リターンの種類も様々で、映画やアニメにおいては、エンドロールへの名前記載や監督、キャストのサイン入り台本、エキストラでの参加権、試写会への招待といった、他では得られないモノや体験を特典としているケースが主流だ。

お礼を何にするかも大事な戦略だそうです

『この世界の片隅に』はエンドロールへの名前記載、主人公から届く手紙などがリターンとして提供されたほか、劇場で販売するパンフレットへひとりひとり名前を掲載したことにより、公開時にはパンフレットが飛ぶように売れたのだとか。

エンドロールに名前が載ると自分も作品制作に携わったという特別な気持ちが芽生えますよね

主人公からの手紙はファン心をくすぐる

利用のタイミングによる目的を明確に

クラウドファンディングの利用タイミングと目的は大きく3つに分けられるという。

1つ目は「プリプロ」。制作費の一部調達はもちろん、企画段階において5~10分程度のパイロット版や短編制作のための費用集めといった目的がある。

2つ目は「クランクイン~公開前」。これには、作品のクオリティアップや宣伝費集めといったねらいがある。

3つ目は「公開中~公開後」。宣伝費や続編制作費に加え、海外展開のための費用を集める目的も。『この世界の片隅に』の場合、企画段階で3374人の支援者から3900万円以上が集まった。そして公開後、海外上映を盛り上げるためにクラウドファンディング第2弾プロジェクトが立ち上がり、初回と合わせて合計7000万円が集まったというわけだ。

ターゲットを明確に定める

プロジェクトの設計には作り手とキュレーターが携わり、クラウドファンディングの戦略とターゲット層が絞り込まれていく。「『この世界の片隅に』は、元々片渕監督がTwitterユーザーであり、自身が情報を拡散する情熱があった。加えて、監督の前作『マイマイ新子と千年の魔法』(2009)の評価がとても高く、新作を待ち望むファンの多さもひとつの判断基準になりました」(中山氏)。さらに本作が広島を舞台にしていたこともあり、キュレーターの人脈によって地元メディアへのリーチに成功。「原作も漫画賞を受賞していて、ファンも多い。さらにアニメーションの新しい可能性を応援したいという業界の方々の支援も受けられそうという見込みもあり、戦略を立てていった」(中山氏)。