いくつも待ち受けるハードル

ただ政治的な面や競合との買収・合併提案合戦に勝利したとしても、別のハードルがある。代表的なものが買収資金で、現在のT-Mobile USAの時価総額は550億ドル近辺と2013-2014年当時の合併交渉を続けていた当時と比べて2倍近くまで跳ね上がっており、ソフトバンクがSprint (Sprint-Nextel)を買収した200億ドル強の金額と比べても非常に高額だ。

おそらくDeutsche TelekomからT-Mobile USAの株式の一部を買い付け、Deutsche Telekomがマイノリティなステークホルダーになる一方、Sprintとソフトバンクグループで過半数の株式を保持して連結に組み入れる形での提案になるのではないだろうか。このようにT-Mobile USAを傘下に組み入れたとしても、加入者シェアではようやくVerizon WirelessやAT&Tに並ぶという水準で、決して有利なスタートではない。今後数年かけての競争のスタートラインに立ったばかりの段階だ。

T-Mobile USA株価の推移。2013-2014年当時と比較しても現状の時価総額は倍近い水準にある。米株式市場全体の高値傾向とT-Mobile自身の業績向上が背景にある(出典: Google)

5G整備の巨額投資もばかにならない。5G NR (Next Radio)では5GHzを超える高い周波数帯の電波をCA (キャリアアグリゲーション)で組み込み、高い通信速度を確保している。こうした電波は直進性が非常に強く、従来と比較してスモールセルでのカバレッジが重要となる。つまり用地確保や機器の配置、恒常的に行われるメンテナンスなど、より資金がかさむ可能性があるということだ。

一方で5Gは将来的なセンサーネットワークや自動運転制御など、さまざまなインフラでの活用が見込まれる分野であり、この分野への食い込みはソフトバンクグループにとっても米国での大きなビジネスチャンスとなり、是が非でも獲りにいきたいと考えているだろう。過去2年ほど、孫氏は決算会見でのSprintの業績報告についてコスト削減による経営効率化の話題のみに触れていたが、今年5月10日に行われた会見では皆が驚くほどSprintでの5G投資やネットワーク状況改善を饒舌に解説していた。Sprintの現状やこれからについて、すべてはこの同氏のモチベーションの高さが物語っているのかもしれない。

Sprintのネットワーク状況を改善する施策について、決算会見の場で長い時間をとって解説する孫氏

スモールセルを拡充するツールの活用法について解説を行う

特に屋内やオフィスビルの窓際に設置されるMagic Boxは屋内外の両方をカバレッジにする特徴を持っており、このネットワーク改善策の大きな鍵になるという

Magic Boxの設置例

これら施策を用いて米国でも特にネットワーク上のカバレッジで鬼門となっているニューヨークのマンハッタン等での試験結果と競合との比較

Qualcommとの提携によるB41 (2.5GHz)バンドでの5G (NR含む)対応について言及する孫氏。なお、5G NRとしては比較的周波数が低いバンドであり、特にカバレッジ拡大に効果を発揮するという