"ひと皮剥けた"音と操作性
試聴はステンレススチールモデルを中心に、2.5mmバランスケーブルに換装した開放型ヘッドホン「AK T1p」との組み合わせで実施した。楽曲は宇多田ヒカルのアルバム「Fantome」(FLAC 96kHz/24bit)の収録曲を中心としたが、Josep Colomの「Mozart & Chopin - Dialogues」(DSD 11.2MHz)もチョイスしている。
A&ultima SP1000を手にとると、400g近くあるだけにさすがの重量感。しかしディスプレイが5インチということもあり、それほど違和感はない。外観に比しての重さという点では、前代AK380のほうが上回るかもしれない。ベゼルレスのため、目に入る金属部分が減ったことも心理的に影響しているのだろう。
操作性は明らかに向上している。高性能8コアCPUを採用したこともあるだろうが、UIの見直しによる効果が大きいのだ。画面中央へ向かって左端をフリックするとメニュー、右端をフリックすると再生リスト、上端が通知で下端が再生履歴と主要な操作を共通化するなど、UI全体に一貫性がある。ただ単にCPUのパワーでクイックレスポンスを目指しました、という以上の作り込みが感じられる。
ユーザー目線という点では、microSDカードスロットが上部へ移動したことも指摘しておきたい。これによりケースを取り外すことなくmicroSDカードを抜き差しできるようになり、よりスピーディーに楽曲ライブラリを入れ替えられるようになった。
肝心の音だが、前世代機からの進化は確かだ。ヘッドホンリスニングのため脳内定位とはなるが、宇多田ヒカルの「道」は彼女の声と楽器の位置関係が明瞭で見通しがよく、それぞれの輪郭がはっきりとしている。200Fsというフェムト秒 (1,000兆分の1秒)クラスの精度を持つVCXOクロックは前代AK380と同等だが、新しいDACチップ「VERITA AK4497EQ」の恩恵によるものか、音の鮮度という点ではひと皮剥けた感がある。
全体的な傾向としてはやや高域よりのキャラクターだが、低域もレスポンスに優れ量感がある。ピアノのように音域が広い楽器では、持続音や減衰音、アタック音までそつなくこなすだけでなく、各帯域のコントラストまで細やかに描いてみせる。
第4世代を迎えたAstell&Kern「A&ultima」セグメントの初号機にしてフラッグシップモデルは、高い完成度とさらなる可能性をも感じさせた。他のセグメントにどのような製品を投入するのか、期待しよう。