今年3月に米国サンフランシスコで開催されたマーケティング関連のカンファレンス「MarTech USA 2016」の基調講演で、主催者のScott Brinker氏は最新版のMarketing Technology Landscapeを発表した。本稿では、基調講演の内容も考慮して、最新版のMarketing Technology Landscapeを読み解き、以前執筆した2016年のテクノロジートレンドを予測した記事をアップデートしてみたい。

前年比87%増のマーケティング・テクノロジーのソリューション数

最新版のMarketing Technology Landscapeでは3874のベンダーロゴが掲載されており、2015年版の1876から単純計算で2倍以上のソリューション増加となった(図1)。Brinker氏によれば、大手プラットフォームベンダーは、複数分野のソリューションを提供しているため、ベンダー数ではなく、ソリューション数として延べ数で換算をしているとのことであった。重複を排除すると、2016年度版のソリューション数は3500弱、対2015年版比で87%の増加だという。

なお、図1にはすべてのソリューションが掲載されており、拡大しても見づらいので、Chief Marketing Technologist Blogで確認していただければと思う。

図1:Marketing Technology Landscape 2016 出典:Chief Marketing Technologist Blog

レイアウトとテクノロジー分類の変更

以上のように、マーケティング・テクノロジーは爆発的に増加しているため、2016年版のインフォグラフィックを作成するにあたり、Brinker氏は分類を見直したという。最終的に、2016年版では「Advertising & Promotion」「Content & Experience」「Social & Relationships」「Commerce & Sales」「Data」「Management」の6クラスタでテクノロジーが分類されている。

2015年版と2016年版を比較すると、最も大きな変更点は、旧版の分類の軸としていた「スタック」の考え方に基づく分類をやめたことだ。2015年版では、「Infrastructure」の上に「Platform」「Middleware」を配置し、さらにその上に「Marketing Experiences」と「Marketing Operations」のアプリケーション群を配置するレイアウトを採用していた。

一方の2016年版では、まず「Infrastructure」のソリューション群が除外された。これは、「データベースやビッグデータ、IaaSやPaaS、開発ツールといった当該テクノロジーがマーケティングに限らず汎用的に利用されているため」とBrinker氏は説明している。

次に、「Platform」に分類されていた「Platform/Suite」がなくなり、各ベンダーが提供しているソリューション群は、それぞれに適した分類に分散配置されることになった。同じく「Platform」に分類されていた「Marketing Automation/Campaign Lead Management」「Web Content/Experience Management」は「Content & Experience」クラスターへ、「CRM」は「Social & Relationships」クラスターへ、「E-Commerce」は「Commerce & Sales」クラスターへ編入されることになった。

さらに、「Middleware」に分類されていたテクノロジー群はアナリティクスのようなアプリケーションテクノロジーと同様に、「Data」クラスターに編入されている。アドテクノロジーソリューションが完全に独立したクラスターに整理されている点も2016年版の特徴と言えるだろう。

この結果、買収・統合を経て、より大きなマーケティング・テクノロジー・プラットフォームを指向してきたAdobe Systems、Oracle、Salesforce.comのようなビッグベンダーほど、ロゴが複数の分野に分散して掲載されることになった。

インフォグラフィックから各ベンダーの市場における存在感の大きさを知ることは難しくなったものの、スタックが不要になったわけではなく、マーケティング部門が体系的にテクノロジーを調達する上でスタックは依然として重要である。

成長している分野と新しく登場した分野

新たなMarketing Technology Landscapeは、マーケティング・テクノロジーが全体として成長中の領域であることを示している。一般に、ある市場に参入しているプレイヤーが多いほど、その市場のベンダー間競争は激しいものになる。分野別にソリューション数の内訳を見たのが図2である。

図2:各分野のソリューション数 出典:Chief Marketing Technologist Blog

ソリューション数が多い分野のトップ5は、「Sales Automation, Enablement & Intelligence (220)」「Social Media Marketing & Monitoring (186)」「Display & Programmatic Advertising (180)」「Marketing Automation & Campaign/Lead Management (161)」「Content Marketing (160)」であり、その他に100以上のソリューションを抱える分野が10分野存在する。

特に「Content & Experience」クラスターには、100以上のソリューションを抱える分野が「Marketing Automation & Campaign/Lead Management (161)」「Content Marketing (160)」の他に3分野がある。もう少し細かい分類が欲しいところだが、1枚に全部のロゴを掲載しなくてはならない制約の関係で難しいのだろう。

一方、プレイヤー数が少ない場合、市場が寡占化している場合もあるが、全体市場が成長している状況では、ソリューション数が少ない分野は新興分野と考えてよいだろう。今回、Brinker氏が新しく追加した分野と見られるのが「Product Management(12)」「Budgeting & Finance(14)」「Activity Based Marketing(16)」である。この3分野の共通点は、マーケティング部門と他部門との協働を支援するテクノロジーである点だろう。

今回のカンファレンスでは、「マーケティング業務へのアジャイルアプローチの適用」が大きなテーマの1つになっていた。アジャイルが製品開発部門で当たり前のアプローチであるならば、早いリリースサイクルにマーケティング業務を同期させることができれば、顧客とブランドとの関係をより良いものに導き、より良い企業パフォーマンスが期待できる。

また、事例セッションでは、マーケティング活動は他部門が理解できるような指標で評価されるべきという意見も聞かれた。マーケティング部門は、活動の透明性を確保するためにも、財務的な指標を積極的に活用していく必要がある。

さらに、B2B企業が優良顧客を開拓するため、ターゲットの選定から販売部門と連携しながら最適の施策を展開するためのビジネスプラクティスがABMである。おそらくこれらの新興分野の製品は、単独で使用するよりも、MA、CRM、アナリティクスを拡張する製品として機能し、連携して使うことで、より高い導入効果が得られる製品として成長していくことになるだろう。