もともと日本の携帯電話は、個人向けの製品でありつつも「携帯電話事業者」に販売する「B2B製品」としての意味合いが強い。携帯電話事業者との強いパイプを生かし、彼らのサービスや戦略に紐づいた良いものを作れば、それだけ受注が増えて販売も伸びた。
しかし、それも過去のことだ。スマートフォンが端末の中心になり、携帯電話事業者のサービスと端末の関係が希薄になると、海外勢との競争が激化した。国内スマートフォン シェアの5割をiPhoneが占める現状、ハイエンド端末のパイは減った。Android陣営の中でも、ハイエンド帯、低価格帯の双方で海外勢がライバルとなっている。
PCにおいて、そしてスマートフォンにおいても、富士通の課題は共通している。広く多くの国で販売する企業と比較して「数」が絶対的に劣るため、「価格競争力やパーツの調達力で不利になる」ということだ。
特にこの問題は、低価格製品に強く、直接的に影響してくる。しかもスマホでは、単なる安売りではなく、価格競争力がある分を品質に回して「安価だがクオリティが高い」ものにするパターンが増えている。そうした戦い方の中において、日本国内を中心にした事業戦略では、数量が稼げず、不利な点がばかりが目に留まる。
もちろん、規模の経済の話だけではない。過去には「中国などで生産する」という選択だけでコストを抑えられた。だが今は、人件費の高騰や輸送のタイムラグとコストまで考えると、「限定した数量であれば、消費地の近くで生産するほうが有利」な場合もある。特にPC事業の場合、そうした点を重視して「国内生産」のところも増えており、富士通もその考え方を採っている。
強みがあるうちに売る、という決断
しかし、スマートフォンについては、現状、部材調達力が価格と品質に与える影響が大きく、数量を出せるメーカーの有利がなかなか揺るがない。そこで、特別なパーツを調達できたり、デザインで特徴を出したりしやすい「とがったブランド力」を持つ企業だけが生き残った。ソニー・シャープ・京セラという3社の顔触れを見れば、おわかりいただけるのではないだろうか。
富士通は、PC事業と携帯電話事業、ともに売却交渉を進めている。どちらも強みがないわけではない。PCの生産力は高く評価できるし、スマートフォンにおいて「ARROWS」は国内において名の通ったブランドだ。セキュリティ保護やセンサーの活用など、得意分野もある。これらの点に魅力を感じる企業は確実に存在する。
しかし逆にいえば、「数量」「圧倒的なブランド力」という差別化要因を持てておらず、大きな改善を見込めないのもまた事実だろう。となると、強みがあるうちに売却したほうが利益につながる。売却するといっても、株式の一部を残してブランドを維持すれば、「富士通としての個人向け端末市場への道」が完全に途切れるわけではない。
富士通としては、この時期がある意味で「最後の売り時」なのである。