NTTドコモは現在、通信以外の業種において、他社との協業も視野に入れた新事業戦略「+d」を推進している。これまでは農業、医療、保険の各分野でドコモと協力企業の関わり合いや事業に取り組む意義についてみてきたが、今回紹介するサイクルシェアリング事業では、ドコモ自身が子会社を設立して展開するという、これまでとはやや異なる構成の事業となっている。ドコモがバイクシェアに取り組む理由とは何か、ドコモ・バイクシェアの坪谷寿一社長にお話を伺った。
ドコモは社会インフラの会社
ドコモ・バイクシェアは2015年2月に創立し、今年2月に1周年を迎えたばかりの若い会社だ。それにしても、「ドコモ」と「自転車」というキーワードの組み合わせは、いかにも違和感がある。
どうして自転車を選んだのかという問いに対し、「なぜ自転車なんでしょうね。私自身の会社人生の設計図に自転車というのはありませんでしたね」と笑う坪谷社長(以下、発言同氏)だが、元々はフロンティアサービス部において、ポストiモードの新事業、いわゆるスマートライフ事業を研究するさまざまな試みに関わってきた。iモードがパーソナルなサービスであったのに対し、新サービスでは社会インフラに携わるソーシャル系サービスへの回帰を模索している中で、ドコモはヘルスケア、教育、環境、金融といったさまざまなサービスを立ち上げていく。そんな中で、ヨーロッパでサイクルシェア(コミュニティサイクル)の動きが現れる。2012年に開催されたロンドン五輪での取り組みも参考になったという。
ロンドン五輪では、交通渋滞などへの懸念があったが、2010年にボリス・ジョンソン現市長が就任すると同時にコミュニティサイクル「Barkley Cycle Hire(当時の名称)」の導入を決定し、五輪までに第三の交通機関とすることを目指していた。これを参考に、自転車という移動体を携帯電話ネットワークで遠隔監視し、面的な広がりを持ったサービスを提供することで、ドコモが持つ経営資産の活用、低炭素消費社会の実現という面においても、社会性が高い事業になると判断したという。
当初はカーシェア事業に注目?!
当初、坪谷社長は、2000年代初頭に米国でスタートした「ZIPCAR」というカーシェア事業に興味を持ち、研究をしていた。新規事業の提案機会を得た際に、シェアリング事業としてヨーロッパでのサイクルシェアリングも俎上に上がり、当時の経営幹部と検討を進めるなかで、サイクルシェアリングがドコモの取り組む事業となった。当時から、カーシェアは三井物産やオリックスが自社の経営資源を活用し、EVカーシェアリングを始めていた頃で、レンタカー事業との競合点も多かったことも理由のひとつだったという。