ソフトバンクの狙いはどこに?

それではソフトバンクは何のためにARMを購入したのだろうか。これが、たとえば創立に関与し資本関係にもあり、実際にARM製品を製造しているAppleが購入したのだとすればわかりやすいのだが、ソフトバンクはハードウェアに関する事業を持っていない。

単純に企業価値の上昇を待ち、再度株を公開して利益を狙う投資という考え方もあるが、記者発表会ではソフトバンクの孫正義社長は「10年、20年先を見据えた買い物」であるとして、ソフトバンクのメイン事業に関わってくる戦略的な買収であることを示唆していた。であれば、これからのソフトバンクが目指している市場、すなわちIoTと人工知能に関するものではないか、というのが筆者の考えだ。

孫正義社長は、21日に開催した「SoftBank World 2016」の基調講演でも、IoTと人工知能について熱弁を振るっていた

IoTに関しては孫社長も記者会見で言及しており、近い将来、あらゆる家電にチップが搭載され、スマートフォンなどから制御できるようになったり、クラウド経由でデータを収集できるようになるだろう。現在はルーターやプリンターなど、MIPS系のチップが占めている割合も高いが、これをARMベースで駆逐すれば、ひとつひとつのチップは安くても、莫大な利益が転がり込んでくるようになる。

そしてもうひとつ、人工知能についてだが、こちらは現在はインテルやNVIDIAが高いシェアを占めているものの、Googleなどはさらに機械学習(ディープラーニング)に特化したTPU(Tensor Processing Unit)を開発しており、すでにテストも始まっている。こうした機械学習に特化したチップは、現在でもCPUよりはるかに高い性能をたたき出すGPUコンピューティングよりさらに高いパフォーマンスを発揮すると言われており、人工知能の普及には欠かせない存在になるはずだ。また、こうしたチップはIoT用のものから、サーバーなどで利用する高性能なものまでさまざまな種類が登場することが期待される。現在はサーバー用であっても消費電力効率の高さが重視される時代であり、もともと省電力設計であるARMにとっては優位な点といえるだろう。

ソフトバンクはIBMと組んでいるWatsonなどの人工知能製品をこれからも多く手がけていくことになるはずで、そこにハードウェア面からも自社が優位に立てる製品を投入できるのであれば、非常に効率が高い。ソフトバンクが人工知能に関して、ハードからソフト、そしてシステム全体までを扱える、世界最大のAI総合商社になるための布石。それがARM買収の目的ではないだろうか。