一方、VAIOの大田社長は、2015年度の実績についても振り返り、前年比2倍以上という大幅な売上げの増加と、前年度の20億円の営業赤字から黒字転換したことで、2014年度からのV字回復を達成したことに触れたほか、同社が掲げた「自立」、「発展」という目標に対しても「しっかりと実行できた」と大きな成果があがっていることを強調した。

大田社長は、「2015年6月に社長に就任したときに、VAIOの強みを発見し、それを伸ばすことによって成長しようと考えた。VAIOが持つ強みは、設計・製造技術、経験豊かな人材、ブランドの3つである。それを生かすことで、成長することができた」と、この1年の成果を振り返る。

VAIO S13やVAIO S11のLTE搭載モデルが大ヒットし、売上げを牽引するなど全体的な売上げの増加に加え、製造現場や設計現場での細かい効率化の積み上げ、EMS事業が予想以上に早期に立ち上がったことが、黒字化の要因とした。

「自立」への取り組みについては、「自ら作ったものを、責任を持って売らなければ会社ではないという信念のもと、企画、設計、製造から販売、マーケティング、サポートまでの一貫した体制を構築。営業部および技術営業部を設置し、エンジニアが営業現場に出向き、顧客の声を聞き、それを商品企画に反映し、営業担当者に足りない商品知識をカバーする体制を作った。顧客の要求にあわせたキッティングサービスができるのか、できないかも、その場で判断することができる。安曇野の本社にはすべての製造設備が揃っていることから、240人という少ない社員数でありながら、メーカーとしての十分な機能を備えている。

また、収益責任を持つ体制への移行と社員一人一人の意識改革を行ったことも大きな成果。これまでにも売って利益を出さなくてはいけないという意識はあったが、責任と目標が曖昧だった。そこで、ユニット長に営業利益までを含めた責任を持たせ、これを明確化。PC業界ではあまり行われていない各モデルごとの事業計画書と損益計算書を作成し、進捗状況を短期で都度チェックを行うだけでなく、全社員に対して、毎日、前日までの各モデルごとに、販売台数、売上高、販売ルート別の状況をレポート。社員が数値意識を持つだけでなく、なにか問題が発生したときに、すぐに対策を打つことができるようになった。社員の実質的な多能工化も進み、効率化が図れている」と語った。

さらに、「発展」としては、「商品力の強化としては、PCおよびスマホにおいて、道具としての優秀さに加えて、心地よさが仕事の生産性を高めると判断。VAIOとしてのものづくりのテーマを『快』とし、この事業方針を継続していくことになる。また、新規事業領域は、ソニーから独立したこそできた事業であり、様々な業界から、日々問い合わせをもらっている。EMS事業は予想以上のスピードで成長しており、第2のコア事業となっている。PC事業とEMS事業の利益規模を、2017年度には1:1にしたいと考えているが、これをなるべく前倒しで達成したい」とした。

また、販売力の強化についても成果が出ていることについて言及。「国内販路強化では、ソニーマーケティングを通じたソニーストアによる販売に加えて、自らのルートで量販店を通じた販売を開始。販売促進活動もソニーマーケティングに任せていた体制から、自己責任で行うようにした。さらに、自社のECサイトであるVAIO STOREを開設した。これは、すでに投資回収が完了していることから、今後取り扱い製品を拡大していく予定である」とした。

そのほか、現在、法人向けビジネスが半分以上を占めていることを示しながら、「ビジネスの現場の声を反映したVAIOが評価されており、国内における法人向けビジネスが強化されている。現在、コンシューマと定義されているユーザーの用途のほとんどがビジネス用途である」などとした。

PC事業統合、現時点ではなし

さらに、大田社長は、「VAIOはようやく離陸した段階。これからも困難が待ち受けており、挑戦することも多い。社員に向けて言っているのは日々これ改善という言葉」としたほか、「VAIOは、未来永劫、単独で生きていく企業になることを目指す。それを前提にして、事業の幅を広げていくことは変わらない。ただし、PC業界に限らず、製造業全体がどうなるかによって状況は変わる。その点では、統合、提携の可能性は十分ある。だが、現時点では、そういう話はない」と、一時浮上していた他社とのPC事業統合の可能性が現時点ではないことを強調した。