボットのメーカーで、世界でもトップクラスのロボットメーカーのひとつ。現在2つの工場で月産6000~7000台の工作機械やロボットを生産しているが、「それでも世界における需要が伸びていて(工場が)足りない」(稲葉氏)。そのため、来年度末までに第3工場を設立して月産1万1000台を目指しているという。
ファナックの自社工場内でも、同社が製造した工作機械やロボットが約3600台稼働。稲葉氏は「ファナックのスローガンは『壊れない』『壊れる前に知らせる』『壊れてもすぐ直せる』。これが、工場にとって一番重要な『止めない』ことにつながっている」と話す。
マシンの最適化はネットワークから
技術革新によってこの数十年、工場はコストダウンなどの最適化を進めてきたものの、稲葉氏によれば「限界に来ている」という。例えば省人化を目指したスタンドアローンで動く機器の性能向上などについても限界に近いそうだ。そこでファナックがフォーカスしたポイントは「工作機械やロボットをネットワークでつなげることでデータを収集し、システムや工場全体での最適化」だという。そこには当然ながら、IoTやAIの急激な進化が関係している。
稲葉氏はAIについて「"熟練の技"をデジタル化できる技術」として注目。少子化によって労働者の確保が難しくなり、熟練工の技術伝承が社会問題化しているが、これをAIで解決できるというのがファナックの目算だ。例えば、最新の工作機械にはカメラセンサー以外に「振動」や「臭い」の検知が可能なセンサーも搭載。これらのデータを元にAIが最適な加工条件を見つけ出し、熟練工と同じレベルの作業を自動で行なえるようになるという。
またAIは、人間が技術を覚えるよりも早く学習が可能で、乱雑に積まれた物体から特定の物体を取り出す作業では、熟練者が2日程度かかる学習時間が、8時間ほどで熟練者並にチューニングでき、さらに複数台のロボットを並列に学習させることで、学習スピードをアップさせられる。理論的には4台のロボットが同時に学習を始めれば、8時間の学習時間を2時間まで短縮できることになると稲葉氏は話す。
ここでポイントとなるのが、こういった学習や判断をクラウドで処理せず、エッジで処理すること。工作機器やロボット1台であれば問題ないが、工場全体のデータ量となればかなりの量となる。つまり、それをクラウドへ送信・処理するには大容量の高速回線やストレージが必要となってしまうわけだ。
それに加えて問題となるのが「レイテンシー」。稲葉氏は「何か異常を検知し、それをクラウド側に送って判断するのに数秒かかってしまったら、工作機械の刃物がお釈迦になってしまうかもしれない」と話し、瞬時の判断の遅れが工場を止めてしまい、生産性の低下を招くと指摘する。
このエッジ処理の考え方は、セキュリティの懸念も同時に解決できる。可能な限り多くの情報をエッジ側で処理してクラウドには最低限のデータを送る方法であれば、攻撃者の目に触れる機会が減るベストな状態というわけだ。